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146話「お風呂でパニック」

 

 秋の日はつるべ落とし。夜が長くなる季節である。一日の終わりに疲れを癒すものと言えば、やはり風呂だろう。この道場にも風呂がある。

 風呂釜はコツコツ貯めたお金を使い、人間の里で買った。俺の収入は微々たるものだが、支出も少ないので、長ーい目で見れば大きな買い物も不可能ではない。

 道場の裏手に置いた五衛門風呂だ。普段は湖で水浴びをして済ますことも多いが、たまにはお湯にゆっくり浸かりたいと思う日もある。

 

 「さて、ひとっ風呂浴びるとするか」

 

 日が暮れて、遊び……じゃなかった、修行から帰ってきた俺は泥だらけだった。確か今日はみすちーが風呂を沸かすと言っていた。

 

 「お風呂の準備しておきましたよ」

 

 晩ごはんの支度をしながら答えるみすちー。さすが、手際がいい。これで「ご飯にする? お風呂にする? それとも(ry」と言ってくれたら完璧だった。

 俺は意気揚々と道場裏に向かう。しかしそのとき、何者かが風呂場から駆け出してきたではないか。

 

 「アタイが先に入ったわよ!」

 

 裸で飛び出してくる幼女、もといチルノだ。

 

 「こらっ、服を早く着なさ……着なくていいからそのままでいなさい!」

 

 チルノは返事もせずに走り去っていった。まったく、師匠より早く風呂に入るとはなっとらんな。もう少し入っていてくれれば混浴ができたのに。

 いや、そう言えば性別は同じ女だった。女混浴(造語)ができたのに。

 

 「あれ? ちょっと待て、チルノが先に入ったということは……!?」

 

 俺は急いで風呂釜を確認する。キンキンの冷水になっていた。氷まで浮いていた。

 

 「チルノォォォォ!」

 

 ふざけやがって、チルノの奴。何も知らずにかけ湯したらドリフのコントみたいな反応をしていたに違いない。仕方がないが、みすちーに頼んで焚きなおしてもらおう。

 

 「あ、師匠。お風呂空きましたか?」

 

 そこにリグルがやってきた。俺の灰色のイタズラ脳細胞にびびっときたぜ。こいつはちょうどいい。

 

 「ああ、めっちゃいい湯だったぜ! 早く入ってきな!」

 

 俺はグッドサインでリグルを送り出す。無防備にも何の疑いもなく風呂に行くリグル。

 

 「冷やあああああ!!」

 

 断末魔を聞いた俺はほくそ笑んだ。

 

 * * *

 

 「師匠! 何であんな嘘ついたんですか!」

 

 「ごめんごめん」

 

 あれからしばらくして風呂から上がったリグルが文句を言ってきた。俺は鼻くそをほじりながら、適当に聞き流しておく。

 

 「ほんとにもう! 師匠はこんな子ども染みたイタズラばっかりして! ちゃんと後に入る人のことを考えてください!」

 

 「わかったわかった」

 

 それにしても、いつもはあまり気にしていなかったが、リグルの肌とても綺麗だ。湯上がりの上気してほんのり赤く色づいている。湿った髪も艶やかで何とも言えないエロスがある。これが湯上がり美人効果か。

 

 「よっしゃ、じゃあ俺も美少女の入浴したての風呂に入ってくるかな」

 

 「気持ち悪いこと言わないでください」

 

 とは言え、さすがに俺も風呂の水に興奮してあれやこれやするほど末期ではない。変態淑女として節度ある行動を心がけているつもりだ。

 俺は改めて風呂に向かう。リグルが入浴した後だから、ちゃんと温めなおしてあるはず……

 

 わしゃわしゃ

 

 風呂釜の中に蠢く無数の黒い何か。ん? おかしいな、疲れてるのかな。今、グロっぽい光景が見えたような。

 

 わしゃわしゃ

 

 やっぱり風呂の中は、ぎっしり蟲の詰め合わせギフト状態だった。

 

 「リグルゥゥゥゥ!」

 

 おのれ、どんな風呂の入り方をすればこんなことになるんだ。つーか、さっきのリグルが醸し出してた風呂上がりのほっこりした雰囲気は何だったんだ。まさかこれに入ったというのか。ヤベェよ、こんなの入ったら蟲姦プレイじゃん。

 俺は吐き気を抑えながら風呂を後にする。そこに家事仕事を一段落終えたみすちーが通りかかる。

 

 「葉裏さん、湯加減はいかがでしたか?」

 

 「ああ、めっちゃいい湯だったぜ! 早く入ってきな!」

 

 「はい、それじゃあいただきますね」

 

 俺はグッドサインでみすちーを送り出す。

 あっ、しまった。つい条件反射でリグルのときと同じ反応をしてしまった。

 

 「蟲やあああああ!?」

 

 ま、いっか。

 

 * * *

 

 「うぅ……ひどいですよ。お風呂入ったのに、まだ鳥肌が止まりません……」

 

 「ごめんごめん」

 

 夜雀だけに鳥肌とかワロリッシュって言おうとしたけど、そういう空気じゃなかったから黙っておく。

 

 「お湯、入れなおしておきましたから冷めないうちに入ってくださいね」

 

 いい加減、俺も疲れてきた。さっさと浴びて寝たい。さすがにみすちーが俺を陥れる細工を風呂に施しているとは思えないので、これでようやく安心してゆっくりできるというものだ。

 だが、風呂に行ってみるとそこにはルーミアがいるではないか。服は脱いでいないため、今から入ろうとしているものと思われる。抜け駆けするとはけしからん。俺も混ぜろ。五衛門風呂は狭いが、幼女二人ならギリギリ同時入浴可能である。

 

 「ルーミアいっしょに入ろうぜ」

 

 「……」

 

 「ルーミア? お前なにやって……なにやってんだよ!?」

 

 「ごくっごくっ」

 

 信じられないことにルーミアは風呂のお湯をがぶ飲みしていた。みすちーが浸かった後の風呂のお湯をだ。これはいくらなんでも変態淑女として越えてはいけない一線を軽く突破している。

 

 「やめろ、ルーミア! お前どうしちまったんだよ!? 頭おかしいぞ!」

 

 「んぐっんぐっ」

 

 俺はルーミアを止めに入るが、構わず一心不乱に飲み続ける。その様子は、まるで何かに取り憑かれてしまったかのように必死だ。このお湯の何がそんなにルーミアを駆り立てるのか。試しに一口飲んでみる。

 

 「ぺろっ……これは鶏ガラスープ!?」

 

 深いコクがありながら臭みのないすっきりとした味わい。旨みが主張しすぎず、ふんわりとやわらかく口の中で溶けていく。目を閉じれば次々と脳裏に浮かぶ料理の数々。合う……恐ろしいほどの汎用性でマッチしていく。シンプルだからこそ一分の隙もなく完成されたその味わいに震えが走る。これが茹でみすちーのダシ……究極の夜雀ガラスープ!

 気がつけば味見の一口が二口に、二口が三口に。俺とルーミアは競うように極上のスープを口に運ぶ。

 

 「葉裏さん、入浴中にすみませんが、私の手拭いがお風呂場に置き忘れてありませんでしたか? さっき入ったときに忘れてしまって……よ、葉裏さん!? ルーミアちゃんも何してるの!?」

 

 いけない、最悪のタイミングでみすちーに見つかってちゃった。みすちーは顔を青くして呆然と立ちすくんでいる。でも俺たちのパトスはもう止まらねぇ!

 

 「ぷはー、みすちーエキス超うめぇ!」

 

 「ぐびっぐびっ」

 

 「やだっ、だめですー! この二人、頭おかしいよぉ!」

 

 霧の湖名物、乙羅暗殺拳道場銭湯~~みすちの湯~~

 効能:みすちーエキス配合。うまい。

 アクセス:人間の里から徒歩12km。リヤカー送迎可。

 ※お湯の持ち帰りはできません。

 


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