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148話「いいえ、キノコです」

 

 ルーミアが突然そこらへんに生えているキノコを躊躇なく食い始めるという信じられないハプニングを起こしたものの、魔法の森探索はおおむね順調である。

 ルーミアが食ったキノコは吐かせた。このようにキノコを使ってね。

 

 「おらぁ! しっかり喉奥まで使ってしゃぶれやぁ!」

 

 「おごぉっ!」

 

 少々手荒な真似をしてしまったが毒に冒されるよりマシだろう。妖怪といえども耐性のない者が毒物を食べれば中毒症状を起こすことがある。ましてここは魔法の森だ。濃縮された魔にさらされた環境で育ったキノコなど、どんな危険があるかわからない。

 

 「まったく、お前らも気をつけろよ」

 

 「説得力皆無ですね」

 

 俺たちは森の深部へ進んでいく。その途中でキノコはたくさん見つかったのだが、どれも毒キノコっぽかった。試しに食ってみて、ティウンティウンティウンという効果音とともに身長が一頭身分縮んだときはヤバかった。すぐに元に戻ったけど。

 

 「ここには毒キノコしかないのかよ」

 

 「松茸は!? 松茸はないの、ねぇ!?」

 

 「まぁ、場所が場所ですからね。まともな物がある方が不自然というか」

 

 森の奥へ行くにつれて魔の濃度も上がっている。みんな顔色が悪く、気分がすぐれないようである。これはキノコパーティーは断念せざるを得ないかもしれない。

 

 「あっ、このキノコ、松茸じゃない!?」

 

 チルノが新たなキノコを見つけた。確かに見た目は松茸みたいな形をしている。写真でしか見たことがないような立派なものである。

 だが、纏う雰囲気が明らかに変だ。

 

 「松茸ってこんな臭いなのか?」

 

 「青臭いのかー」

 

 俺のサバイバル直感が警鐘を鳴らしていた。これは今までの毒キノコとは一線を画する。無害を装いながら獲物が近づくのを虎視眈々と待ち続ける狩人を彷彿とさせる。

 

 「だが食う!」

 

 「なぜっ!?」

 

 パクッ

 

 「むほぅっ!?」

 

 な、なんだこれは!?

 口に入れた瞬間、キノコの中からネットリとした菌糸の塊がこぼれた。はっきり言って激マズだ。独特の腐乱臭が口いっぱいに広がっていく。苦いし、とても食べられたものではない。

 でも、なぜだろう。マズいのに、この味……嫌いじゃない気がする!

 

 「ぐむおひうのぁ!」

 

 「師匠、臭い! 息しないでください!」

 

 「んぐっ、ごくん……こいつはやべぇ。リグルも食ってみろ」

 

 「死んでも嫌です!」

 

 「チルノ、松茸だぞ」

 

 「アタイ、そんな松茸いらない……」

 

 思った以上にクセになる味わいだ。しかし、みんなに勧めてみたが、誰一人食べようとしなかった。ルーミアでさえ拒否している。マズイけどウマイ、これは新境地だ。

 

 「この変な松茸、こっちにいっぱい群生してるぞ! ラッキー!」

 

 「まさかそれ持って帰る気ですか!?」

 

 謎松茸は木の裏のくぼみにわんさか生えてた。引き抜いて準備していたカゴに放り込んでいく。カゴはすぐに満杯になった。大漁である。

 

 「ようやく食えそうなキノコが手に入ったな」

 

 「いやいや」

 

 「だが、まだまだパーティーを開くには足りないな。もっと森の奥まで行ってみるか……ん?」

 

 そのとき、気になるものに気づいた。地面を注意深く調べる。

 

 「どうしたんです?」

 

 「ここを見ろ。ほんのわずかにだが草が踏み倒されて土が固くなっている」

 

 「それが何か?」

 

 この感じ、偶然作られたものではない。つまり、ここを定期的に通る者がいる。道ができているということだ。

 

 「しかも靴跡が残っている。ただの獣道ではない。そしてこのにおい……くんくん、おにゃのこのものだ」

 

 「師匠ってそういうストーカーじみた能力は天下一品ですね。気配消して尾行したりとか」

 

 とにかく道にそって進んでみることにした。しばらく歩くと家屋が見えてきた。この妖怪も近づかない森の中に住む者がいるのか。怪しすぎる。

 

 「そう言えばこの森には魔女が住んでいると聞いたことがあります」

 

 魔女!? あの黒いトンガリ帽子をかぶってヒッヒヒッヒと笑いながらねるね○ねるねをかき混ぜてテーレッテレーしてる奴か!?

 俺の貧困な想像力が偏見に塗り固められた魔女像を想起させる。

 

 「何でも、人形に魂をこめる魔法を使うそうです」

 

 呪いの人形!? こえぇ、魔女が作る人形とか不気味すぎだろ。絶対かかわり合いになりたくない。見なかったことにして引き返すのが身のためだ。

 

 「だが行く!」

 

 「だからなぜっ!?」

 

 魔女というからには面白そうなマジックアイテムや魔法薬を持っているに違いない。ちょっと見ていきたい。『百見心眼』で確かめたが、家の中に誰かがいる気配はなかった。これはチャンスだ。レッツ・不法侵入!

 

 「だ、ダメですよ、勝手に入るなんて」

 

 「見つからなければどうということはない」

 

 俺たちは堂々と魔女の住処らしき建物に近づいていく。洋風のこじんまりとした清潔感のある家だ。特にデンジャラスな雰囲気はない。人が来ないうちにさっさと入ってしまおう。

 

 カタカタ……

 

 「ぬ!? 何か動いたぞ?」

 

 家の玄関の前に置かれていた人形から物音がした。見た目はかわいらしい西洋人形だ。しかし、ただの人形が独りでに動くはずはない。風で揺れただけとか?

 

 カタカタ!

 

 「シャ……シャンハーイ!」

 

 「うおわっ!?」

 

 風などではなかった。突然、人形は意思を持ったかのように動き出した。

 



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