161話「デラックス!ソー!メン!」
ルーミアにSMプレイを教えて遊ぶことにした。視聴者の皆さん、今度こそサービスタイムですぞ。
俺、S。ルーミア、M。
「女王様とお呼びッ!」
「ああ〜ん!」
みすちー監修のもと二徹で作り上げたボンテージを俺は着ている。これ、全裸より気恥ずかしい。
縄でチャーシューみたいに縛ったルーミアを天井から吊るして、俺がひたすら鞭で叩く。SMって、これでだいたいあってるよね?
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「ありがとうございます……そんな言葉は必要ねぇ。なぜなら俺たち淑女は、その言葉を頭の中に思い浮かべたときには! 実際にエクスタシーっちまって、もうすでに終わっちまってるからだッ! わかるか、ルーミア……『ありがとうございました』なら使っていいッ!」
「ありがとうございました!」
* * *
今秋、初めての霜が降りた。湖の岸に紙のような薄氷の帯ができ始めている。季節はもうすぐ冬。空っ風が強い。
「おい、見てみろチルノ! 地面がパリパリだぞー」
道場生たちはこんな日にも外で元気に修行に励む。俺は霜柱を踏んづけて音を楽しむ。いつものチルノなら嬉々として一緒に遊んだだろう。しかし、今日のチルノはいつもと少し違った。じっと俺の方を見ている。
「どうしたんだよ」
「師匠、寒くないの?」
寒くないの?
その一言が俺の胸中深くへ染み込んでいく。よく考えれば、いやよく考えなくても俺は全裸。冷え込んだ寒空の下、全裸。その真実に気づいた瞬間、体感温度が急激に下降していった。
我ながら戦慄する。俺は馬鹿か。この時期に服着てなかったら、そりゃ寒い。よりによってチルノに指摘されるまで気づかないとは。
「ふっ、俺を誰だと思っているんだチルノ……乙羅暗殺拳開祖師範代のこの俺が! 俺の全裸がこんなに寒いわけがない!」
だが、言えない。馬鹿過ぎて寒さを忘れてましたなんて情けないこと言えるか。そんなことをすれば、師匠としての威厳が地に落ちる。心頭滅却すれば火もまた涼し。逆もしかり。つまり、やせ我慢するしかない。
「さすがは師匠ね。アタイのような氷精ではないのに、氷属性に対して耐性をもっているなんて」
「師匠、そんなに暑いなら湖に飛び込んでみてはどうですか?」
リグルにコークスクリューをきめる。いっそのこと寒さに耐える修行とか言って全員マッパにさせるか。いやでも寒くないって言っちゃったのに、それに耐える修行とか矛盾してないか。
「今日のお昼ごはんは、お鍋にしましょうか。あったまりますよ~」
俺が悩んでいるのを察したのか、みすちーが助け船を出してくれた。みすちーさんマジ天使。
「バッキャロー! 鍋なんて暑苦しいもんが食えるか!」
しかし、素直になれない俺の口からは即座に否定の文句が飛び出した。ああっ、なぜ自分の首を締めるようなマネを……
「そ、そうですか? では何を作ります?」
「そうだな……確か俺の甲羅に収納していた非常食に、そうめんがあったはずだ。それにしよう」
「いいですね。あったかいおそうめんにしますか」
「否バウアー! お前は何を言っている。そうめんと言えば冷や! 冷やと言えばそうめん! これ自然の摂理! 良いことを思いついた。さらに納涼さをアップさせるために、流しそうめんにしよう」
ザクザク掘りまくる墓穴。もうこうなったら行くところまで行くしかない。開き直って最高の流しそうめんにしてやろうではないか。今年の夏はやらなかったし、良い機会だ。“俺が断言したッ!”
「さすがは師匠、アタイの大好物である流しそうめんをこのタイミングでチョイスするとは、どうやらアタイと同じクリエイティブな感性の持ち主のようね」
バカの感性な。
「そーめんなのかー」
「えー、絶対鍋の方がいいですって師匠!」
「そんなありきたりな発想しかできないから、お前はいつまで経っても三流の使い手なのだ! 通ならあえてここでそうめん! じゃらじゃら氷も一緒に流したそうめん! よし、この際だ。そうめんを流す台もデラックスに仕上げよう」
めちゃくちゃ長いそうめんスライダーを作り、湖につなげようという一大プロジェクトを立ち上げる。最低でも20メートルは欲しい。それだけ長ければ食事のとき、台の横に点々と間を空けて人が並ぶようになり、二重の意味で寒々しい流しそうめんとなる。
たぶん実際は、どれだけ長くしてもみんな我先にと上流を制しようと動くと思われるので、上の方で団子になりそうだが。
さて、問題はそんなに長い台をどうやって調達するかだ。材料は竹でいいだろう。どこかに手頃な竹が生えている場所はなかっただろうか。
「ああ、そう言えば」
この辺りから見て人間の里を過ぎ、しばらく進んだところに『迷いの竹林』と呼ばれる場所がある。以前、行ってみたことがあるが、見事に迷った。幻想郷における富士の樹海的スポットである。まあ、迷いやすいこと以外に、特に見所はない。
あそこなら立派な竹がいくらでも手に入るだろう。奥に入らなければ迷うこともないから問題ない。さっと行って、さっと帰って来て、台の製作に取りかかろう。