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78話「第三ラウンド」

 

 最初に食らった俺の一撃が効いていたらしい。妖忌は半人半霊。言いかえれば半分は人間の体を持っているということだ。純粋な妖怪ほど頑丈ではなかった。

 

 「申し訳ありません。このような結果で勝負を終わらせてしまうとは」

 

 それでも妖忌の実力に関して、俺は低い評価などできない。勝負が長引かなければ、ちゃんとした刀を装備していたなら、俺は斬られていたかもしれない。それでも負ける気はしないが、俺の暗殺術なら一撃で倒せると思っていた相手にここまで手こずらされた。

 だからこそ、納得ができない。

 

 「だったら、最後にお互いの最高の一撃で勝負し合うってのはどうだ?」

 

 これならスタミナは関係ない。消耗戦に持ち込んで、体力を削って判定勝ちだなんてつまらない。やっぱり、どっちかがぶっ飛ばされなきゃ勝負じゃねえ。

 

 「ふふ……それは望むところですね」

 

 妖忌が姿勢を正す。それは居合の構え。

 

 「葉裏様、貴殿は間違いなく私がこれまで闘ってきた中で最強の相手。その攻撃には少しの迷いも感じません。ですが、強固なる信念は硬く、そして脆い」

 

 「言うねえ。俺の恨みがお前に食えるか?」

 

 俺は狂気を最大限に体内で巡らせる。体から瘴気が噴き出した。頭痛、吐き気、めまい。体調はみるみる悪くなる。だが、俺の心は逆に燃え盛る。憎悪の炎に狂気をくべる。

 今から俺が繰り出す技は、俺が扱える中で最高の一撃。最強ではないが、最高と呼べる技だ。まだ、一度も納得がいく形で成功したことはない。だが、成功しようが失敗しようが、この技を妖忌が破ることはできない。必殺の一撃だ。

 俺が永琳のために考えたスペシャル技を食らうがいい。ここで使うのはもったいないが、練習は必要だろう。

 

 「私の剣に斬れぬものなどありません。貴殿のその“念”、切り捨てて差し上げます」

 

 剪定ばさみを持ってかっこつけても全然きまってねえんだよ。俺の狂気、とくと味わえ。

 

 「殺法『跳白連結・暗瞬兎跳』」

 

 足の裏に反発力を有する力場を作るが、これはただの『黒兎空跳』ではない。その足と力場の間に、圧縮した妖力を挟みこんだ。圧縮が解けることによる爆発と、反発力によって生まれる推進力が相乗する移動術。『黒兎空跳』と『黒白閃兎』の合体技である。

 この移動は、自身の肉体の限界を超えているので、細かな制御などできない。空気摩擦で肌が焦げるほどの速度で駆け出した。

 しかし、まだこれで終わりじゃない。俺はトップスピードを維持したまま、妖忌の周囲をぐるぐると回り続ける。

 

 「……撹乱して不意をつくつもりですか。私には通用しませんよ。貴殿がどんなに速く動こうとも、私は貴殿の“後の先”を取る」

 

 「殺法『跳白連結・空蝉躯投』!」

 

 俺は超高速で走りまわりながら自分の胸の前で妖力をかき抱き、圧縮する。こうして作りあげた特大圧縮妖力弾を抱え込み、俺自身が妖力弾と一体となる殺法だ。最大まで妖力を自分の腕の中に形成し、それをどんどん圧縮していく。無論、俺の肉体もただでは済まない。まさに爆弾を抱えた特攻そのもの。俺自身にもダメージが及ぶ自爆必至の大技だ。

 だが、まだだ。まだ終わらない。全身を炎で焼きながら、俺は妖忌の周囲を走り続ける。

 助走が足りない。もっと加速しろ。これは最高の速度を誇る一撃。

 

 「いくぞおおっ! 殺法『三技一体』……!」

 

 妖忌が深く腰を落とした。俺が向かって来るその瞬間を狙っている。奴の剣なら、俺を捉える事ができるだろう。しかし、それは無駄なこと。

 俺は妖忌に突撃した。

 

 「『二重分身』!」

 

 『黒兎核狩』を繰り出す。超高速で迫る俺の拳を、妖忌は見切った。

 

 「……六道剣『一念無量刧』!」

 

 妖忌のハサミが俺の体を貫いた。それと同時に、前と後ろ、二方向から拳が撃ちこまれる。そこには、二体の俺が存在していた。妖忌が刺し貫いた俺の体の輪郭がぼやけて消え去る。それは残像だ。妖忌の背後から攻撃した方が本物の俺である。

 殺法『三技一体・二重分身』。これが俺の対永琳用の必殺技だ。『空蝉躯投』を使用した状態から、敵に突撃して『黒兎核狩』を撃つ。

 重要なことはこのとき、スピードを維持して走りながら圧縮していた妖力をさらに極限まで固め、自分自身に取り込むことだ。胸の中に受け入れるように超圧縮妖力を叩きいれる。すると心臓が一瞬停止すると同時に、後方に向けて体の中の妖力が押し出される。感覚的には瞬間的幽体離脱。これによって、俺の残像に妖力が宿るのである。『黒兎核狩』を放ちながらこの工程を行うと、あたかも残像が技を繰り出したかのように見える。そのまま、俺自身はすれ違いざまに背後から二発目の『黒兎核狩』による裏拳を撃ちこむ。

 

 もう難しいことは全部省いて簡単に言えば、目にもとまらぬ速さで連続攻撃することによって、術者である俺自身にも俺の残像が見えてしまうのだ。そこからこの技を『二重分身』と名づけた。本当に分身しているわけではないが、これが俺に出来る“分身の術”というわけだ。

 この技を行うに当たって、もっとも心がけていることは、速度である。自分の限界を超えた速度で攻撃を行うこと、これすなわち、自分の認識を超えた攻撃を行うことだ。

 永琳に対して俺は攻撃行動を取ることはできない。一応、攻撃のモーションはとれるが、実際にそれを永琳に当てることはできなかった。ウサ耳によって、思考が統制されているせいだ。この問題を解決しない限り、俺は永琳を倒すことはできない。広範囲に有効な技を使って誤爆するという方法が通用するかもしれないが、それでは確実性に欠ける。相手も馬鹿ではない。そんな遠回しの攻撃など、ひっかかるわけがない。

 どうすればいいのか悩んだ。悩んだ末にたどり着いた答えがこの技だ。つまり、考える前に殴る。一発目の攻撃を行うと同時に二発目の攻撃を俺の認識すら超える速さで行うことができるようになればいい。馬鹿げていると自分でも思う。だが、俺は諦めなかった。

 

 「……失敗か」

 

 やはり、まだ速度が足りない。二撃目を出すとき、意識してしまった。

 前と後ろから同時に同威力の拳を食らった妖忌は、静かにその場に倒れた。

 俺は全身火傷状態である。体力もほとんど使い果たした。妖忌につられるように地面に倒れ、四肢を投げ出した。


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