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61話「タイガープレゼント」

 

 ある日の夜。

 俺は今日こそ奴を仕留めるべく、準備に余念がなかった。そう、トムジェリ3回戦の幕開けである。

 

 「ふへっ、ふへへへ……こいつがあれば、あの肉食ネズミもイチコロだぜ」

 

 俺は我が頭脳の英知の限りを尽くし、ネズミ捕りを開発したのだ!

 ①ネズミ捕りにエサを置きます。

 ②ネズミが出そうなところに仕掛けます。

 ③ネズミが罠にかかります。

 ④おいしくいただきます。

 完璧な作戦である。

 

 「よし、ナズーリンはよく寝ている。やるなら今だ!」

 

 このネズミ捕りは設置したエサにネズミが触れた振動で作動し、強力なバネの力で獲物を挟みこむタイプの罠だ。ネズミ一匹など、これにかかればひとたまりもあるまい。

 エサはネズミが大好きなチーズである。今回はチー鱈で代用する。俺は枕元にネズミ捕りをしかけた。俺の耳よりチー鱈の方がうまいはず。必ずネズミは罠にかかる!

 

 「クククッ! 奴の泣き叫ぶ様が目に浮かぶぜ……おっと、寝る前にトイレに行っておくか」

 

 尿意を催した俺は、とりあえず罠を仕掛けて部屋を出る。今日をもって、俺の真夜中の死闘は終わりを迎えるわけだ。ようやく安眠を手に入れられる。

 用を足した俺は寝室にもどる。そのとき、部屋の中からバチン!と、大きな物音が聞こえた。

 

 「かかった!」

 

 俺は勢いよく障子を開け、罠を確認する。

 そこには、ネズ耳を罠に挟まれ、痛みに悶えるナズーリンがいた。チー鱈を口にくわえている。

 ナズーリンは何も言わない。ただ、無言で痛みに耐えていた。しばらくして、むっくりと起き上がると、布団をずりずり部屋の端の方に引っ張って移動させる。そして、俺に背を向けるようにして寝た。

 

 「私は、君のことが嫌いだ」

 

 「ナズーーリーーン!」

 

 その日、俺はかけがえのない何かを失った。枕を涙で濡らし、耳を肉食ネズミにかじられながら眠りについた。

 

 * * *

 

 俺もこの寺に来て、結構な時間が経った。しかし、一向に妖術符の知識は頭に入らない。ままならないものだ。

 

 「あー、どうすれば覚えられるのかなあ……」

 

 縁側に座り込み、ため息をつく。俺の横に座っていた寅丸も一緒にため息をつく。明るい性格のこいつが悩んでいるところなんてあまり見たことがない。どうしたのだろうか。

 

 「はあ、私もどうすればいいのか」

 

 「寅丸は何を悩んでいるんだ?」

 

 「実は……」

 

 話によれば、もうすぐある記念日があるらしい。それは、寅丸が白蓮に拾われた日だ。もともとこの山の妖怪だった寅丸は、人間に退治されそうになり、命からがら逃げ出したところを白蓮にかくまわれたのだという。それ以来、白蓮の思想を信奉し、毘沙門天という神様の弟子になるまでにいたった。俺は白蓮がこの寺のトップだと思っていたのだが、対外的にはそうでもない。人間から見れば、この寺の神は寅丸が代理を務める毘沙門天であり、そのため寅丸が信仰の対象となっている。白蓮はこの寺の高僧と認識されている。

 だが、それは表向きの事情であり、この寺の主はやはり白蓮なのだ。寅丸は毎年その日がくると、白蓮にプレゼントをあげているという。そのプレゼントに何を贈るのがいいか、ということで悩んでいるようである。

 

 「贈り物ね。いつもは何をあげているんだ?」

 

 「その、あまり贅沢はできないので、手作りの品を作ろうとするのですが、私、不器用なので今一つの出来にしかならないんです」

 

 寅丸はもじもじと小さな声で恥ずかしそうに言う。仕事はバリバリこなしているみたいだが、どうもおっちょこちょいなところがあり、よく落とし物をしてナズーリンにこっそり探してもらうというドジをする。こっそりと言っても俺にさえすぐバレるほど機密性が低いので、すぐに白蓮にも知れ渡って説教されているが。

 

 「確か、お前は『財宝が集まる程度の能力』があったよな? それで簡単にゴージャスなプレゼントが見つかるんじゃないか?」

 

 「この能力は、欲しい物が手に入るというものではないんです。ただ高価なだけの物は贈ってもすぐに蔵にしまわれてしまうと思います。もっと、思い出に残る品を贈りたいんです」

 

 思い出か。俺はプレゼントで真剣に悩んだことなんて一度もない。そう気をもんで考えることだろうか。

 

 「別に難しく考えなくても、白蓮が欲しそうな物を贈ればいいじゃん」

 

 「欲しそうな物ですか……そう思うんですが、聖は何を欲しがっているのか全然わかりません」

 

 それは、確かに。物欲とか捨ててそうだからな。

 しかし、あいつも生きていることに変わりはない。どんなに徳の高い層だろうと、生きている以上、欲は生まれるはずだ。何か欲しい物が必ずあるはず。人間も妖怪も皆平等なんてご高説をブッ垂れ流す高僧様が、腹の下にどんな欲望をため込んでいるのか興味が湧いてきた。

 

 「白蓮の欲しがる物か、気になるな。よし、ここは俺に任せろ」

 

 「え、ど、どうするんですか?」

 

 「ふっふっふ、俺は忍者だぜ? 諜報活動ならお手の物よ。まあ、見てな。俺が白蓮の欲しい物を探って来てやるよ」

 

 「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 さあて、俺もたまにはアサシンっぽいことをしてみますか。

 


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