3 俺は首相じゃない
「さぁ! この国の『最高権力者』よ! 俺様に選挙の極意を教えろ!」
「ちょ、ちょっと待って! 一つ誤解があるようなんだけど!」
「ん?」
アデルは少し不愉快な表情を見せる。しかし、ここは最初に訂正しておかないと、後でもっと怒らせてしまいそうだ--
「俺、この国の『最高権力者』じゃないですよ」
「な、何だと!?」
アデルは大きな目を更に大きくして驚く。
「だから、俺、この国の総理大臣でもなければ、センターでもないですよ」
「う、うそだ! 確かにシリウスが、お前だと言ったんだ! 間違いない!」
「誰っすか、シリウスって・・・・・・」
ドガーンッ!!
「うお!?」
玄関に取りあえず立てかけて置いたドアが木っ端みじんに爆破された。俺は風圧でまたしても吹き飛ばされる。
「シリウス! 貴様、どういうことだ!?」
「申し訳ありません! 坊ちゃん!」
慌てた様子で玄関から爆破犯が入ってくる。銀髪で切れ長のエメラルドのような瞳をした、どこからどう見ても完璧なイケメンだった。しかし、その耳は長く尖っている--あぁ・・・・・・こいつも悪魔なのか--
「調査に出した下級悪魔の奴が勘違いしたようでして・・・・・・この人間は『最高権力者』ではありません!」
「シリウス! お前ともあろうものが! ちゃんと確認してから報告しろ!」
「申し訳ありません! お詫びのしようもございません! 間違った調査結果を上げた下級悪魔はきっちり処分致しました」
どう処分したんだ--気になったが聞けるわけもない。
「じゃあ、こいつは一体誰なんだ」
「こいつは--」
「お、俺は、タダの一般市民です!」
シリウスとやらが発言する前に、俺は慌てて声を上げた。
「じゃあ、選挙の極意は知らんのか?」
「知りません! 選挙については、興味もございません!」
俺は全力で否定する。これで諦めてくれ! いや、諦めてもらわなければ困る!
「じゃあ、仕方ないな。お前は用済みだ、死ね」
「はぁ!?」
アデルの片手が俺の首に伸びる。俺は済んでのところでその手をかわした--死ね!? 死ねって! 本気か!?
「ほう、なかなか反射神経がいいな。だが、これはどうだ!?」
アデルが口を開くと、何とその中央に光が集まりだした--! ヤバい! ビームが来る--!?
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺、選挙に詳しいです!」
必死に言葉を紡ぎ出す。
「今、選挙については知らないって、興味もないって言ったじゃないか」
「いえ! 知ってます! 興味もあります! 猶予をください!」
俺は必死で命乞いをした。あぁ・・・・・・何でマンションの住民、誰も駆けつけてくれないんだ? 普通、クレームもんだろ、この騒音・・・・・・
「信じられないな・・・・・・舌の根も乾かない内に。なぁ、シリウス?」
アデルはシリウスとやらを横目で見た。
「・・・・・・坊ちゃん、この者が選挙について詳しい、ということは嘘ではないはずです。そして、興味があるということも・・・・・・」
シリウスが俺をギロリと睨む。こいつは、俺のことをどこまで調べ上げてるんだ--?
「どういうことだ!? シリウス!」
「それは、坊ちゃんがこの者から直接お聞きになった方がよろしいかと存じます。では、私はこれで・・・・・・また参ります、坊ちゃん」
「おい! シリウス!」
シリウスはそう言うと、真っ白い閃光とともに俺たちの前から姿を消した。