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異能の蔓延る高き鳥籠  作者: 十白
1/5

Side クビワツキ

これはバベルの中でのみ展開される話です。

バベルの外には基本的には出ません。

中の人間は外について全く知りませんし、出ようと思う者もいません。

見上げた天井は鉛色で圧迫感を与える。

それは周りの壁につながり完全なる遮断された世界を作り出している。

全100層で構成される塔、バベル。

これが僕たちの過ごす世界であり全てだ。

ひとつひとつの層が暮らすのに不自由ないほどの広さを持っており、上に行くに連れてどんどん質は上がっていく。

最上階はこの世の天国とも言われている。

そして最下層は


「この世の地獄。まさか僕がここに来るなんて思わなかったなぁ」


建物はお粗末な木で作られた物だけで、窓ガラスというものも存在せずただポッカリと穴があいているだけだ。

地面も舗装されておらず路地からは嬌声や怒声が時折聞こえてくる。

法なんてものはほぼなく、やっちゃいけないことは許可なく上の階へ上がろうとすることのみ。

そんな場所に彼、クビワツキはいた。

下層にいる人間は名前を持つことを普通は許されておらず、何か特徴的な物を持つことでそれを名前にしている。

下層民に神はいない。首領(ドン)ならいるが。

彼もまた下の階で生まれた人間の一人だ。

と言っても彼はもう少し上の階で過ごしていたのだが、仕事でヘマをして下に送られたくちだった。

この世界は上に行くのは難しいが落ちるのは簡単だ。

革でできた首輪を気にしながらクビワツキが歩く。

別に目的なんてものはないが、とりあえずここに来たことを首領に伝えるために中心を目指す。

降りるための階段は基本的に層の端に存在し、内側の壁をぐるりとネジを切るようにしてつながっている。

そしてどの層も中央に向かうに連れて治安はよくなる傾向にある。

これは治安維持を目的とした組織の拠点が中心にあるためだ。

上がることは滅多にないため、降りるやつは先住民の洗礼を受けてもどうでもいいし、

階段から降りてきたボンボンとかを狙ってごろつきが出待ちしてたりするのだ。

治安部隊も全ての悪行を止めることはできない。

下層ではなおさらである。

賄賂や横流し、薬なんて日常茶飯事。

三歩歩けば人が死ぬ。十歩歩けば自分の命を狙われるのが下層だ。

1層等の最下層に近い、または最下層はそれが顕著だ。

少し歩けば


「おい、坊主」


絡まれるくらいには。


「はい、なんですか?」


「見た感じ一層に降りてきたばかりのお坊ちゃんって感じじゃねぇか。何かここに何の用だ?」


「仕事でヘマしちゃってね。ちょっと降ろされちゃったのさ。」


クビワツキはそう言い肩をすくめる。


「そうかいそれじゃあ今日からお前さんはこの層の住人ってわけだ。」


服やズボンが擦り切れ、見るからに汚い男は目だけはどこか爛々と輝かせクビワツキを見る。


「まぁ、そうなるね。これからよろしく頼むよ先輩」


「それじゃあ教えてやるぜ……この層の掟ってやつをよぉ!」


男は突然ナイフを抜くとクビワツキに襲いかかった。


「首領に逆らわない程度だったら理解してるけど?」


「ここの掟はなぁ!何が起ころうがァ!自己責にッ!?」


言葉は最後まで続かなかった。

一瞬にして肉薄した男の顎に下から拳銃が突きつけられる。

それはぴたりと静止していて何時弾が出てきても不思議ではない。


「自己責任ってことでいいのかな?」


道でも尋ねるようにクビワツキが尋ねる。


「え……いや、その……」


「まぁ、いいや。中央区に行くにはどうしたらいい?」


「は、いや、あの。この道をまっすぐいけば……こ、殺さないで……」


「まぁ、自己責任だしね。弾ももったいないし、いいよ。ありがとう。」


取り出した銃を胸元にしまうと急にしおらしくなった男の指差した道を歩き出す。

男は妙な叫び声を上げて逃げ出してしまった。


「はぁ……今からどんなお叱りを受けるか戦々恐々だよ。首領も今回ばっかりは怒だろうなぁ……ちょっと壁撃ち抜いちゃっただけなのに。」


そんなことをブツブツとつぶやきながら―そんなことをブツブツとつぶやいているから誰も近づこうとはしなかった。ここの人間は弱者には強いが危機に敏い―歩いていると中央区についた。

ここはある程度地面も慣らされ建物にすきま風があるなんてこともなくなった。といってもまだ最低限の家だが。

そんな中に汚れを知らない真っ白な建物が鎮座している。

周りの風景から切り抜かれたかのようなそれの名は中央管理局。

ありとあらゆる層に存在する唯一層によって質が変わらない建物だ。

窓は歪みのないガラスがはめ込まれており、扉も自動ドアになっている。


「こんにちはー。」


中に入ると白で統一されたホールに出る。

正面が受付になっており女性アンドロイドが対応してくれた。


「市民ナンバー66642番。クビワツキ様ですね。お待ちしておりました。」


「首領に繋いでくれる?」


「はい、それでは8番でお待ちください。」


「わかったー。」


横に並んでいる部屋の8と書かれている場所に入る。

ここは誰かと連絡と取ることができたり、電脳世界に安心して潜る時などに使う場所だ。

今回は前者の使用目的としてここにやってきた。

中は真っ白い四角い部屋だ。中央に回る椅子が置いてある。


「もう少し彼女たちも愛想よければいいのに。もったいない。」


「そう言うな。こっちだってそんなに潤沢ってわけじゃない。」


突然壁にパッと獣をモチーフにしたマスクをかぶった男が現れる。

これはひび割れ、地を這うかのように低い。

それでいて威厳がある声だ。気が弱い人が聞けば倒れてしまうかもしれない。


「おわっと!首領!もうつながってのかい?」


「あぁ、お前が来るのを首を長ァァァァァァァくして待ってたぜクビワツキィ……」


「ま、まぁ。お手柔らかにね。」


「バカ野郎!」


首領・ジャルベリの声が轟く。

獣の咆哮のようなそれのあまりの声の大きさにクビワツキは耳を塞いだ。

ちなみに彼は1層から25層までを取り仕切る男で今回不祥事を起こしたクビワツキとは月に一度飲みに行く程度の仲だ。名前を持つことも許されている。


「ごめんね首領。壁ブチ抜いちゃって。」


「ごめんで済んだら俺はいらねぇんだよ……で、どうやってぶち抜いた。」


「いや、それがね首領!聞いてよ。その時僕がどうやって三丁流をしようか悩んでいたんだ。」


「……またくだらねぇことを。」


「まぁ、君にとっては下らない事かもしれないけど僕にとってはその時はとても素敵なことに思えたんだ。今は4丁できないか考えてる。」


「…………そういう前置きはいいからよ。早く話せよ。俺も暇じゃねぇんだよ。」


「冷たいな首領。月に一度は飲みに行く仲なのに。といってもこれからは一層だからそれも難しくなっちゃったね。あぁ、そうだった。それで僕がなんで壁に穴を開けたかというとね。」


「というと?」


「異能者を射殺しようとしたのさ。」


異能者。その身に人外の力を持ち、それを振るう者のことを指す。

彼らは一瞬にして、人を炭に変えたりひき肉にすることができる。


「お前がそんなことするっていうと、暴走してたのか?」


「うん。どうやら身体を強化するタイプだったらしくてね。一発目が弾かれちゃったから必殺技を使ったんだけど殺すには至らなかったよ。」


「それでその必殺技とやらが勢い余ってぶち抜いたと。」


「話が早くて助かるよ。それに穴といっても弾一発分でしょ?ぶち抜いたっていうのは語弊があるよ。」

暴走というのは異能者であれば全ての者に存在するデメリットのようなものだ。


自らの力に飲まれ、理性を失い人に危害を加える。

ここ、バベルでは暴走したと判断されれば近くにいる制圧できそうな者が制圧することを許可されている。

今回はクビワツキが担当した。


「でかかろうが小さかろうが穴を開けたのが問題なんだよ……それで暴走したのは?」


壁に穴を開けるという行為はこの壁を作った者、つまりこのバベルの最上層に住んでいる統治者に喧嘩を売ってると思われても仕方のない行為だ。下層の民に被害が及ばないように今回クビワツキが一層に閉じ込められた。


「二発目の必殺技で倒したよ。おかげで大損だ。首領。今度の飲みは君が奢ってね。」


「暴走したのはそれでいい……お前の必殺技ってのはなんだ?」


呆れた様子を見せる首領にクビワツキが目を輝かせた。


「やっとそれを聞いてくれたね首領!その必殺技っていうのがね、これだよ!」


クビワツキが見せたのは一発の弾丸だ。特に気になるような所はない。


「それが何だってんだ。」


「これはね首領。異能を消せるんだよ。」


その言葉を聞いた首領・ジャルベリが息を呑む。


「……そいつをどこで手に入れた」


「僕もそれが気になってね。一六層の闇市で手に入れたんだけど。それ以前の経路が全くの不明。調べる前にここに送られちゃったしね。手に入ったのは6発。まぁ、三発は撃っちゃったけどね。」


「一六層……でかい事件ってのはねぇが……そんなもん売ってんのか……」


「もしかしたらたくさんの人が気づかずに持って、撃つかもしれない。パッと見普通の弾丸見えるから。そうなると大変だよ?能力者も一発一発気をつけないといけなくなって。」


「能力者の優位性がなくなる……それはまずいな。見分けるのは難しいか……ってか、クビワツキ。お前それがなんで異能を消すってわかったんだ?」


バベルは能力者が統治する場所がほとんどであり、理由は時には力尽くで叩き潰すことができるからだ。


「それはこの前首領と飲みに行った時だよ。君はその時に水みたいな酒を飲んだよね?」


「あぁ、一杯だけな。おかげであの時は酔いが冷めた。」


「実はあそこのお酒は異能で作ってあるらしくてね。君がちょっと目を外した時に僕が弄ってた弾がポーンと君のコップに入っちゃったのさ」


「……それで?」


「酒の色が変わったから急いで取り出して、取り替えようと思ったら君が飲んじゃうもんだから、どうなるのかなぁとちょっとワクワクして見てたら水だって言うから。もしかしたらってね」


「なんでその時俺に言わなかった?」


「その時はもしかしたら、だったし、教えたら全部徴収されるじゃない?」


「当たり前だバカ野郎!そんな危険な物持ってんじゃねぇ!」


画面の向こうの首領が怒鳴り散らす。


「僕は君と違って異能を持ってないから必殺技が欲しかったんだよぅ……」


「お前は俺を疲労で殺す気か。いいからそいつは俺のとこに送って来い。どういうもんか調べる。」


「わかったよ。命令されちゃあ断れない。」


「必殺技は諦めるんだな……まぁ、穴がなんで開いたのかはわかった。この壁も異能だからな。それで開いたのか。まぁ、お前がまた戻れるような依頼をあとで出しといてやるよ。つってもお前自由に階層行き来してるよな。一六層の闇市とか何しに行ったんだよ。俺のとこに飲みに来るしよ。電脳世界でハックすんのもほどほどにしねぇと身を滅ぼすぞ?」


「まぁ、ね。いい武器を探しにちょっと。」


「……あとで部下共もうちょっと鍛えるか。」


階層を繋ぐ階段は25層まではジャルベリの部下が見張り、不正に移動のないようにしている。


「頑張ってね首領。僕はしばらく一層を見て回ってから戻るよ。」


「戻んなよ。俺が依頼出すまでそこでのんびりしてろ。」


「…………わかったよ首領。君の命れ」


「なんだ今の間は。」


「分かってるよ。僕は一層から出ない。首領は僕を一層から出す。それでいいんだよね?」


「あぁ、これで話は終わりだ。ちゃんと送れよ。」


そう言うとまた真っ白な部屋に戻る。


「分かってるよ。まったく心配性だなぁ。」


クビワツキは扉を出て受付に三発の弾を「首領宛に」と渡すと外に出た。


「さてどこに行こうかな……ん?」

TRPGやってたら書きたくなっちゃいました。よろしくお願いします。

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