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165話「雪の降る日に」

 

 「わーい! 雪が降ったー!」

 

 その日は早朝から明るかった。初雪である。夜のうちに少しだけ積もったようだ。草の上を覆う程度の薄い層ができている。雲はあまりないし、べたべたした水っぽい雪で、日が昇れば溶けるかもしれない。

 チルノの喜びようはひとしおだった。朝っぱらから興奮しっぱなしだ。やはり子どもというべきか、他の皆も寒さを嫌うより雪遊びができることを喜んでいるようだ。

 

 「かまくら作るわよ!」

 

 「チルノちゃん、そんなに雪は積もってないよ」

 

 「雪合戦ならできるかもしれませんね」

 

 「食べるのだー」

 

 「よし、そんじゃとりあえず道場外の広場に集合だ」

 

 「「はーい!」」

 

 俺が呼びかけ、道場生たちを外に集めた。今日はどんな修行という名の遊びをするのか、興味津津の様子でおしゃべりしている。俺は珍しく、服を着ていた。

 

 「それで師匠、今日は何をするの?」

 

 「ああ、これから乙羅暗殺拳道場卒業試験を行う」

 

 「へえ、そつぎょ……ふぇ!? 卒業試験!?」

 

 全員、驚いているようだ。それもそのはず、今この場で初めて口にすることである。予想もしていなかったことだろう。

 

 「ついに師匠がアタイたちの実力を認めてくれるときがきたというわけね! 燃えるわ! いや、アタイの場合は冷えるわ、と言うのが正解かしら」

 

 「ま、待ってください! いきなりすぎませんか。どういうことなのか説明してください」

 

 「そのままの意味だ。お前らの技では到底、免許皆伝には及ばないものの、最低限の基礎は習得させた。俺が教えるべきことはもう何もない。ゆえに卒業だ。だが、その前にお前たちの修行の成果を見せてもらおう」

 

 「だから待ってくださいって! 何も今日じゃなくてもいいじゃないですか。ほら、季節的にも卒業シーズンじゃないですし? そんなこと急に言い出すなんて、まるで……」

 

 「言い訳は聞かん。俺がやると言ったらやるんだ。試験は実戦形式で執り行う。準備の時間をやろう。5分後、この場所に再集合するように」

 

 「……」

 

 俺は一方的に告げ、皆に背を向けて湖を見つめる。これ以上の問答は無用、その意気込みを感じ取ったのか、道場生たちは話しかけてこなかった。

 

 * * *

 

 「来たか」

 

 雪を踏む、かすかな音が背後で聞こえた。

 静かに目を閉じ、瞑想していた俺は後ろに振り返る。

 チルノ、リグル、ルーミア、みすちーの四人が俺と対峙するように立っていた。

 

 「ルールは簡単だ。全員、全力でかかってこい。ハンデとして俺は二技連結奥義を使わずに相手をしてやる。俺にお前たちの力を認めさせてみろ」

 

 「もう、何を言っても聞き入れてはもらえないんですね」

 

 「その通りだ。わかっているじゃないか」

 

 「師匠はそういう人ですから」

 

 はらりと雪が落ちていく。これまで俺の無茶に付き合わせられてきた道場生たちは、この流れが覆しようのないことがわかっているようだ。また始まったか、とでも言いたげな微笑を浮かべている。俺も少し口元が緩んでいた。

 それを引き締め、エンジンをかけるためのキー(狂気)を回す。

 空気が変わった。俺の体から呪いの炎と殺気が噴き出し、対する四人は身構える。

 ひとひらの雪が地面に落ちた。

 

 「では、始め――」

 

 俺が言葉を言い終わるより先に、いや、言葉を口にするより先に一人が動いた。リグルだ。こちらの一瞬の隙を突き、黒兎空跳で一気に距離を詰めてくる。初見ならかわせないであろう不意打ち。

 だが、それはこの俺に対してはあまりも稚拙な攻撃だ。

 リグルなら始めにこうしてくると思っていた。難なく突撃してくるポイントを読み、拳を叩きこむ。強烈なカウンターがリグルの顔面にきまった。

 

 「ぐふぁあ!?」

 

 「馬鹿か! 黒兎空跳の軌道は直線的で読みやすいと何度言えばわかるんだ!」

 

 吹き飛び地を転がるリグル。それと入れ替わるようにチルノが攻勢に回った。氷の妖力弾を乱射してくる。

 

 「ふん、この程度の弾幕、避けるまでもない」

 

 チルノの氷弾は俺の体にぶつかるが、ダメージにならなかった。俺の体表面は『呪魂瘴』による呪いの炎が覆っている。炎と言ってもそう見えるだけで実際には火属性はなく、氷弾を溶かす等の効果はない。しかし、敵性妖力に干渉するシールドとしての効力があり、通常弾程度の妖術なら中和して威力を緩和させることができるのだ。加えて怪力を応用した硬気功により体そのものの防御力をアップさせることにより、短時間なら連続被弾にも耐えうる。

 

 「なんて硬さなの!? 攻撃が通らない!」

 

 チルノを無視し、横を一瞥する。その先にいるのはみすちーだ。

 みすちーは調理していた。おそらくさっき与えた5分の戦闘準備猶予のうちに作り上げたのであろう即席の石積み竈のそばで、包丁を振るっている。

 

 「はああああっ!」

 

 普段は穏やかな気性のみすちーが荒ぶっている。目にもとまらぬ速さの包丁さばき。次々にまな板の上の細長い魚をおろしていく。そしてそれをタレにつけ、竈の上の網に乗せて、焼く。うちわで扇ぐ。またタレにつける。

 

 (あいつは……何をやっているんだ……?)

 


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