Side 鋼苑
10層、骨董屋『隠鬼』の前にピシッとしたスーツを着込み、サングラスをかけた偉丈夫が携帯電話を耳に当てながらペコペコと頭を下げていた。
「あ、はい。鋼苑です。お久しぶりでございます首領ジャルベリ様。本日は……いえ、それでは部下に示しが……いえ、わかりました。はい。異能を消す弾丸ですか?俄かには信じがたいことですが、いえ、決して首領ジャルベリ様を疑っているわけでは……!?大丈夫なのですか!?そうですか。クビワツキ様ですね。わかりました……一層?なぜそのようなところに……はい。わかりました。すいません。私のために首領ジャルベリ様のお手を煩わせてしまって。はい、わかりました。必ずや成し遂げます。はい。では失礼します。必ずや首領ジャルベリ様の……切れてしまいました。」
「電話は済んだかね?」
骨董屋の主人緒弩が鋼苑に問いかける。
昔はボウガンに紐が付いたものを武器として扱っていたらしい。
その武器の名前から自分の名前を決めたそうだ。
「はい、突然失礼しました緒弩様。首領ジャルベリ様からの電話でしたので。」
「あぁ、わかっとるからええよええよ。」
「ありがとうございます。これから私はすることができましたので1層に降りることにします。これから少しの間仕入れができないのですが……」
鋼苑はその体格の割に丁寧な男だ。
挨拶もするし、乱暴な言葉遣いもしない。それに他人を思いやる心をもっていた。
10層の人間にしては珍しい。
「ええよ。お前さんのおかげで今は何も売らんでも3年は暮らせるくらい儲けさせてもらったからの。また帰ってきてくれるならそれ以上のことはない。」
鋼苑はこうして時々緒弩の下に骨董品を譲りに行くことがある。
それをできなくなったことを詫びているのだ。
緒弩はしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして笑い鋼苑を送り出す。
「ありがとうございます。この埋め合わせはいずれ。」
そう言うと鋼苑は青い燐光を残して掻き消えた。
「そういうのはえぇっちゅーのに……まったく。あんないい男上層にだっていないね。」
そう言い緒弩は店の中へ戻っていった。
数分もすれば鋼苑は一層に着く。
「ここが一層ですか。クビワツキ様は何を思ってこのような場所に来たのか……」
10層から1層までを走り抜けた鋼苑はクビワツキを探しながら一層の衛生の悪さ顔をしかめる。
「やはりこのような場所が首領ジャルベリ様の管轄というのはあまり心穏やかではありませんね」
この男、鋼苑は言動からも察することができるがジャルベリ至上主義だ。
ほかの者にも丁寧な対応をするが、ジャルベリが殺せといえばその場で眉を動かすことすらせずに殺すだろう。
クビワツキとはジャルベリを通して知った中で、飲みの時に時々同行する。
ジャルベリの唯一と言っても過言ではない友人であるため一定量の敬意を払っているようだ。
「クビワツキ様のことですから騒ぎのある場所にいるのでしょうね……噂をすれば……」
街の中心近くで何かが爆発するような轟音が響いた。
「手がかりもありませんし、とりあえず行ってみますか。」
呟くと同時に鋼苑の姿がその場から消える。
不思議なことに砂煙や風は一切発生しなかった。
もしこれを見た人がいるなら瞬間移動だと思っても仕方のないほどであった。