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155話「アナザー・サイド・チルノ」

 

 あたい、チルノ!

 

 霧の湖に住む最強の妖精である。その正体は、みんなも知っていると思うが神話時代の覇者マスターズ・トリプルシックスの転生者であり、このことはアカシック・レコードに関する最上級機密事項である。アタイの使命は現代によみがえった転生者たちとともに、原因不明のノイズを発生させるようになったアカシック・レコードの修正を行い、その謎を解明していくことなのだ!

 

 「さて、今日は禁忌・四十四階層の封印を紐解き、強大すぎるが故に封じることとなったアタイの力の一端をもう一度試してみるわ」

 

 この前、寝る間も惜しんで考えた新しいスペルカードの候補たち。そのあまりに禍々しすぎる力の波動に、完全なる復活を遂げていない今の転生体では行使できず、やむなく封印を施したのだ。今日は何だか胸騒ぎがする。まだ実用化できていない力だが、必要になるかもしれない。

 アタイは居間のタンスの奥に手を突っ込み、漁る。

 

 「あれ? おかしい……ここに隠してたはずなのに」

 

 タンスの中に入っていた一回も着ているところを見たことがない師匠の忍装束や、ユカリン召喚用コスプレ衣装を引っ張り出して奥をよく調べてみたが、やはり見つからない。まさか、何者かによって封印が解かれ、スペカを持ち出されたというのか。まずいことになった。あの力を悪用されれば大変なことになってしまう!

 

 「おい、チルノ。部屋を散らかすんじゃない」

 

 そこに現れたのはアタイの師匠こと、乙羅葉裏。師匠もアタイと同じ転生者の一人にして、かつて666人いた支配者たちマスターズ・トリプルシックスの最高峰、超王六人衆に属した英傑である。何を隠そう、アタイに転生者としての力の使い方を教えてくれた師でもある。この人なら消えたスペカの行方について、何か知っているかもしれない。

 

 「それどころじゃないのよ、師匠! ここに隠してたおいたアタイのスペルカードがなくなってるのよ!」

 

 「すぺるかぁど? ああ、タンスの奥に詰まってた紙クズなら竈の焚き付けに使って燃やしたけど?」

 

 なん……だと……?

 

 「お前なぁ、俺の符術用の紙をちょろまかして下らないことに使うんじゃねぇ。このご時世、紙だって安く手に入るもんじゃないんだぞ」

 

 「あ、あれはアタイの新開発中のスペルカードだったのよ!? それをアタイに無断で捨てるなんてあり得ないわ!」

 

 「また作ればいいだろが。だいたいあの技なんだよ、絶対零度符『時空裂斬永久凍土氷河剣』(属性:氷+闇。世界を切り裂く氷の剣が大気中の全ての熱を奪い去り、時間すらも氷りつかせあらゆるものを破壊する)って……ぷっ。もうそろそろお前もそういうことを大真面目に考えるのは止めたらどうブルアアアア!?」

 

 師匠の顔に握りこぶし大の氷つぶてを投げつける。当然、アタイの怒りはまだ収まらない。師匠は一番の理解者だと思ってたのに……アタイの使命に協力してくれると思ってたのに!

 

 「今まで世話になったわ。これからはアタイ一人の戦いよ。もう誰にも頼らない。アタイはこの道場を出ていく」

 

 「そうか、夕飯前にはちゃんと帰れよ」

 

 「バカッ! 師匠のバカバカバカバカ! もう絶対帰ってこないんだからね! さがしても無駄なんだからね! じゃあね、さよなら!」

 

 こうしてアタイの、己の身一つ長い長い放浪の旅が始まったのである。でも、未練はない。ヒロインはいつだって孤高であるべきだから。

 

 * * *

 

 天才チルノ列伝、第一章「友との出会い」

 

 道場を出たアタイは、とりあえず近くの森に入った。しばらくうろつき、小川を見つけた。ちょうどいい、ここで修行をしていこう。一人きりになり、他の転生者の助力を得られない今のアタイは、早急に戦うための力を手に入れなければならない。

 アタイはその危機迫る状況下で、ある画期的な修行法を編み出した、今。小川にいたカエルを氷漬けにして、手頃な岩の上に乗せる。

 

 「フゥー……スゥー……」

 

 呼吸を整え、身体中の気を丹田に集結させる。そして裂帛の気合いを込めて、握りしめた拳を氷の上に振り下ろした。

 

 「メメタァーッ!」

 

 ドグチアッ!

 結果は失敗。氷は中に閉じ込められたカエルごと、粉々に砕け散る。

 

 「アタイの力をもってすれば、氷を傷つけることなくその下の岩だけを砕くことができるはず……くっ、やはり封印した力を失った影響が大きいみたいね」

 

 だが、ここで諦めるわけにはいかない。アタイは片っ端からカエルを捕まえては氷らせて砕いていく。氷の残骸ばかりが積み重なっていく。

 

 ――いやぁぁぁ――

 

 それはアタイが砕いた氷の数が三桁に達しようとしていたときの出来事だった。森の奥から風に乗って微かな悲鳴が聞こえた気がした。これはもしや、カオスが現れたのか!?

 こうしてはいられない。アタイはすぐさま悲鳴がした方向へと駆け出した。低空飛行のまま木々の間をぐんぐんくぐり抜け、ときに敵の目を欺くために身を隠しながら進んでいく。ほどなくして声を発した人物と思わしき者の姿が見えた。

 

 「いやっ、放してください! だれか助けてぇぇ!」

 

 「ハァハァ! ちょっとだけ、ちょっとだけだから! ね!?」

 

 そこにいたのは醜く肥え太った脂肪達磨妖怪と、少女がいた。なんとその少女はアタイと同種族である妖精だった。どうやら、カオス(アカシック・レコードを狂わす存在)と化した妖怪に襲われているようだ。一刻も早く助けなければ。アタイは妖精に覆い被さろうとしているカオスの背中に向けて氷弾を放つ。

 

 「イテ、イデデデ! だ、誰だ!?」

 

 「そこまでよ、邪悪なるカオス! アカシック・レコード守護転生者であるアタイが裁きを下す!」

 

 「おほっ! 美少女がもう一人登場とか最高ォ!」

 

 「はぁぁ! 偉大なる大自然のアカシック・レコードよ! アタイにチカラを……チェーンジアップ!」

 

 アタイの周囲にアカシック・レコードから抽出された情報が微粒子となって収束し、普段着が分解されるかわりに氷の鎧を形成していく。アタイ専用の転生者バトルコスチューム、『スーパー天才チルノアーマー』である。

 なお、スーパー天才チルノアーマーの形成はとても繊細な作業のため、完全装着するまでに約3分の時間がかかる。

 

 ――3分後――

 

 「おほっ! おほっ! 美少女ヒーロー物の変身シーンと言ったらやっぱり服が脱げるのがお約束でござる! 写真とりまくるでござるよ!」

 

 パシャパシャ!

 

 「よしっ! 変身完了! 覚悟しなさい、カオス。本気を出したアタイの力を見せてあげるわ。正義と断罪の剣を我が手に……レコードブレイカーソード、召・喚!」

 

 説明しよう、レコードブレイカーソードとは。宇宙に満ちるアストラルエナジーによって作り出された、氷の巨剣である。生体認証によって起動するため、アタイにしか扱うことができない。神話時代、世界を混沌の渦に巻き込んだラグナロクに由来している。だが、この剣の能力はそのほとんどが封印されており、アタイの精神の深部に眠るシャドウエンペラーチルノイズムが覚醒しない限り、解放されることはない。

 なお、レコードブレイカーソードの形成にはアストラルエナジーを最大までチャージする必要があるため、完全召喚するまでに約3分の時間がかかる。

 

 ――3分後――

 

 「レコードブレイカーソード、ダウンロード完了!」

 

 ようやく必殺武器の準備ができた。だが、少しばかり手間を取りすぎた。敵の猛攻を許してしまったのだ。

 

 パシャパシャ!

 

 「ぬほぉ! 美少女はどの角度から撮っても絵になるでござる! ハァハァ、もっと、もっと下のアングルから……あれ? オーノー! カメラのフィルムが切れたでござる! 拙者としたことが、一生の不覚!」

 

 敵の攻撃が止まった。いける、反撃のチャンスだ! 肥満眼鏡アブラギッシュ妖怪に剣を向ける。

 

 「その歪んだ心、アタイが修正するッ! ヒィッサァーッツ! 虚空瞬殺暴走氷龍轟天運命修正 パ ン チ !」

 

 アタイの必殺の拳が決まった。脂肪眼鏡妖怪は油汗を撒き散らしながら吹っ飛ぶ。

 

 「ほひぃ! 美少女から暴行されるとかマジご褒美です、デュフフ……」

 

 気持ち悪い笑い声をあげ、森の斜面を転がっていく。そのままフェードアウトしていった。

 

 「ふっ、どうやら他愛もない弱小カオスだったようね」

 

 「あ、あのっ、助けていただいてありがとうございます!」

 

 アタイがバトルコスチュームから普段着に戻ると、先ほどカオスに襲われていた妖精が話しかけてきた。体の大きさはアタイと同じくらいで、目に優しい色合いの、影の薄そうな子だ。

 弱きを助け、強きをくじくが正義。アタイはその妖精に微笑みかける。

 

 ニコポーッ!

 

 「気をつけなさい、カオスの危険はどこにでも存在する。とにかく無事で何よりだったわ」

 

 アタイは妖精の頭を優しく撫でる。

 

 ナデポーッ!

 

 なぜか妖精は顔を赤くして、熱のこもった視線をアタイに向けているような気がする。いや、気のせいだろう。どうやら襲われたショックからは立ち直っているようだ。

 

 「もう心配はいらないようね」

 

 正義の味方は見返りを求めない。救済が終われば黙って立ち去るのみだ。アタイはか弱き妖精に背を向ける。

 

 「待ってください! 私、大妖精って言います! あなたの名前は……?」

 

 「ふっ、それを知ってどうするつもり?」

 

 アタイを見る大妖精の目はキラキラと輝いていた。アタイに憧れを抱く気持ちはわかるが、その思いは純粋すぎる。アタイは彼女が思うほど、まっとうな世界の住人ではない。カオスの修正は醜い闘争の果てにある修羅の道。興味本位にただの少女が踏み込んでいい場所ではない。

 

 「あのっ、わ、私と付き合っ……まずはお友達から始めませんか?」

 

 だから、その申し出は断るべきだったのだろう。

 友達、か。

 今まで、アタイの力を利用しようと擦り寄ってくる低俗な輩はたくさんいたが、道場生以外に友達になろうと言われたことは初めてのことだった。

 こんな青臭い言葉に今さら期待してしまうなんて、アタイもまだまだね。でも、大妖精はアタイにはない何かを持っている気がした。戦闘面ではない、大切な何か。二人でいれば、その答えにたどり着けるかもしれない。

 アタイは大妖精こと、大ちゃんと友達になった。

 

 * * *

 

 天才チルノ列伝・第二章「迫りくる刺客」

 

 アタイは思う。この世界は狭すぎる。

 生まれてこのかた霧の湖で暮らしてきたアタイは、幻想郷の外の世界を知らない。冒険すべきではないか、フロンティアを開拓すべきではないか。

 

 「でも、チルノちゃん、幻想郷の自然から生まれた私たちはこの場所から離れすぎると生きていけないよ」

 

 そう、妖精とは自然の化身。アタイたちは生まれ育った自然がある場所にある程度、拘束される。

 しかし、だからこそここを離れることに意味がある。妖精という種族の限界を超え、より上位の存在へと至るためには必要な試練だ。ひいてはそれが転生者としての覚醒を促し、カオスを倒す力となるはず。

 

 「アタイは決めたわ。外世界アウトサイダーワールドへ行く」

 

 そうと決まれば幻想郷を覆う結界を突破しなければならない。大ちゃんの話によれば、博麗神社という所に結界の“関”があるらしく、そこから外に出られるようだ。

 大ちゃんの案内で博麗神社へと飛ぶ。だが、その途中、森の上空を通過していると不審なものが見えた。森の一角の空気が不自然に揺らいでいる。蜃気楼のようにぼんやりと景色が歪んでいた。

 

 「もしや、カオスが現れたのね!」

 

 「チルノちゃん、どこ行くの!?」

 

 カオスの気配を感じたアタイは森の中に急降下する。そこには三人の妖精がいた。

 

 「わっ!? いきなり何よ! びっくりするじゃない!」

 

 一人はブラウスと赤いロングスカートを着た、金髪を二つリボンで結んでヘッドドレスをつけた妖精。

 

 「まあ、私は気づいてたけどね」

 

 一人はベリーロングの黒髪で頭に大きな青いリボンをつけて、青いワンピースを着た妖精。

 

 「いや、気づいてたなら教えてよ」

 

 一人は黒いリボンのついた白いドレスを来て、亜麻色の髪を縦巻きロールドリルスタイルにして白く丸い帽子をかぶった妖精だ。

 その三人は、カエルの足によった草で作った紐を結びつけて逃げられないようにし、水溜まりを泳がせて遊んでいた。

 

 「ひどい、カエルがかわいそう……動物虐待だよ!」

 

 大ちゃんが妖精たちに対して怒っている。

 確かに無力な弱者をいたぶる行為は正義に反する。恐らくこの妖精たちはカオスの影響で精神を病んでしまったに違いない。

 

 「早く弱き者たち(カエル)を解放しなさい。さもなくば、痛い目にあってもらうことになるわ」

 

 「もしかして喧嘩売ってるの? 命知らずな。どうやら私たちが誰かわかってないみたいね……」

 

 妖精三人は素早い身のこなしで隊列を組む。

 

 「輝ける日の光。三妖精の頭脳にして、幻惑の光の使い手、血染暁サニーミルク!」

 

 「降り注ぐ星の光。巧みな無窮の探索者、そして三妖精の頭脳、死兆星スターサファイア!」

 

 「静かなる月の光。音もなく忍び寄る悠久の暗殺者の攻撃に気づいた時はもう手遅れ、殺戮月光ルナチャイルド!」

 

 「「「我ら、人呼んで『妖い三連星スリーフェアリーズ』!」」」

 

 決めセリフと決めポーズは、ばっちりだった。この三人、見かけによらずなかなかの転生力を持っているようね。あなどれないわ。

 

 「あなたたちを倒して、私らの子分にしてあげる。光栄に思いなさい」

 

 「でもそれだと、“三”連星にならないんじゃない?」

 

 「なら、『妖い三連星withおまけ』にすればよくない?」

 

 「それいいかも」

 

 「好き勝手なことを言ってくれる。やはり、戦いの中でしか語り合うことができないか。ならば、アタイも力を示そう。我が秘めたる力、刮目して見よ! オォォ! 偉大なるアカシック・レコードよ! アタイにチカラを……チェーンジアップ

 

 アタイの周囲の大気が氷りつき、結晶化していく。

 

 「えっ!? なにそれ! 冷やっとしてきたわ!」

 

 三妖精は突然起きた異変に狼狽している。今さら慌てたところで遅い。アタイは普段着の外装を解除して、スーパー天才チルノアーマーの装着に取りかかる。

 

 「す、すごい。みるみる氷の鎧ができあがっていく!」

 

 スーパー天才左手の親指の爪アーマー、装着完了。スーパー天才左手の人差し指の爪アーマー、装着完了。スーパー天才左手の中指の爪アーマー、装着完了。

 

 「みるみる……」

 

 スーパー天才左手の親指の第一間接アーマー、装着完了。スーパー天才左手の人差し指の第一間接アーマー、装着完了。

 

 「……」

 

 スーパー天才左手の手のひらの頭脳線の上部アーマー、装着完了。スーパー天才左手の手のひらの生命線の上部アーマー、装着完了。スーパー天才……

 

 「あれ、完成するまでにめちゃくちゃ時間かかりそうじゃない?」

 

 「どうする? 待つ?」

 

 「この隙に仕掛ければ簡単に勝てそうよ」

 

 フッ、敵は相当焦っているようね。アタイの変身を見てなりふり構ってはいられなくなったようだ。しかたない、アタイは変身スピードを極限まで上げた。

 スーパー天才左手の親指の下のなんかふくらんでるところアーマー、装着完了……

 

 「待ってください! チルノちゃんは変身してからが強いんです! たぶん、後5分くらいで終わると思いますから」

 

 「はぁ? そんなに待てるわけないでしょ!?」

 

 す、スーパー天才左手の手首の……

 

 「馬鹿な妖精だわ。私たちの協力技で仕留めてあげる。光栄に思いなさい、『フェアリーオーバードライブ』!」

 

 三妖精はジェットでストリームな感じの合体技を繰り出そうとしている。一方、こちらはまだ天才チルノアーマーの装備が整っていない。アタイは、アタイはどうすればいいというの。

 絶体絶命のピンチ。もうあの手を使うしかない。あの禁じ手を使うしかッ……

 

 ブチッ

 

 「ふざけんなこの早漏ビ●チどもおおおおおおアアアア!!」

 

 最後の手段:逆ギレ

 

 アタイのアーマーは形成途中で集中が途切れたために解除されて霧散し、全裸になってしまった。怒りを抑え切れず、サニーミルクに向かって突進。そのブラウスに手をかけ、一気に引き裂く。

 

 「きゃあああ!」

 

 「ヒーローの変身タイムとロボの合体変形タイムと言えば絶対不可侵の聖域だろがあ! お前らがやろうとしたことは切腹しようとする武士が辞世の句を詠んでる最中に介錯するがごとき蛮行!」

 

 サニーレタスのブラウスのボタンがはじけ飛び、ブラもつけていない二つの小さなふくらみの上の桜色の【自主規制】がさらけ出される。

 次の標的はスターサファイアだ。虎の構えで飛びかかり、そのスカートを強引に剥ぎ取る。

 

 「だめえええ!」

 

 「待てと言われてなぜ待てない!? お前らはエサを目の前に出されてアホみたいにヨダレを垂らしながらでも“待て”ができる犬っころ以下かあ! キャンキャン鳴いてみなさいよ、この雌犬っ!」

 

 スターサファイアのスカートを破り取り、現れた水色の縞パンを躊躇なく引きずり下ろすと【自主規制】と【自主規制】が【自主規制】った。

 最後の獲物は血相を変えて逃げようとしているルナチャイルドだ。押し倒して馬乗りになり、服をむしり取っていく。

 

 「や、やめっ…むぐぅ!?」

 

 そして有無を言わせずルーミア直伝のディープKISS。やわらかい栗みたいな口しやがってる口にアタイの【自主規制】で、ルナチャイルドの【自主規制】、奥まで【自主規制】。糸を【自主規制】。初めは必死に抵抗していたルナチャイルドも、しばらくすると息絶えたように大人しくなった。

 アタイの逆鱗に触れ、三妖精は全滅した。

 

 * * *

 

 天才チルノ列伝、最終章「黒幕との決戦」

 

 いけない、アタイの内なるもう一人の存在、シャドウエンペラーチルノイズムが発動してしまったようね。暴走モードから正常な精神状態に戻ったアタイ(全裸)は、サニーミルク(全裸)、スターサファイア(全裸)、ルナチャイルド(全裸)に説教をした。それにより三人のカオスは浄化された。心を入れ替えた三人には、これからアタイの指導のもと、正しき転生者の在り方を学んでいって欲しい。

 三妖精が仲間になった。

 

 「なんでこんな奴の子分にならなくちゃいけないのよ」

 

 「それ以前に、まず服を着させて」

 

 「私のファースト……」

 

 とにかく、紆余曲折はあったがこうしてアカシック・レコードの導きにより5人の妖精が集まった。

 

 「さあ、みんな、行きましょう。幻想郷の外へ。カオスの謎と冒険が待ってるわ」

 

 アタイたちの絆があれば、どんな困難にも立ち向かえる。これから目指す外世界アウトサイダーワールドでもやっていけるだろう。

 

 『デュフフフ……馬鹿な妖精たちでござる。雑魚が何匹集まったところでたかが知れている。外の世界へ出るなど夢のまた夢でござるよ』

 

 「誰ッ!?」

 

 だが、その矢先に不穏な謎の声が聞こえた。声はすぐ近くからした気がする。アタイは声がした方向へ走った。茂みの奥に何者かが潜んでいる。

 

 「お、お前は……!」

 

 「ドゥフッ、また会ったでござるね、妖精のお嬢ちゃん。おやおや、他にもかわいらしい幼女がいっぱいいるようで。しかも裸とは拙者、眼福でござる」

 

 現れたのは、さっき大ちゃんを襲おうとしていた中年頭髪薄眼鏡メタボ妖怪だ。こいつは幼い女子の服を無理やり脱がせてワイセツな行為に及ぼうとした最低の変態。しかし、アタイが確実に修正して倒したはずのカオスだ。なぜ、ここにいる。しかも、さっきとは纏う雰囲気が違っている。

 

 「なにこの気持ち悪いの」

 

 「こっちみんな」

 

 「デュフフ、そう言えば自己紹介がまだでござった。拙者の真の姿をご覧にいれよう。ハッ!」

 

 変態妖怪が気合いを入れると、ボフンと白い煙が立ち込め、たちまち視界を埋め尽くす。煙が晴れると、そこには変態妖怪の代わりに人間二人分はありそうなほど巨大なガマガエルがいた。

 

 「なななな、なんなんですか、このカエルはーっ!?」

 

 「拙者、妖怪の山の妖怪蛙大将、大ガマと申す。子分のカエルたちがとある妖精によって三桁にのぼるほどの数を殺されたようで、その仇討ちに参った次第。下手人捜しのため、こうして小妖怪の姿に化けて探っておったでござる」

 

 「わ、私たちはちょっとカエルで遊んでただけよ!」

 

 「(そういうことは黙ってればいいのに)……ともかく、どこの馬鹿な妖精の仕業か知らないけど、私たちには関係ないことだわ」

 

 このカオス……強い……!

 アタイの第六感が危険を訴えている。最初は弱いと思っていた敵が倒された後で思わせ振りに再登場するとか、展開的に見て強敵であるに違いない。

 アタイは腕に刻まれた魔道具アーティファクトを起動させる。

 

 「チルノちゃん、その腕の落書きは何?」

 

 「これは魔道具『カオスチェッカー』よ。万事万物を記録するアカシック・レコードにアクセスし、膨大なデータを元にカオスの強さを数値化して表すことができるの。カオスチェッカー、セット! プィーンカタカタカタピピピピブァー、解析中、解析中……ピボーン、プスプス!」

 

 何ですって!? カオスチェッカーが壊れてしまった。つまり、敵の強さは測定不能の域に達しているということ。カオス度が200%を超えている。災害クラスのカオスだと言うの!?

 

 「あの、私たちはあなたが捜している妖精とは違いますので、お引き取り願えますか?」

 

 「ふむ、確かに疑う証拠はないでござる。しかし、これ以上下手人を捜し回るのは面倒臭い。そこで拙者、目についた妖精を片っ端から仕置きすることに決めたでござる。手始めに、うぬらを倒すでござる。覚悟するでござる」

 

 なんという暴論。知性的な会話はできても、残虐な本性は隠せないか。もとよりカオスと転生者は相容れぬ存在同士、戦いで決着をつけるしかない。

 

 ぺろんちょぱくっ!

 

 「……え?」

 

 しかし、闘気を上げようとしたアタイは敵の一瞬の攻撃に、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 巨大カエルの口が開いたかと思うと細長い舌が高速で飛び出し、三妖精の一人を捕らえると、あっという間に口の中へ引きずりこまれて行ったのだ。

 

 「そんな……ルナが食べられちゃった」

 

 「に、逃げるわよ! サニー! あっ、危ない!」

 

 ぺろんちょぱくっ!

 

 「サニー!」

 

 ぺろんちょぱくっ!

 

 三妖精がやられた。三人を飲み込んだカエルの腹はパンパンに膨れ上がっている。だが、まだ食事を止める様子はない。

 

 「ち、チルノちゃん、助けっ」

 

 ぺろんちょぱくっ!

 

 「大ちゃん!」

 

 そして、大ちゃんが消えた。カエルの舌に巻き付かれ、悲痛な表情でアタイに手を伸ばし助けを求める光景が目に焼きつく。その伸ばされた手を、アタイはつかむことができなかった。

 

 「ゲッフッ! さあ、おぬしで終わりでござる。おとなしく拙者に食われるがいいでござる!」

 

 ぺろんちょ!

 

 カエルの舌を避けられない。アタイの体をぐるぐるに縛り、拘束してくる。美少女戦士はぬるぬるした細長い触手のようなもので動きを封じられるとパワーアップしない限り自力では脱出できないの法則により、アタイは抜け出すことができない!

 

 「くうっ、はなせーっ!」

 

 カエルは下卑た笑みを浮かべながら、今までと違ってゆっくりと舌を口内へ戻していく。アタイがもがく姿を見て楽しんでいるのか。胸が悔しさでいっぱいになる。

 アタイはどうなってもかまわない。だけど、敵に飲み込まれた仲間たちだけは助けたい。せっかくこれからみんなで冒険ができると思っていたのに。こんな終わり方は嫌だ。だから、ここでやられるわけにはいかない。アタイの大切な仲間を失うわけにはいかない!

 

 「誰かッ、誰か助けてぇーーーーーー!!」

 

 その願いは、奇跡のように天に届いた。

 

 ヒュン、クルクルクルクル……スパッ!

 

 「にゃ、何事でござる!?」

 

 突然、彼方から回転しながら飛来した物体がカエルの舌を切断した。アタイは拘束から解放される。

 飛んできた物、それは短剣だった。その折れた黒い刀身には見覚えがある。この短剣の持ち主は――

 

 「いいタイミングだったみたいだな。乙羅葉裏、ただいま見参。ってか?」

 

 「シショー!」

 

 見上げた先、木の枝に立つその少女はまさしくアタイの師匠(全裸)。どうしてこんなところに師匠が。

 

 「まったくお前ってやつぁ、いつまでも経っても手のかかるガキだぜ。言っただろ、夕飯前には帰ってこいって」

 

 そうか、忘れていた。アタイにはかけがえのない仲間がいる。師匠、ルーミア、みすちー、リグル。アタイは一人じゃない。みんながいる!

 

 「おい、このエロガエル野郎、俺のかわいい弟子をペロッペロ舐め回すとは許せねぇ。そのブクブク肥え太った腹、少しスリムにしてやろうか?」

 

 「小妖怪風情が生意気な! まとめて食ろうとやるでござる!」

 

 巨大カエルが師匠に向かって舌を発射する。舌は先ほど切られたはずだが、攻撃によどみはない。空中を舞う舌は、鞭のように自在にしなる。

 しかし、舌が到達したその場所に、師匠の姿は既になかった。

 

 「殺法『黒兎核狩』!」

 

 一瞬でカエルの前に移動した師匠は黒く光る拳を突き出していた。強烈な一撃がカエルのパンパンに膨れ上がった腹に食い込む。

 

 「ごばぁ!」

 

 ピチューン

 

 師匠はまだ手を休めない。くの字に体が折れ曲がったカエルに追撃をかける。

 

 「殺法『黒兎空跳蹴り』!」

 

 超速の移動術、『黒兎空跳』の走り込みの勢いをそのままに、両足を揃え前に蹴り出して放たれたドロップキック。それがカエルのパンパンに膨れ上がった腹に直撃する。パンパンに膨れ上がった腹の内部までシェイクする!

 

 「ぬびぁ!」

 

 ピチューン

 

 カエルの巨体は吹き飛び木のにぶつかった。衝撃で折れた木の太い幹が、師匠の攻撃の強さを物語っていた。

 

 「次でトドメだ! 行くぞ、チルノ! 手を貸してくれ!」

 

 「え、でも、アタイじゃ足手まといに……」

 

 「バカヤロウ! 俺とお前が力を合わせれば強さは無限大! どんな敵だって倒せる! そうだろ!」

 

 「……そうだったわ。アタイとしたことが、弱気になってた。行きましょう、共に!」

 

 「俺の拳に手を重ねろ、チルノォォ!」

 

 

 「わかったわ、シショォォ!」

 

 感じる。師匠の熱い鼓動が、手を通して伝わってくる。これが師匠の転生力。アタイはその力に自らの力をシンクロさせる。

 走り出す。打破すべき敵に向かって。アタイのすべてを賭けた一撃が、今、カエルのパンパンに膨れ上がった腹に当たる。

 

 「師弟協力『燃えあがれ魂のダブル友情ミックス弁当390円アッパー』!!!!」

 

 豪風を纏いし二人の拳はアッパーカットとなって巨大カエルのパンパンに膨れ上がった腹を打ち上げ、空へと飛ばす。

 

 「ば、馬鹿なァァァァ! この拙者がァ、全裸の小娘どもに負けると言うのかァァァァ! ありえんー! ありえんでござァァァァブギュアアアアアアアアアアア!!」

 

 ピチュピチューン

 

 そして、カエルは空高く舞い上がり、夕空の果てへと飛び去って行った。

 

 「終わったのね」

 

 「ああ、そうだ。帰ろうぜ、俺たちの家に」

 

 重ねた手と手は、いまだ解けない。アタイはそのぬくもりを、今度こそ忘れないだろう。

 危機は去ったが、カオスの謎はより深まった。アタイの戦いはこれからも続く。喜びも悲しみもこの身に受け止め、どこまでも歩き続ける。それがアタイ、カオスブレイカー・チルノの使命よ。

 

 おわり

 


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