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82話「勝率」

 

 「……驚いたわ。まさか、こんな意外な協力者が現れるなんて」

 

 「しかし、もしそれが事実だとすれば、月人が地上に送りこんだ間謀という可能性もありますが」

 

 「だったら、自分から正体を明かしたりしないだろ。俺の目的は復讐だ。月人は旧玉兎を捕獲し、都合のいい奴隷になるように作り替えた。その恨みは本物だ。嘘はついてないぜ。紫ならわかるだろ?」

 

 “真実と嘘の境界”でも確かめれば、俺の言葉がどちらに傾いているかなどすぐにわかるはずだ。紫は俺の目を見つめてくる。俺は逃げも隠れもしねえ。

 

 「信じていいみたいよ。というか調べるまでもなく、そのむき出しの憎悪は疑いようがないから」

 

 紫は、蛇や猫でもここまで質の悪い恨み方はしないと付け加えた。八代祟る、だったか。俺の年期はそんなもんじゃないぜ。

 

 「だったら、月の軍事にも詳しいんでしょう? 月人はどんな兵器を持っているのかしら?」

 

 「そうだなあ……しかし、俺が月人と最初に会ったのは、月の開拓が始まった時期なんだよ。そのときに捕まって、改造手術を受け、気がついたら月じゃなくて、なぜか地上にいた」

 

 「あなたって、もしかして私より年上なの?」

 

 なんで紫の奴、嬉しそうなんだ。自分より年上の妖怪がいたことがお気に召したらしい。理由は不明だが。

 俺の知っている月人の軍事情報は限られている。しかも、相当古い情報だ。当てになるかわからないが、一応あげておこう。

 

 「まず、最強にヤバイのが『妖力過活性化電磁波』だ。これを食らうと、妖怪は体内の妖力をかき乱されて、頭が狂う。攻撃範囲から離脱しない限り、防御する手立てはない。使われたら、意識を保っている内に逃げるか、発生源となる装置を破壊しないと」

 

 「精神攻撃ということですか。では、妖獣ではない妖怪には辛いですね」

 

 藍の話によると、妖獣はそれ以外の妖怪に比べて精神攻撃に強いのだという。逆に概念が実体化したような妖怪は精神攻撃に弱い。例えば、紫は“スキマ妖怪”という一人一種族の妖怪である。それと異なり、藍は狐が変化した妖獣である。つまり、藍の理論だと、紫は精神攻撃に弱く、藍は強いということになる。

 これは、物質的な肉体への依存度が影響している。元となる獣の肉体を持って生まれる妖獣は、その肉体に妖力が追加構成されていく形で妖怪化するので、大本の肉体が物理的な攻撃を受ければ大きなダメージを負う。逆に、概念から生まれる妖怪は元となる肉体を持たず、妖力が集まった結果として受肉する。そのため、肉体への依存度が低く、物理的な攻撃を受けてもあまり効かないし、すぐに回復できる。その代わり、自身を構成する妖力が精神に集中しているので、内面に対する攻撃には滅法弱いのだ。

 俺は元が亀なので、妖獣のくくりに入るのだろうか。つまり、精神攻撃には強いはずだ。その俺でさえあれだけの効果があったのだから、概念妖怪に効かないわけがないと思う。

 

 「あと、長距離からでも狙いうちできるレーザー光線な。他にも、強制的に敵を眠らせる催眠電波とかもある。俺が知っているのはそれだけだな」

 

 「はあ、思っていたより厄介な相手になりそうね……ふあぁ……」

 

 紫は眠そうにあくびをしている。月人に対する認識を改めてくれるのならいいが、緊張感がないなあ。本当に大丈夫なのだろうか。

 

 「でも結局、俺は“表側”しかなかった時代の月しか知らないんだ。今、月人がどんな文明を持っているのか正直な話、想像もつかないというのが本音だな」

 

 「そう。じゃあ、最後に聞くけれど、この戦争で私たちの勝率はどのくらいだと思う?」

 

 勝率か。何をもって勝利とするかによるだろう。もし、月人の都市を武力によって制圧することを目標とするのなら、

 

 「勝率十割。俺たちが負けると思うのか?」

 

 「ふふ、随分強気なのね~」

 

 ここで弱気になっては全てが無駄になる。はったりでもいい。たとえ戦う前から絶望的な戦局だろうと、勝利を信じるしかない。

 俺は負けるとは思わない。戦う前に勝つことを諦めれば、その時点で負けたも同然なのだ。ゆえに勝つ。俺は強くなった。永琳に不覚をとったあのときとは違う。たとえどれだけの犠牲が出ようとも、己の命ですら捧げてみせる。すべてはこのときのために、血を吐くような特訓を重ねてきたのだ。絶対に負けはしない。

 

 「そんなに気合いの入った言葉を聞かされては、私たちも頑張らないわけにはいかないわ。ねえ、藍?」

 

 「え、あ、はい、そうですね」

 

 「というわけで、月人の精神攻撃に対抗するための術式符の用意をお願いね」

 

 「ええ!?」

 

 「ちゃんと全部の妖怪に行きわたるように、1000枚作るのよ」

 

 「そんな~……!」

 

 紫と藍は自分の家に帰るようである。スキマを開いて中に消えていった。藍、がんばれ。

 

 「それじゃ、私もそろそろ寝ようかしら、もぐもぐ」

 

 「今から寝ようとする奴の行動には見えないが」

 

 幽々子はどこから取り出したのか、頭ほどの大きさのある巨大おにぎりを食べていた。

 

 「夜食は別腹なの」

 

 「さいですか」

 

 それにしてもよく食う亡霊だ。なんか無駄に疲れた。俺も今日は寝ることにしよう。

 


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