依頼が来た
「用がないなら、解放してほしいんですけど」
テンション下がるわ。
なんで仕掛けたかさえ忘れ去られた魔法陣に引っかかったとか、小悪魔ナッツの黒歴史。
さっさと、なかったことにしたいんですけど。
ご主人様(仮)が、きれいな笑顔でお答えになりました。
「やり方、分かんない」
嘘だろ。
嘘だと言ってくれ。
ナッツ、青ざめました。
ドンドンドン!
うわっ!急にでっかい音がしたから、ビックリしたじゃないか!
私がびくついていると、引き続いておじさんっぽい声がした。
おーい、いないのかー!ルークさーん!
ご主人様(仮)の名前は、ルークというらしい。
ルークは、ひょいっと立ち上がり、私が通ったのとは別のドアに歩いて行った。
何事かと、私も付いて行った。
ちょっと廊下を歩いたら、今度は玄関ドアがあった。
ドンドン叩かれているのは、このドアだった。
「はいはい、今開けるよ」
ルークがドアを開けると、ひげもじゃで動物の毛皮を羽織った大柄なおじさんが立っていた。
「おう、ルークさん。西の町ケンケンによう、魔物が出ただよ。町の警備隊じゃ、手も足もでなくてよう、魔術師に退治を依頼したいんだとよう」
おじさんは、どこだか分からないなまり丸出しで、早速用件を話しだした。
「この人は、猟師のゴンベエさん。凄腕猟師オブザイヤーに選ばれたこともある、本物の猟師だ。得意技は熊撃ち。町や村を流れ歩く有名人で、こういう伝達を依頼される健脚の持ち主でもあるんだ」
ああ、どうも。
意外と律儀なルークが説明してくれました。
「おら、町長さんに、ルークに頼むのは最後の手段にしといた方がいいって言っといただ。ほんでも、一番近いとこにいるルークに頼む、早く来てけろーってことだからよう」
「分かった。よし、行くぞナッツ!」
「はい!?」
ごく当たり前のことのようにルークは私に呼びかけてきた。
あんな成り行きにも関わらず、使役する気まんまんかよ。
ルークは喜々として、コート掛けからマントを取って羽織った。
家を出て、ルークは律儀に鍵をかけた。
「よろしく、ゴンベイさん」
「あいよ」
ゴンベイさんが背中を向けて座った。
何これ。
私が見てる目の前で、ルークはゴンベイさんに背負われた。
ぽかんとするしかない。
「ナッツも早く!」
「え」
「早くしろ!」
私はルークの強い声に、ついつい応じてしまった。
つまりは、ゴンベイさんの首に後ろから腕を巻き付けて、ルークの隣で私も背負われた。
ゴンベイさんは、左右に一人ずつ足をかかえ、器用に二人をおんぶして立ち上がった。
なんじゃこりゃ。
「行くだす」
ゴンベイさんが走り出した。
ぎゃー!
何これ、むちゃくちゃ速い!
小悪魔ナッツ、魔界でもこんな乗り物に乗ったことありませんでした。