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162話「知謀深きウサギ」

 

 みんなで竹林へやって来た。チャリで来た。ごめん、嘘。

 竹林の中は濃霧が立ち込めており、見晴らしは良くない。深入りはせず、入り口付近で竹を伐採する。

 

 「はい、スパッとな!」

 

 実際には、手刀でメキャっていう感じである。雑だが、細かい加工は持って帰ってすればいい。とりあえず20本くらいあれば足りるだろうか。

 

 「見て、兎がいるわ!」

 

 俺が竹を切っている間、手持ちぶさたな面々は何かを見つけたようだ。チルノが指差す方向を見ると、兎がいた。白い兎である。

 

 「この兎、逃げませんね」

 

 人間に慣れているのか妖怪に慣れているのか、兎はこちらが近づいても逃げる様子はない。みすちーが撫でても平然としている。

 

 「これ食べるかしら?」

 

 チルノがそこら辺に生えていた雑草を兎の口もとに持っていく。すると、ひくひく鼻を動かして少しずつ食べ始めた。

 

 もしゃもしゃ

 

 「きゃわいー!」

 

 「うまそーなのかー」

 

 「癒されるー」

 

 兎、大反響。その愛くるしい姿としぐさはがっちりと俺たちのハートをつかんでくる。

 

 「あそこにも、もう一匹兎がいるわ!」

 

 チルノがまたしても兎を発見した。一見して癖のある黒髪のショートヘアで桃色のワンピースを着た少女に見えるが、頭についたモフいウサミミから推察するに、まごうことなき兎である。

 

 「これ食べなさい」

 

 チルノが雑草を差し出す。

 

 もしゃもしゃ……ぺっ!

 

 「うわっ、吐き出した!」

 

 「きゃわいくねー!」

 

 「うまそーなのかー」

 

 しかし、その兎少女はチルノのせっかくの好意を踏みにじり、あろうことかリバースしたのだ。

 

 「この健康マスターてゐ様が、ションベン臭いガキ妖精が出した菜っ葉など食べると思ったのかウサ?」

 

 さも当然と言わんばかりに、兎少女はこちらを見下してくる。だいたいウサって……本物の兎が語尾にウサとつけてしゃべるはずがない。つまりこいつはウサギの皮をかぶった偽物。

 

 「お前は何者だ!」

 

 「私はこの竹林の主、因幡てゐ! 私に無断でここの竹を切るとは身の程知らずな妖怪たちウサ。さて、どう料理してくれようかのぅ、ウッサッサッサ!」

 

 どう見ても主の貫録などないロリ妖怪の分際で俺たちに刃向かうとは哀れな。捕獲して飼育し、年中発情期だというその生態について観察・検証されたいか。

 

 「と、してやりたいのは山々だが、こっちも色々と忙しいんだ。これから昼飯の流しそうめんをやるんだ。お前の相手をしている暇はねえ」

 

 「この時季に流しそうめん? 馬鹿なのかウサ? その全裸の恰好からして頭の悪そうな妖怪ウサ」

 

 この時季に半袖ワンピースで靴もはいていない裸足少女に言われたくはない。

 

 「しかし、その心意気やよし! 妖怪たる者、常に常識を打ち破る反骨精神を持つべきウサ。その意味では晩秋に納涼を求める流しそうめん、これは非常にロックだと言えるウサ」

 

 「え、あ、そう」

 

 てっきりボロクソにからかわれるのかと思っていたら、意外な高評価をもらい逆に戸惑う。

 

 「だが、もうひと押しが足りないウサ。より納涼さを欲するならば、流しそうめんだけでは足りない……そこで提案するウサ。肝だめし。あえてこの時季に、しかも妖怪が肝だめしに興じる、というのはどうウサ?」

 

 肝だめしだと。なぜそんな面倒くさいことをしなければ……はっ!?

 

 美少女と肝だめし→怖がる美少女との心の距離が急接近→フラグが立つ→ちゅっちゅ

 

 「やろうか、肝だめし」

 

 「なんですかその思考回路!?」

 

 このいまだかつてない納涼フィーバーを華々しく飾るため、どうしても肝だめしは必要なイベントだ。やるしかなかろう。

 

 「根本的におかしいですって、僕たち妖怪ですよ? それにまだ明るい時間帯じゃないですか。肝だめしが成立する余地なんてありませんよ」

 

 「では、ひとさじのスパイスを加えるウサ。ここに、偶然にも私が持ち合わせていたハチマキがあるウサ。これで目隠しをして竹林を歩きまわれば、少しはスリル感が演出できるウサ」

 

 ナイスアイディアである。目隠しをしていれば、ちょっとくらい度を越したスキンシップに及んでもごまかしがきく。この兎、わかっている。

 気がきくことに、ハチマキはきちんと人数分用意されていた。ここまでお膳立てされておきながら、いまだに納得がいかない様子の道場生たちに目隠しを強要する。ルーミアは自前の闇で目隠し。

 

 「よし、全員装着完了だな」

 

 「本当にやるんですかぁ?」

 

 「ウッサッサッサ……それではこの竹林の主として、肝だめしを楽しんでもらえるよう一助するウサ。盛大に怖がってもらうウサ!」

 

 ゾクリと背筋に悪寒が走った。脳内で鳴り響く警鐘。しかし、本能的に悟る。これは逃げられない。この戦慄、間違いない。

 ギャグ展開の予感……!

 

 「フォウッ!」

 

 響き渡る悲鳴。リグルの声だった。何が起こっているのかわからない。確認するため目隠しをはずそうとハチマキに手をかけるも、なぜか結び目がほどけない。力任せに引きちぎったが、布が目の周りに張り付いたまま残ってしまった。強力な接着剤のようなものが使われている!

 

 「メディーック!」

 

 「メーデェー! メーデ、アッーーー!!」

 

 「オゥマイガッ!」

 

 「ソゥナノカッ!」

 

 次々にあがる阿鼻叫喚の声。何らかの襲撃を受けている。あのウサギ少女の仕業だというのか。ロリっこい見た目をしておきながら、やりおる。

 

 「だが! 視覚を封じた程度で粋がってもらっては困るな……殺法『百見心眼』!」

 

 俺の能力があれば、たとえ目が見えなくても敵の攻撃に備えることなど容易い。来いよ、ロリウサ。返り討ちにしてくれる!

 そこで一歩前に踏み出した俺の足に、何かが巻きつく感覚が走る。足が縄に取られた。しまったトラップかと気づいたときにはもう遅く、俺の体は宙に浮いていた。

 

 「ばかなーーっ!」

 

 引っ張り上げられた俺は、空に向かって高く放り投げられた。なるほど、よくしなる竹の弾力性を利用した罠のようだ。

 関心している場合ではない。目隠しされたままの俺は上も下もわからない状態で吹っ飛ばされてしまった。

 


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