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ジリジリと自称魔王と睨む合いをしながら必死に頭を回転させる。
もし、もしもだ、ここが本当に異世界だったとしよう。
んで、目の前の自称魔王が本当に魔王だった場合。
そうだった場合、俺に勝目は万に一つもない。
喧嘩したことのない、経験値0でいわばレベル1の俺。
装備ったって学校の制服に何かちゃっちい剣。
更には腹痛というハンデも抱えている。
それに対して相手は魔王。
喧嘩というか戦闘の経験値は高そうだし、筋肉モリモリだ。
漆黒という言葉が似合いそうな色の鎧を見に纏っている。
武器は無いみたいで手ぶらだが、それは彼の肉体に勝る武器は無いからだろう。
武器を持つことは逆に彼の弱体化に繋がる。
殴る蹴るに武器は邪魔だもんな。
誰がどう見ても勝目が無いのは明白だ。
ここが異世界だとは信じていないから余り恐怖は感じていないが、負けたら殺されるかもしれない。
じゃあ、逆に、ここが異世界じゃないとしよう。
あまりの腹痛に意識が朦朧としている俺が見ている幻覚だとしたら?
トイレだと思ってしたら実は道のど真ん中だったり、家の廊下だったりしたという可能性がある。
誰にも見られなかったら良いが、もし見られてしまった場合・・・・・・想像したら震えが止まらない。
それだけは、それだけは何としても断固阻止しなければ!!!
正直、下の栓がいつ決壊するか分からない危うい状況だ。
この状況を迅速に解決しなければ。
そんな事を考えていると、魔王が言った。
「来ないのなら、我が輩から行くぞ!!」
「うぇっ、ちょっ、待っ!!」
気が付くと魔王が目の前にいた。
左から俺のこめかみに向かって思いパンチを繰り出してきた。
テンパる俺は足を縺れさせて後ろに倒れた。
その結果、偶然にもこの一撃から逃れる事が出来た。
最初の一撃を避けれたのは奇跡に近い。
次は無いだろう。
多分この後、俺のリンチが始まる。
流石にやられっぱないしは嫌だ。
じゃあ、一か八かで挑んで一矢報いてやる。
先手必勝だ!!
ボロっちい剣をコレまたボロっちい鞘から抜いて前へと突きだす様な格好で構える。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
そして、叫びながら魔王へと突っ込んだ。
そんな俺の攻撃を魔王は鼻で笑い、剣の腹を横から殴って反らした。
そのまま無防備に晒された俺の背中に拳を当てようとした魔王だが、そこで予想外の事が起きた。
魔王の予想では、バランスを崩された俺はそのまま魔王に背を向けた状態で転倒すると思っていた。
だが、勢いの付いていた俺はバランスを崩されたが、剣の重みが変な感じに作用して勢いのままにその場で一回転した。
さながらフィギュアスケート選手の様に。
そして、偶々攻撃に移ろうとしてガードの甘くなった腹に偶々、回転によって出来た一撃が横凪ぎに決まった。
魔王にぶつかった事によって勢いの殺された俺は何とか安定して止まる事ができた。
顔の前で剣を横に倒した状態で構えた感じが何かかっこ良く決まった。
最後に一矢報いるには良い終わり方だ。
満足感が半端ない。
でも、やっぱり痛いのは嫌なので急いで後ろ歩きで魔王と距離を取る。
そして気付いた、魔王の様子が可笑しい事に。
「ふっぐぅ・・・・・・!」
顔を青くさせて腹を両手で押さえ、若干前屈みになっている。
例えるなら数分前の俺と同じ状況だ。
それに対して不思議な事に、俺の方は腹痛が収まっていた。
健康って良いなぁ・・・ととても実感する。
まぁ、いつまた腹痛が襲ってくるか分からないからまだ気が抜けないんだがな。
そんな事を考えている間に魔王の顔色はどんどん悪くなっていく。
不思議に思い、聞いてみる。
「おーい、どうした?」
「お、お前の攻撃・・・中々の物の様だな」
「?そらどーも?」
とりあえず疑問系だが、礼を言っておく。
それにしても、ただ剣が当たっただけで魔王のあの様子は可笑しい気がする。
とすると・・・・・・。
手に握っている剣を見下ろす。
この剣になにか仕掛けがあるのか?