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59話「邪神召喚の儀式」

 

 「あー、やっぱり胸回りが広すぎるなあ」

 

 俺は雲山にもらったクノイチコスプレ衣装を試着していた。だが、サイズがあわない。巨乳仕様の衣装は俺のちっぱいにサイズがフィットしなかった。

 

 「って、お前はなんてハレンチな格好をしているんだ!」

 

 一輪が顔を赤くして怒鳴りつけてくる。サイズが合わないせいで、服がずり下がって色々18禁あはーんなところが見えてるからな。もともとこの服の露出度も高い。

 

 「雲山、サイズを調整してくれ」

 

 「うむ」

 

 「あと、ピンクは目立ちすぎるからもっと無難な色に」

 

 「万事任せておけ」

 

 雲山は巻き尺を手に、猛スピードで俺の体のサイズを測り終えると、裁縫道具をとりだしてせっせと縫物をし始める。筋肉野郎のくせにこういうところだけ器用だ。一輪は何も言わずに部屋から出ていった。

 

 * * *

 

 唐突だが、俺は今、フラダンスの練習をしている。

 なぜかというと、思い出していただきたい。命蓮寺の妖怪連中に自己紹介したとき、俺は自分の趣味をフラダンスだと言った。ぶっちゃけ、フラダンスの経験などない。あれはその場のノリで口走ったにすぎない言葉。しかし、俺は自分の言質に責任をもつ妖怪だ。というわけで、その言葉を真実にすべく奮闘している。

 

 「あ~ろは~おえ~♪」

 

 体をリラックスさせ、力を抜く。体の関節をやわらーくさせ、手を横に構えた。そして、リズムに乗って、右へ左へゆーらゆーら。

 

 「あ、葉裏。何をやっているんですか?」

 

 そこに現れたのは、寅丸星ちゃん。寅丸は勤勉でいつも白蓮の手伝いをしているので、勉強が終わると遊びに飛び出し、いつも泥だらけになって帰ってくる俺は、他のメンツと比べてあんまり話をしたことがなかった。ちょうどいい機会である。寅丸とレッツ・フラダンス!

 

 「こ~れは~、フラ~ダンス~、という~、おどり~で~す♪」

 

 「へー、そうなんですか。私は盆踊りくらいしか踊ったことがないです。なんとなくゆったりした動きが似ている気がしますね」

 

 「とら~まる~も~、やって~み~るので~す♪」

 

 「面白そうですね。では、一緒に踊りましょう」

 

 寅丸も俺の動きを真似して踊りだした。俺たちは寺の庭を、クラゲのようにユラユラとあてもなくたゆたう。

 

 「もっと~、から~だ~を~、やわ~らか~く~♪」

 

 「は~い~、こうで~すか~♪」

 

 「なんご~く~の~、とろ~ぴかる~な、かんじ~で~♪」

 

 「とら~ぴかる~♪」

 

 二人でフラダンスを踊りながら移動した。そこで、外へ出かけようとしているナズーリンを見かけた。俺たちはナズーリンに踊りながら挨拶する。

 

 「「あ~ろは~おえ~♪」」

 

 「……君たちは、何をしているんだい?」

 

 「なず~りん~、これ~は~、ふら~だんす~という~、おどりで~す♪ いっしょに~、おど~りま~せん~か~♪」

 

 「謹んでお断りさせていただくよ。そんな馬鹿みたいな踊りをやらされるのはごめんだ」

 

 てめえ、フラダンスという高尚な文化を指してバカみたいな踊りだと? ハワイアンに謝れ!

 

 「おま~えを~、とろ~ぴかるに~、してや~ろうか~♪」

 

 「悪いけど、私は君たちに付き合っているほど暇ではないのでね。失礼させてもらうよ」

 

 とりつく島もない。ナズーリンは俺たちに見向きもせずにどこかへ行ってしまった。薄情な奴め。

 せかせかとネズミのように忙しない奴だ。ゆったりと時の流れに身を任せ、自然の移ろいゆくさまをのんびりと感じる。あいつにはその趣がわからないのだ。風流を解しない無粋者は、まあせいぜいキリキリ働いているがよい。

 ナズーリンなど無視して、俺たちはフラダンスを続ける。すると、今度は庭先を掃除している一輪に出会った。また、ハワイアン流挨拶をする。

 

 「「あ~ろは~おえ~♪」」

 

 「また、葉裏は意味のわからないことを……それに、星まで一緒じゃないか」

 

 「こ~れは~、ふら~だんす~、ですよ~♪」

 

 「なんかの呪術の儀式か?」

 

 俺は帽子を地面に叩きつけた。許せねえ。お前らはどいつもこいつも。

 

 「よ、よう~り~、おこっちゃ~だめ~で~すよ~♪ ほ~ら~、あ~ろは~おえ~♪」

 

 「何をそんなに怒ってるんだ? どうせ葉裏のことだから、またくだらないことでも始めたんだろう。星もそんなわけのわからない遊びに付き合ってやらなくていいぞ。まったく、遊んでいる暇があったらお前も少しは寺の仕事の手伝いをだな……」

 

 「くだらないって何だよ……俺は、俺はなあ……ぐすっ……」

 

 「よ、葉裏? なんで泣いてるんだ!?」

 

 俺が嘘泣きすると、一輪が途端に慌てだす。ふっ、このまま俺の巧みな話術の餌食となるがいい!

 

 「俺は、寅丸と一緒に楽しく踊りたかった……ただ、それだけだったのに……それを、くだらないって、何だよ……何なんだよ! ぐすっ、えぐっ!」

 

 「一輪、純粋な葉裏の心を踏みにじって泣かせるなんて、ひどいです! むむむ、これは正義に反します! たとえお天道様が許しても、この私が許しません!」

 

 「え、いや、そんなことを言われても、私はどうすれば……」

 

 「……ってよ……」

 

 「え?」

 

 「……一輪も一緒にフラダンス踊ってよ!」

 

 「ええええ!?」

 

 「そうです! 一輪も私たちとフラダンスを踊るべきです! それが葉裏に対する償いとなるでしょう」

 

 「待て! どうして私がそんなバカバカしい踊りに付き合わなければ……」

 

 「バカって言ったああああ! びえええええん!」

 

 「一輪! ええい、これ以上の問答は無用です! はやく踊りなさい! さもなければこの宝塔があなたの罪を裁くことになりますよ!」

 

 「落ちつけ星! 泣くな葉裏! あああ、私はどうすればいいんだ!?」

 

 一輪はおろおろするばかりだ。もう観念してお前もフラダンス道に堕ちるのだ。この俺が直々に指南してやろう。ふははは!

 

 「……わかった。私も踊ろう」

 

 寅丸が宝塔をファイヤーしそうになったので、一輪はようやく覚悟を決めたようだ。さあ、一輪もレッツ・フラダンス!

 

 「「あ~ろは~おえ~♪」」

 

 「あ、ああ、ろは、おえ……」

 

 「い~ちり~ん、ぎこち~ない~♪ もっと~、りら~っくぅ~すしな~♪」

 

 「あ~、ろは、おおお、おえ~……」

 

 「もっと~、とら~ぴかる~に~、なる~ので~す♪」

 

 「あ~ろ、は~、おえ~」

 

 一輪は恥ずかしがりながらも、律儀に踊る。さすがいいんちょ、義理がたい。噴飯ものだな。俺は必死に笑いをこらえる。

 

 「い~ちり~ん~、その~ちょ~うし~♪」

 

 「いい~、とら~ぴかる~です~ね~♪」

 

 「あ~ろは~おえ~♪ ボソッ(なんで私がこんなことを……確かにやってみるとなかなかに味わい深い踊りだが……でも、こんなところを姐さんにでも見られたら……)」

 

 「あら、みなさん何をしているのですか?」

 

 そこにタイミングよく白蓮登場! 一輪の表情が固まる。

 

 「ね、姐さん!? いや、これはその……」

 

 「なにかの呪術の儀式ですか?」

 

 ビャクレンのこうげき! こうかはばつぐんだ! イチリンに100のダメージ! イチリンはマヒになった!

 

 「ぶーーっ!? あっひゃっひゃっひゃ! 呪術キタコレ! 腹いてーっ!」

 

 「う、ウワアアアアア!!」

 

 真っ白になって小刻みに震えていた一輪は、だんだんと顔が赤くなっていき、最後はこの場に居るのもいたたまれず、寺の外に向かって走り去って行った。

 

 「えっと、私、なにか気に障ることでもしてしまったのでしょうか?」

 

 「ひ~じ~り~、あな~た~もいっしょ~に~、ふら~だんす~を~おどり~ま~しょ~♪」

 

 「あっふあああ! げらげらげら!」

 

 それから俺たちは、白蓮も加わって三人でフラダンスを踊った。楽しかった。

 そして、その日の夜、俺は一輪にしこたま殴られた。

 


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