6 総選挙といえば、まゆゆ
「現在の魔界には、俺様たち『悪魔族』と『魔人族』『巨人族』『獣人族』『妖精族』の五つの種族がいる。簡単に説明すると、『悪魔族』は魔力に秀でた高尚な種族だ。『魔人族』は悪魔と人間の血が混じった者たちのことだ。人間に対して友好的な者が多い。『巨人族』はデカい。『獣人族』は獣っぽい。『妖精族』はフワフワしている」
「『悪魔族』と『魔人族』以外、適当っすね・・・・・・」
「魔界の住人はこれまで絶えず殺し合い、騙しあい、魔王の座を奪い合ってきた。そして、ここ五万年程はずっと『悪魔族』が魔王の座に着いてきた。そして、俺様の父親である『ガルバディウス・アル=アスタロト』の統治は、現在まで約三千年続いている」
「長いっすね・・・・・・」
「父上はその間、何万人もの魔界の住人を殺め、恐怖によって自らの支配をより強固なものへとしていった。暴君とも呼ばれた父上の支配はこれからも何千年も続くかと思われた--しかし・・・・・・」
アデルは急に俯いて悲しそうな表情を見せた。
「母上が亡くなったんだ・・・・・・それからと言うもの、父上はすっかり塞ぎ込んでしまって・・・・・・」
「それは・・・・・・ご愁傷様です」
「うん・・・・・・」
アデルの大きな目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。すっかり小さくなってしまった彼は、今や母親の死を悼む哀れな少年にしか見えない。何とか、元気づけてあげなくては。
「お母さんのためにも、選挙に勝ちたいんですよね?」
「うん・・・・・・」
「きっと、そんなアデルのことを天国から見て、喜んでくれていますよ」
「そんなことない・・・・・・」
「えっ!? 何でですか?」
「母上は、地獄に行っていると思う・・・・・・」
そっちか。
「母上は本当に強かった。そしてヒステリックで怖かった・・・・・・」
「はぁ」
「そんな母上のためにも、絶対に『魔王』になりたいんだ!」
脈絡がよく分からないが指摘するつもりはない。取りあえず、元気になってくれてよかった。
「で、何で選挙することになったんですか? お母さんが亡くなって、無駄な殺し合いをしたくなくなったとか?」
「そんな訳ないだろう!」
「えっ? 違うの?」
「俺様たち悪魔はみんな殺戮が大好きだ! その根底は変わっていない!」
急に背筋がぞっとしてきた。そうだ・・・・・・忘れてたけど、俺、今命乞いの最中だったんだよな・・・・・・
「で、では、どうして選挙を?」
「この写真を見てくれ」
「--?」
アデルは一枚の写真をローテーブルに置く。これは--!?
「『まゆゆ』っすね」
『まゆゆ』--AKB48の次期エースとも言われる『渡辺麻友』さんだ。アデルと似たような中世ヨーロッパ風の衣装に身を包み、これまたアデルと同じような二本の角を生やしている。悪魔のコスプレか何かだろうか?
「やはり『まゆゆ』に見えるか?」
「え? 『まゆゆ』っすよね? この写真」
「違う。これは母上の写真だ」
「えぇっ!?」
マジか!? 何ちゅう若くて可愛い母親だ!? 羨ましすぎるぞ!
「父上は母上を偲ぶ気持ちから、徐々に『まゆゆ』にハマっていった。そしてとても元気になった」
なんて現金なおやじだ。
「そして、その延長で・・・・・・」
「総選挙にハマったんすね・・・・・・」
もうどうでもいいわ。