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147話「追憶の人形」

 

 俺は森を歩いていた。ここは魔の瘴気がただよう場所。魔法の森である。

 珍しく服を着た俺は花束を手にしていた。ある場所を目指して森を進んでいく。

 そして開けた崖の上の建てられた、簡素な墓標の前で立ち止まる。俺は花束を墓前に供えた。

 

 『シャンハイ人形ここに眠る』

 

 これは俺が5年前に作った墓だ。今日はあの人形の命日。毎年この日が来ると参りにくる。あの事件から早いものでもう5年が経った。ここに来るたびにあの小さな人形の姿を思い出す。

 そのとき、背後から視線を感じた。振り向くと、一人の少女が立っていた。

 

 「アリス・マーガトロイド。ここで会うのは初めてだな」

 

 金髪碧眼、青いワンピースを着てケープを身につけ、一冊の魔道書を持っている。この森に住む魔女である。こいつと会うのは5年前以来、2回目になるか。

 そして、この墓に弔われた人形のかつての主だ。

 

 「お前はまだ俺のことを恨んでいるか。あの人形を殺したこの俺を」

 

 「……いいえ」

 

 アリスの顔に負の感情は表れていなかった。静かに目を閉じて微笑する。あのときのことを思い出すように。

 

 「勝手に墓なんか作って……毎年律儀にここへ来る、あなたのことを笑いにきたのよ」

 

 風が、吹いた。

 

 * * *

 

 ――さかのぼること5年前――

 

 「今日の修行はサバイバル訓練を行います」

 

 いつものように俺たちは修行に励む。俺は弟子たちの教育者として日々のスケジュール管理をしなければならない。様々な修行内容を考案し、実験を重ね……違った、実践を重ねているのだ。

 

 「ボクたちって毎日がサバイバル生活じゃないですか?」

 

 「たわけが! 寝床と飯が確保された生活などサバイバルではない! 今日はこれより全員で魔法の森へ向かう」

 

 魔法の森は湖からそう遠くないところに位置する。妖怪の山の麓の森と隣接しているが、その様相はいささか異なる。

 

 「あそこは瘴気がヤバいのだー」

 

 そう、特殊な瘴気が蔓延する地帯なのだ。噂によれば、幻想郷の「魔力」が満ちているのだという。人間が入れば一時間と待たず危篤状態となるほどの毒素が充満している。

 その瘴気は妖怪にとっても無毒ではない。死にはしないが強烈な嫌悪感を覚える。そのため、妖怪さえもこの森には滅多に近づかないのである。

 ちなみに普段から呪毒に慣れ親しんでいる俺は森林浴しようが平気である。魔法の森にはごくわずかだが、瘴気に耐性のあるあやかしものも住んでいるのだとか。

 

 「アタイ行きたくないわ」

 

 「まぁ待て。この訓練は修行以外にも目的がある。聞けばあの森には大量のキノコが生えているという。サバイバルの基本は食糧の調達。そこで今回はキノコを中心に採取していく」

 

 ぶっちゃけ、キノコ狩りだ。秋の味覚大収穫作戦である。

 

 「今夜はキノコづくしパーティーが開けますね!」

 

 「ホントに!? アタイ松茸いっぱい食べたい!」

 

 「なら、ボクはトリュフで」

 

 「じゃあ、俺はフォアグラ」

 

 「フカヒレなのかー」

 

 「それキノコじゃねぇよ!」

 

 「それを言ったらフォアグラも違いますよ!」

 

 「「「ギャハハハハハ!」」」

 

 こうして俺たちは深く考えもせず、魔法の森へ行く準備を始めたのである。

 

 * * *

 

 「ウワァ、目が染みるぅ!」

 

 「ズビッ、鼻水が止まりません……」

 

 「お腹痛くなってきたのだー」

 

 「アタイの頭がバカになりそうだわ!」

 

 魔法の森に入るなり、不満をぶーたれるバカルテット。やれやれ、これでは先が思いやられる。

 

 「だらしないぞ! 特盛キノコ鍋が食いたくないのか!」

 

 目には見えないが空気中に毒素が含まれている。森の奥に行けばもっと瘴気も濃くなるだろう。これも修行だ。忍者たるもの、あらゆる状況下に対応できなければならない。

 俺は長らく旅をしていた時期があった。そのときの経験からサバイバルには慣れている。その知識を伝授してやろう。

 

 「おっ、さっそくキノコ発見!」

 

 さい先のいいことに、探索を始めてすぐにキノコを見つけ出した。この森にキノコが多いのは本当のようだ。

 発見したキノコは木の根本にひょっこり生えていた。血のような赤色だったので見つけやすかった。

 

 「これ毒キノコじゃない?」

 

 「うむ、サバイバルの食糧収拾において大切なことは、その食べ物が食べられるものかどうか判断する方法をきちんと知っておくことだ。俺が手本を見せる」

 

 そう言ってキノコを地面から引き抜いた。目の前に持ってきてしげしげと観察する。

 

 「まず、食ってみる」

 

 俺はキノコにかじりつく。

 

 「何やってんすか!? 食っちゃダメだろjk!」

 

 「むっ、舌にピリッときた。これは毒キノコだな」

 

 危なかった。あやうく毒キノコを採取してしまうところだった。

 

 「このようにして安全に毒性の有無を見分けることができる」

 

 「できるか! アホか!」

 

 「あ、あの、警戒色とか臭いとかで判別できないんですか?」

 

 「いや、食うのが一番確実だ」

 

 「そりゃそうだね!」

 

 ※この葉裏は特別な訓練を受けています。一般人は絶対にマネしないでください。

 

 「どうだ、勉強になっただろ?」

 

 「はい、反面教師的な意味で……」

 

 「お、さっそくルーミアが毒性の判別を練習しているようだ」

 

 「もぐもぐ」

 

 「ルーミアちゃんだめえぇ!!」

 


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