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無知ならざる者とは一体何なんだろうか。
「ユージ・タナカは政治的手腕の他にあらゆる武術、魔術にも精通していたそうだ!
特に武術では剣技、魔術では予知に秀でていたと言われている!!」
「予知って、あの未来が分かる?」
「うむ!
予知にも色々あってな、デジャブ、予知夢、占い、神託の4種類に分ける事ができる!!
それぞれ予知の精度が違い、その中でも神託が一番精度が高い!!!」
んー、やっぱり神から教えられるからだろうか。
「一番制約が強く、扱いが難しいのも神託でな!
通常神託を受けるには決まった日、時、場所で決まった服装で儀式をしなければいけないし、聞く内容も回数も決まっている!!
だが、ユージ・タナカは違った!!!
彼は決まった日、時、場所も決まった儀式も何もかも無視して好きな時、に好きな事を何回でも聞く事ができた!!!!
これは通常ではあり得ない事だ!!!!!」
「……ちなみ容姿については何か伝えられているのか?」
「あぁ!
何でも絶世の美男だったとか!!」
頭が良くて顔も良くて強いとは、とてつもないチートっぷりだな。
あれか、召喚補正って奴か?
なら俺にも備わっている可能性が!?
………無かった場合凹みそうだから考えるのは止めよう。
「あー、じゃあ、彼が政治的手腕が凄かったのはその神託も関係するのか?」
「さよう!
ことあるごとに神託を受けていたらしい!!
そして、彼が未来に関する神託を受けたある日、偶々彼亡き後に召喚された勇者の末路を知った!!
彼亡き後、再び魔王が現れ、それにより召喚された勇者がことごとく無駄死にをする未来を!!!」
「はぁ!?
ちょっと待て!!!
じゃあ、俺も無駄死にする予定なのか!?」
畜生!
やっぱり召喚補正なんて物は存在しないのかっ!
思わず聖剣を取り落として机に乗り上げたが、魔王にまぁ落ち着けと手で椅子に押し戻された。
……耳元で落ち着けと叫ばれてキーンってなった。
もう少し声の音量を下げて欲しい。
と言うか叫ばないで普通に喋れないのだろうか。
「未来を知ったユージ・タナカはそうならない様に『無知ならざる者』という法を作った!
『無知ならざる者』とは、その名の通り勇者に何の情報も与えず無知の状態で戦場へ送り出してはならないと言う内容の法だ!!
そこには、最低限の武術や魔術を学ばせ、聖剣や防具を装備してパーティーを組んでから初めて勇者は戦場に出れると決められている!!!
そして召喚した王がそれらを用意することも!!!!」
ちなみに俺は今言われた中で何一つ与えられていない。
あ、聖剣があった。
聖剣は床に転がっている。
………。
勇者は聖剣を放置しておく事に決めた!
話を続ける事にした!
「ちなみに、それを守んなかった場合どうなるんだ?」
「特例を除いてその代の王の妻や子共々公開処刑だ!」
「ヒュー」
口笛を吹こうとしたら失敗した。
口笛の代わりに魔王と俺の間に何とも言えない木枯らしが吹いた。
あれ、ちょっと上手い事言ったかも。
……自分で思ってもの凄く恥ずかしくなってきた。
目の前の魔王が読心術を会得していないのを祈る。
「……ゴホンッ!
『無知ならざる者』も重要だが、いよいよ本題の聖剣について語ろうと思う!!」
「あぁ」
聖剣についてとかちょっと忘れてた。
「その前に喉を潤そうと思うのだが何か所望の茶葉はあるか?」
「……オマカセシマス」
俺のガラスのハートに500のダメージ!
思わぬ所で羞恥心を刺激された。
例えるならミサイルで撃墜した後に核弾頭を撃ち込まれる位。
悶え死にそうだ。