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167話「カミカゼ吹く」

 

 ルーミアが使った睡拳、それには確かに驚いた。

 しかし、それでも俺に一発当てるには至らない。まだ眠りの浅いルーミアの睡拳は練度が低い。俺は攻撃を受ける前に気づくことができた。後は黒兎空跳で回避すればいいだけだ。

 とは言うものの、それでは少しばかり芸がない気がする。ここは驚かしてくれたお返しに、こちらも奇をてらった反撃をしてやろうか。

 

 「殺法『腕抜けの術』アンド……」

 

 俺はゴーレムハンドを肩部からパージした。両腕が切り離され、宙に浮いた状態である。何もしなければ腕は重力に従い、地面に落下するだろう。この技は本来、ゴーレムハンドが著しい損傷を負ったときや敵の拘束から逃れるときのために作ったものだ。それを今、この場で使う意味はない。

 だが、俺も何の考えもなしにこんな自分にとって不利になるようなことはしない。腕を切り離したと同時、瞬時に俺はその場でくるりとターンした。

 

 「木遁『根付接合』コンボ!」

 

 体を半回転させた後、間髪いれずにすぐに腕を接着した。要するに、右肩に左腕、左肩に右腕と入れ替えてくっつけた状態になる。なぜそんなことをしたかと言うと、チルノとルーミアの攻撃を同時に受けるためだ。

 ルーミアが突撃してくる間、チルノが何もしないということはない。むしろこれ幸いと挟み撃ちを狙ってくる。俺は今、チルノに背を向けているが、先ほどより大きくなる殺気を感じていた。攻撃が来る気配を察知する。黒白閃兎が俺の背後から飛んでくる。通常ならルーミアと相対するために後ろを向いている俺に、チルノの攻撃を迎撃することはできない。だが、今の俺はそれができるのだ。なぜなら、左右を交換した俺の腕は後ろを向いて構えている!

 チルノが撃った黒白閃兎を黒兎核狩で相殺。その間に接近してきたルーミアの相手をする。

 

 「殺法『黒兎核狩キック』!」

 

 普通は拳によってしか使用できない黒兎核狩。それを極めることにより蹴り技にも応用できるまでに至った。腕を使って打つときのような精度や柔軟性はないが、代わりに威力は高い。まさに俺のところを飛び込んでこようとしていたルーミアの腹に、俺の蹴りが食い込んだ。

 

 「ぽふぅ!?」

 

 パンという破裂音とともにルーミアの姿が消えた。軽く蹴ったつもりだったがルーミアは吹き飛び、湖のほとりの木を何本かをなぎ倒して止まった。そのまま動かなくなる。

 

 「な、なんて攻撃なの。自分の腕を入れ替えるなんて……わざわざあんな気持ち悪い技を使わなくても後ろ回し蹴りをすれば済んだ話だというのに、あえてやるその勇気。さすが、ししょ」

 

 「ウルサス!」

 

 「ぎょえーっ!?」

 

 ついでに余計なことを言いかけたチルノに接近し、拳を叩きこみ、湖の中にぶちこんだ。盛大に水柱があがる。水中だからといって衝撃が緩和されるなどと甘い考えは持たない方がいい。しばらくすると湖面にぷかりとチルノの背中が浮かび、藻のように力なく漂っていた。

 

 「所詮、お前らの力ではこの程度か……」

 

 「待ってください!」

 

 ルーミアとチルノを無力化し、後はまだ戦闘に参加していないみすちーの始末にかかろうかというとき、俺を遮るように声がかけられた。見れば、リグルが立っている。さっきの俺の攻撃で頭を揺らされたためか少しの間、行動できなかったようだが、ここに来て復活した模様だ。

 

 「リグル、まさかお前一人でこの俺を相手にしようと言うのではあるまいな?」

 

 「ふっ、そのまさかだと言ったら……どうです?」

 

 つまらない冗談だ。

 すでにリグルは軽くはないダメージを負っていた。脳震盪の影響も完全に消えたわけではないようだ。ふらつく足取りである。しかも次に何を仕掛けてくるか、すぐにわかるお粗末な構えだった。最初の不意打ち狙いの攻撃と同じく突進だ。対策を考えるまでもない。突進することしか能がないとは、猪か。

 リグルが黒兎空跳を使い、地を蹴った。高速でこちらに接近してくる。俺は即座にその軌道を読んだ。

 

 「まったくお前には学習というものがない……っ!?」

 

 カウンターをきめようとした俺の拳は空を切った。リグルは俺の腕の下をくぐるように背をかがめて転がる。

 黒兎空跳の使用に際して、最も難しい点は「制動」だ。妖力過活性化が意図的にできるレベルになれば、技の始動は案外すんなりといく。問題はその後、急激な推進力を得た体をどのようにして止めるかだ。猛スピードで走る車がブレーキをかけても止まれないのと同じである。事実、俺でさえこの技の直線的な軌道というネックを完全に解決するには至っていない。カクカクした不自然な動きで何とか曲がることができるが、それでも高度な技能を要するのである。

 未熟な道場生たちではこの制動がスムーズにできない。止まりたい地点の手前から急ブレーキをかけて徐々に速さを落とす必要があった。無理に連続で使用しようとすればスリップする。当然、そのような動作には無駄が多い。実戦では大きな隙となる。

 その問題をリグルは越えた。確かに急制動ができている。もっとも、完全な成功というわけではない。止まろうとしたようだが最後でこけた。リグルの体勢は崩れている。だが、それが怪我の功名だった。自分でも予期できなかったのであろう、転倒という事態が偶然にも俺のリグルに対する行動の予想をはずす結果につながった。どうせリグルならここで玉砕覚悟の突進しかできまいという油断もあった。それらの要因が重なり起こった不測の事態。リグルは俺の脇をすり抜けて後ろへと転がった。

 

 「ちっ」

 

 思わず舌打ちが出る。だが、一撃かわしたところで戦局が決したわけではない。奇跡は二度起きない。振り向いて反撃すればいいだけだ。この程度のことで後れを取る俺ではない。すぐにリグルを視線で追う。無様に転倒したリグルはすぐさま次の行動に移られないはず。

 しかし、その予想をも裏切られた。リグルは確かに倒れているが、その手には光があった。黒白閃兎を使おうとしている。そのこめられた妖力から見て、手加減なしの意気込みを感じる。黒兎空跳を終えた直後からすでに準備に入っていたのだ。

 リグルの目から決死の覚悟が読み取れた。黒白閃兎は圧縮形の三技、強力な爆発を巻き起こす技だ。この至近距離で撃てば自分をも爆発に巻き込んでしまう。その意味で、まさに玉砕。自らが傷つくこともいとわず攻撃を仕掛けてきた。そこまでしなければ俺に一撃は与えられないだろうとリグルは判断したのだ。

 すでにリグルは技の初動を終えていた。回避は間に合わない。

 圧倒的な光量に視界が埋め尽くされた。

 

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