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視界がハッキリすると、辺りは夜だった。
何か、澄んだ紫?みたいな普通じゃあり得ない色の満月が上空に浮かんでて凄く明るい。
目の前にはこう、ドラキュラが住んで居そうな立派な城があり、そこにの前にはやけに好戦的な笑顔を浮かべた、何て言うか・・・・・・・・・すっげぇダンディなじいさんが居た。
シックなスーツを着こなしてと白髪に映える黒いシルクハットを被り、杖を突いている。
立ち姿は正に英国紳士。
世の枯れ専と呼ばれる人たちが見たらこぞって写真を取りたがるであろう。
老いるなら将来こんな風に老いたいと思えるようなカッコイイ老い方だ。
彼と彼の背後にある城と月を一緒に見ると、まるで映画ワンシーンを見ているかのようだ。
じいさんが口を開いた。
一体どんな声何だろうとワクワクする。
「ヌハハハハ!
よく来たな勇者よ!!
魔王の我が輩が相手だ!!!
我が肉体美に見とれながら死んでいくと良い!!!!」
そう言うが早いか、フンヌゥっとマッスルポーズを取ったかと思うと彼の着ていた服の上半身が破れ去った。
服の下には、服が破れ去る前の三倍位に大きくなった筋肉隆々でマッチョなボディが隠されていた。
ダンディな顔の下に規格外のでかさの筋肉の塊。
明らかにこれ顔だけ合成失敗しただろう!!!
と叫びたくなる位違和感たっぷりのミスマッチ加減だ。
うん、何て言うかもう、色々残念である。
俺のイメージした魔王と全然違う。
魔王=美形が様式美ってやつじゃないのか?
いや、確かにダンディだったけども、良い声してるけども。
あの声で普通に喋ったら渋くて良い感じなんだろうが、熱血フィルターがかかるとあら不思議、あっと言う間に暑苦しい熱血ボイスに早変わりである。
例えるなら、アームスト○ング?
夢を砕かれたような、ちょっとしたショックと共に腹痛が蘇ってくる。
しかも、さっきの比じゃない痛みだ。
これはヤバい、事態は一刻を争う。
若干前屈みになりながら目の前の(元)紳士自称魔王に話しかける。
「すんません、その、勝負?の前にトイレ貸して下さい」
見た目は暑苦しいがきっと中身は紳士に違いない。
そう期待しないでもないで話しかけた俺の望みはじいさんの次の一言で打ち砕かれた。
「ふ、だが断る!
トイレに行きたくばこの我が輩を倒してから行くんだな!!」
「いや、無理」
条件反射的に返答する。
だが、無理な物は無理。
だってよく、考えてみてくれよ。
俺、普通の高校生。
喧嘩らしい喧嘩したのは中学生の時位だし、その時は負けた上に手の骨が折れたと言うエピソード付き。
武器だっていきなり、訳の分からん場所で可笑しなおっさんに投げ渡された包丁にも劣りそうな剣だし。
ハッキリ言って勝てる気がしない。
言うならばRPGでレベル1で魔王に挑む状態だ。
あ、今がそうだ。
とにかく、腹痛と言うハンデを抱えている今、俺に勝てる見込みは0である。
「その聖剣で果たしてどのような攻撃が繰り出されるのか楽しみだ!!」
聖剣!?これがか!?
思ってもみなかった衝撃の事実に愕然とする。
いや、まぁ、勇者に聖剣は付き物だが、包丁にも劣りそうなコレが聖剣って・・・・・・ファンタジーなめてるだろ。
「さぁ、何をしている?
来ないと言うのなら、こちらから行くぞ!!」
いや、だから無理だって!!!