150話「戦わなければいキノコれない」
「シャンハーイ……(訳:何がしたいんだコイツら……)」
シャンハイ人形は強かった。俺が今までに戦ったことのないタイプだ。俺は体調不良と関節粉砕のためフラフラになりながら立ち上がる。外れた腕は木遁『根付接合』で何とか繋いだが、かろうじて動かせる状態であり、すぐには闘えない。右脚の膝も折れている。
「俺をここまで追い込むとは、大した人形だよ……こうなっては仕方ない。奥の手を使わせてもらう」
「師匠まだ何かやる気みたいよ。もう一回ヤっとく?」
「しぶといのだー」
俺はある物を取り出した。それは別に特別なものではなく、ここへ来る途中で採集した謎松茸だ。
「この手だけは使いたくなかったが……みすちー、これを見ろ」
「ど、どうしたんですか、いきなり」
みすちーは意味がわからないと言った様子で首をかしげる。それに対し、俺はただキノコを突きつける。
「これは何だ?」
「キノコ、ですよね?」
「そうだ。このキノコから連想されるものを思い起こしてみろ」
「キノコから連想されるもの? と、言われても……」
――ドクン――
その直後、みすちーの顔色が変わる。息が荒くなり、瞳孔が開いていく。妖気がみすちーを中心に渦巻いていく。
「ち……ち……」
――ドクン! ドクン!――
「さぁ、解放するんだ。お前の本性を!」
「TNTN!」
みすちー暴走モードへ移行。バーサク状態のみすちーなら幻術も無効化できるはず。やれ! みすちー!
「終わったわね。人として」
「手遅れなのかー」
暴走みすちーはまず俺が集めた謎松茸のカゴに近づく。そして、おもむろに謎松茸を持ち上げる。
「もぐTNもぐTN!」
そして唐突に猛烈な勢いでキノコを食べ始めた。馬鹿食いだ。謎松茸の中に詰まっていた白い液体をボタボタこぼしながら食べまくる。
「ウェヒッ! ウェヒヒヒヒwww」
あかん、これは放送できない顔だ。よくもこんなキ○○イみすちーを!
みすちーはキノコを持てるだけわし掴みすると、シャンハイのもとへ一直線に駆け出す。
「TNTNTNTN!」
「シャンハーイ!?(訳:ひいっ!?)」
シャンハイは逃げようとするが、『黒兎空跳』で迫るみすちーを振り切ることは不可能だった。ついにみすちーの手に捕まってしまう。
「でかしたみすちー! 俺も行くぞ!」
キノコを手にみすちーのところへ向かう。ようやく俺のターンが来たか。散々痛めつけられた恨み、思い知らせてくれる!
「TNTN!」
「シャンハーイシャンハーイ!」
「くらえ! キノコ汁ぶっかけ!」
「シャ、シャンハーイ!?」
「TNっTNっ!」
「うらぁ、口の中にボコォ! してやっからなぁ!」
「シャッシャハッ……!」
「TINGTING」
「シャ、ンハ……」
「その点キノコってスゴイよな。最後まで菌糸たっぷりだもん」
「TNTNTN♪」
「…………」
ふぅ……こんなもんか。
俺とみすちーは怒涛のコンビネーションプレイでシャンハイを激しくせめたてた。この幻想郷においてでさえ常識を捨てすぎたと思われるその内容は筆舌に尽くしがたい。とにかく俺たちは勝ったのだ。
「ヤハーッ! 我ら乙羅一族こそ最強なりぃぃ!」
「TNTN!」
シャンハイはもはや動かない。謎松茸の謎の粘性ある白い液体を浴びせかけられ、ぐったりと横たわるばかりだ。その瞳は輝きが失われていた。
勝ち鬨を上げた俺とみすちーは勝利の美酒とばかりに謎松茸を食らいあう。自然の恵みに感謝し、今日もまた戦いの中を生き延びられた喜びを分かち合った。
「あ、あなたたち、何をしているの……?」
しかし、その様子を見ていた第三者がいた。チルノでもルーミアでもない。いつの間にか見知らぬ少女がそばまで来ていた。
「私のシャンハイに何してるのよ!?」
なんと少女はシャンハイ人形の持ち主、つまりこの場所に住む魔女だった。俺とみすちーは何と答えればいいのかわからず、呆然と立ちすくむ。
「何とか言いなさいよ!」
「す…………すみません……」
「TNTN……」
弁明の余地などない。現行犯の現場を取り押さえられ、逃げ道もない。俺とみすちーは頭を下げる。魔女は俺たちが両手に持ったキノコに視線を向ける。
「それはひとかけで像も殺せるほどの猛毒キノコよ。そんなものを食い散らかしながらシャンハイをいじめるなんて、しかも全裸で……あなたたち何がしたいの?」
「TN!?」
答えられない。これ以上ない正論を突きつけられ、俺はどもる。一気に酔いが醒めた気分だ。
みすちーも顔が青ざめている。やべー、毒キノコ思いっきり食べちゃったよ、どうしようといった様子の表情をしている。俺は無視した。今それどころじゃない。
「とにかく! シャンハイにこんなことをした責任を取りなさい!」
今回は確実明白に俺たちに非がある。シャンハイは青い顔色をしてピクリとも動かない。魔女はそんな人形の傍らに寄り添い、撒き散らされた菌糸に触れるのをためらわず介抱している。冷静になって考えてみると、さすがに悪いことをした気になってきた。
どうやら今回はギャグで済まされる領域とそうでない領域との見定めが甘かったようだ。魔女は想像していたのと違って気立ての良さそうな少女である。カタギに手を出してしまうとは、乙羅暗殺拳道場の名折れ。シャンハイは毒汁にまみれ、一発だけでは誤射かもしれないとか、もはやそのような言葉では済まされないほどの凌辱っぷりである。ここはいたいけな人形の貞操を汚した漢女として、けじめをつけなければならない。
「わかった。責任を取って、シャンハイと籍を入れ…」
「ふざけてる場合じゃないの。わかってるでしょう?」
膨れ上がる殺気。さすが魔女と言うだけあり、その膨大な魔力は魔法として使わずともオーラとなってこちらを圧倒してくる。しかも笑顔で、である。美少女の笑顔とはかくも恐ろしきものであったか。チリチリと肌を焦がすその魔力、もし俺がスカウターをつけていれば一瞬で破壊されたことだろう。
逆らったらやられる。俺は本能で理解した。ここからはまじめにシャンハイの救助に全力を尽くしたいと思います。