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166話「試される力」

 

 みすちーの奇行はさておき、今は戦いに集中する。

 と言っても、ことさら警戒するほどの攻撃は受けていない。チルノはさっきから一本調子で氷弾を飛ばしてくるだけだ。ほとんどダメージはないとはいえ、煩わしくはある。そろそろ反撃に移ろうかとチルノに目線を戻した。

 

 「むっ……」

 

 仕掛けてきた。認識するよりも先に直感が敵の攻撃を知らせる。

 一見して先ほどと何も変わらないように見える弾幕。しかし、何かが違うとわかった。飛来する無数の氷塊。その中の一つに、明らかにチルノの『注目』が集まっていた。不自然な目の動きがある。

 

 「ここか!」

 

 その一点を突き崩す。ガードもせず無防備に攻撃を受けることを止め、構えを取った俺は一つの氷弾に拳を放った。黒兎核狩を使用する。

 着弾と同時に起こる爆発。これは通常弾ではない。黒白閃兎だ。高濃度に圧縮された妖力が爆発のエネルギーに変わる。

 爆発はした。だが、その破壊は俺に届かない。拳によりこちらに向かう威力を殺し、爆風をはね返したのだ。

 

 「ほぉ、『黒白閃兎』の表面を氷でコーティングして通常弾に見せかけるとはな」

 

 「くっ……やはり師匠には通じないようね」

 

 垂れ流していた無数の氷弾は最初からダミーだった。本命はさっきの一撃だ。おそらく、俺がみすちーの行動に気を取られていた一瞬の隙を狙って撃ってきた。通常弾と黒白閃兎では妖力の濃さが違うのでしっかりと観察していれば見分けがつかないわけではないが、戦闘中のわずかな時間でその判断をすることは難しい。氷のコーティングによるカムフラージュと、単調な弾幕により敵の頭の働きを慢性化させたところに織り交ぜた奇襲。悪くない。

 俺はこのような能力の使い方をチルノに教えたことはなかった。つまり、チルノが自ら編み出した技の応用である。常日頃、馬鹿だ馬鹿だと思ってきた奴だったが、こんな機転を利かせられるようになっているとは。

 

 「さあ、次はどう来る」

 

 チルノは弾幕を撃つ手を休めない。今度は隠さず、合間に黒白閃兎を混ぜた弾幕に切り替えてきた。連射ができない黒白閃兎を通常弾に混ぜて使う戦法はセオリー通りだ。同じ騙し討ちが二度も通用しないことはチルノも理解しているのだろう。俺は的確に攻撃を見切り、避けていく。さっきのように拳で迎え撃つ必要はない。

 強引に突っ切ろうと思えば簡単にできた。この程度の弾幕なら軽く突破できる。しかし、俺は様子を見ることにした。さっきの工夫された攻撃のように、まだ何か策を持っているかもしれない。それを見てやろうと、あえて避けに徹する。遊ばれていると感じたのか、チルノは歯がみしている。それでも弾幕を撃ち続ける。攻撃をやめれば俺の接近を許してしまうことは目に見えている。接近戦になれば勝ち目はないとわかっているはずだ。

 チルノがジリ貧であることは明白だった。俺はじわじわと接近していく。打つ手はないようだ。ならば無駄な時間は使わず片付けてしまおう。俺は強く踏み出す。

 しかし、そこで足を止めた。ぞくりと背筋が冷える感覚。それは微々たる違和感だったが、俺は気づいた。ちらと後ろに目をやれば、ルーミアが俺の背後に迫っている。

 

 (殺気がないだと……!?)

 

 この勝負は俺対道場生四人の多人数戦だ。当然、チルノの相手をしている間も俺は他の道場生が攻撃に加わってこないか注意していた。四人は俺と1対1のタイマンではどうしたって勝てないとわかっているのだから、むしろ一斉にかかってこない方がおかしい。

 だが、それだけ警戒していたにも関わらず俺はルーミアの接近に気づけなかった。こと索敵には自信のある俺がである。

 ルーミアはこちらを攻撃する気で近づいてきたことは間違いない。それならば、必ず殺気というものが発生する。敵への害意。どんな暗殺の達人だろうと攻撃の際の殺意を完全に消すことはできない。殺害の意思なく人は殺せないのだ。一流の武芸者というものは、その気を敏感に察知し、不測の攻撃にも対処するものだ。特に俺は能力により、その察知感覚に長けている。今のルーミアにも殺気はある。だが、非常にわかりづらい。それほどまでに極小に抑えこんでいた。これが神経を研ぎ澄ませていた戦闘中でなければ攻撃される直前まで気づけなかったかもしれないと思わせるほどの殺気の消し方だった。

 俺はこの技を知っている。以前に一度、体験した。

 

 (これはもしや、紅美鈴の)

 

 睡・拳!

 

 眠りながらに敵を討つ、太極拳の一翼を極めし伝説の拳法。通常なら戦闘中に寝るという行為は言うまでもなく愚と呼ぶもおこがましいほどの暴挙。まず絶対に不可能である。だが、戦いという興奮状態(交感神経作用)と眠るという休息状態(副交感神経作用)を同時に両立することができた者のみが習得できるという幻の秘技、それを睡拳という。いかなる戦況であろうと無為自然、決して心を乱すことなく、そのまどろみの中に揺れる拳は善なる意も悪なる意も伴わず、ただ泰然自若に突き出される。眠りが深ければ深いほど強くなる、常識破りの技である。

 美鈴から拳法の手ほどきを受けていることは知っていたが、まさかこの技を実戦で使えるほどのレベルに達しているとは思わなかった。はなちょうちんを出し、目は半分開いている。間違いなく睡拳を発動していた。これが気配と殺気を断ち切る技の正体か。

 

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