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20話「重なる不運」

 

 『クイーンデスフロッグを倒したぞー!』

 

 『もう怯えながら暮らす必要はない!』

 

 玉兎たちは女王カエルを倒したことで、浮かれ気分になっていた。何人かの戦士たちは女王カエルにやられてしまったが、むしろ、全滅せずにたった数名の犠牲だけでこの局面を乗り切ったことになる。俺は敵の親玉を倒した英雄に祭り上げられる始末だ。こいつらは能天気でいいよな、まったく。

 

 『どうしたの、ヨウリ。そんな難しい顔して。みんな、あんなに喜んでるのに』

 

 『ロバート、クイーンデスフロッグは今まで姿を現したことはなかったんだよな?』

 

 『そうだよ。クイーンがすべてのデスフロッグの母なんだ。奴らの巣穴の最奥にいて、外に出てくることはない。デスフロッグたちが守っている。だからこそ、こうして倒せたことが奇跡なんだ』

 

 『じゃあ、そんな大事な女王様がどうして無防備にのこのこ出てきたか、気にならないか?』

 

 『まあ、それは気になるけど……何か巣穴から出なくちゃならない事情があったんじゃない?』

 

 『それだ。つまり、女王カエルは何らかの危機的状況に陥って、危険を冒してでも巣穴の外に出ないといけない事情があった。そして、俺はその事情について、予想がついている』

 

 『え!? どういうこと?』

 

 『犯人は人間だ』

 

 『ニンゲン? って、確か、前にヨウリが言ってたアースの種族だよね。うーん、信じられないけどなあ』

 

 ロバートはいかにも眉唾といった表情をする。自分の目で見た物でなければ納得できないのだろう。俺がこいつらの立場なら、それもうなずける。いきなり、天国からやってきた使者が敵の親玉を攻撃しました、と言われても、ハァ?としか答えようがない。

 

 『……だが、ヨウリの意見は無視できるものじゃない』

 

 『父さん?』

 

 そこにジョージがやってきた。手にはクイーンデスフロッグの腹に埋まっていた砲弾の一つを持っている。『金属を加工する程度の能力』を持つジョージに見せれば、これがどういう物か理解してくれるのではないかと思って渡しておいたのだ。

 

 『この金属の塊は、玉兎ではとうてい持ちえない技術で作られている。複雑すぎて俺にも再現できそうにない。ましてや他の村の仲間がこれを作ったとは考えにくい』

 

 『父さんはニンゲンって奴らがいるって、信じてるの?』

 

 『楽観視はできないだろう。それに、ヨウリはこんな嘘はつかない』

 

 『ぼ、僕だってヨウリのことは信じてるさ! なるほど、ニンゲンね……』

 

 今はこの程度の理解でもしかたないか。俺たちはいつか人間と遭遇するときがくるだろう。そのとき、どういう行動を取るべきか、あらかじめ計画しておく必要があるな。

 

 『ヨウリちゃーーーん!』

 

 『ぶぼっ!』

 

 『お姉ちゃん心配したんだからね~!』

 

 モニカが胸で俺を窒息させにかかってきた。まあ、ここ宇宙空間だけど。真剣に考えようとするとこれだからな。変な気負いがないことは、いいことなのかもしれないが。

 

 * * *

 

 村を失くした俺たちは、集まって移動を始めた。元の巣穴は木端微塵に吹き飛び、デスフロッグの死体からあふれる毒で使い物にならない。他の村に移住するしか生き延びる手はない。これだけの数の玉兎を、一つの村に全員が収まるキャパシティはないはずだ。だが、それでも行くしかない。

 しかし、玉兎たちに暗い感情は少なかった。クイーンデスフロッグを倒したという事実はそれだけ彼らの希望になっているのだ。俺たちの一団はくぼんだ灰色の地面が連なる月面をひたすら歩いて進んだ。

 そして、デスフロッグの襲撃から五日が経ったその日暮れ、俺たちは目的地へと到着した。

 

 『な、なんだあれは……!』

 

 玉兎たちは一様に目前の光景に見入っている。そこには銀色の塔が経っていた。サーチライトが辺りを照らし、異様な雰囲気に包まれている。その塔が経っている場所は、俺たちが目指してきた玉兎の村の真上だった。

 こんなことができる連中なんて人間だけだ。その要塞のようなものものしい警戒の様子から見ても、とても友好的に話ができるようには思えない。おそらく、地下の玉兎たちの村はすでに制圧されていると考えた方がいい。これはやばいことになってきた。

 

 『とにかく行ってみよう!』

 

 待て待て。なんでお前らはそんなに考えなしに首をつっこもうとするんだ。自分たち以外の文明との接触がなかった影響だろうか。こいつらの警戒心は薄すぎる。俺が制止する間もなく、玉兎たちは銀の塔に向かって駆け出していく。

 

 『やめろ! とまれ!』

 

 見つかるのは思いのほか早かった。結構な距離はとっていたと思ったのだが、サーチライトがこちらに集まってくる。玉兎たちはその光を見て何を勘違いしたのかはしゃぎだす有様だ。

 そして、塔から何かがやってきた。それは装甲車だった。どう考えても手加減なしだ。攻撃は唐突なものだった。塔から光の線のような物が放たれる。ライトかと思いきや、それに当たった玉兎は肉を焼かれて苦しんだ。ビーム兵器だ。その光の線は容赦なく雨のように浴びせられる。相手が仕掛けてきたことを知ったときにはもう遅い。何人もの玉兎たちがやられていた。

 

 『ちっ! えげつねえことしやがる!』

 

 遠距離からの一斉放射にこちらはなすすべがない。いかに俊足で走る玉兎の戦士たちといえども、光り速さで襲い来るビームの槍には敵わなかった。俺は甲羅にもぐってガードし、近くにいたロバート一家の盾になった。俺の甲羅は三人も隠れられるほど大きくない、というか一人でもいっぱいいっぱいだが、穴を掘ってなんとかした。

 これは早急に撤退するしかない。とにかくビームから狙われない位置まで離れないと全滅してしまう。

 しかし、玉兎たちは未知の驚異的な攻撃を前に恐慌状態に陥っていた。

 

 『……仲間を助けに行く』

 

 この一方的な銃撃戦に、無謀にもジョージは身を投じようとしていた。ロバートとモニカが必死で止める。

 

 『今、外に出たらハチの巣だぜ?』

 

 『そうだよ、父さん、無茶だ!』

 

 『いくらお父さんでも、あんな攻撃、どうにもできないわ!』

 

 だが、ジョージはそれでも止まらなかった。後のことは任せたと一言だけ残し、別れの言葉もなく俺の甲羅の陰から飛び出していく。俺はこの場から動けないので、加勢に行くこともできないしなあ。どうすりゃいんだ、この状況。ビームさえなんとかできればまだ手はあるんだが。

 だが、その悩みは意外にもあっけなく解決した。レーザーの猛攻が突然、止んだのだ。

 


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