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142話「でっかい秋見つけた」

 

 「ついに出来上がったわ、姉さん」

 

 「ええ、長かったわね、穣子」

 

 「姉さんの落ち葉が作った上質の腐葉土と、私が丹精こめて育て上げたた苗。二人の力が合わさって完成した、この一粒直径三尺にもなるバカデカイぶどう……」

 

 「私たちの努力の結晶、『超弩巨峰』がね。これで今年の秋は人間の信仰をガッポリ集めるわよ」

 

 「私たちの時代が来るのね!」

 

 あれは何をやっているのだろう。風の向くままに近場の妖怪の山へ来てみると、面白いものを見つけた。こうして上空から地上を見下ろせば、いつも森の中を通っていたとき見えなかったものが見えてくる。

 どこにこんな場所があったのかと思うほど、広い畑が現れたのだ。妖怪の山でのんきに農業ができる人間はいない。これも妖怪の仕業かと思ったが、どうも違うようだ。畑で作業していた二人の人影からは神力を感じた。つまり、神が作った畑である。

 妖怪の山には妖怪だけでなく、神も住んでいるのだ。もっとも、神社で祀られるような名のある神はいないが。天狗が山を牛耳っている点からも、この場所の神の影響力のなさが知れるというものだ。外の世界ならこういう現象は滅多に起こらない。狭苦しい幻想郷ならではの光景である。

 

 「それにしてもデカイぶどうだ」

 

 ぶどう、グレープである。この高さから見るとまるで遠近法がおかしくなったかのような巨大さだ。房全体の大きさは車ほどもあった。おばけカボチャならぬ、おばけブドウである。

 

 「はっ!? 見て、姉さん! 妖怪が畑を狙っているわ!」

 

 「また来たのね……」

 

 気づかれたようだ。敵を求めてさまよっていた俺は「虚眼遁術」を使っていない。二人の神は空を飛んで真っ直ぐこちらに向かってきた。

 

 「こらーっ! 作物を荒らす妖怪め、とっとと出ていけ!」

 

 「最近、この手の妖怪が多くて困るわ……」

 

 「なんだこいつら」

 

 「確か、秋神様の姉妹だったと思います」

 

 みすちーによれば、この二人は幻想郷の秋の神らしい。紅葉を司る姉の秋静葉と、豊穣を司る妹の秋穣子。俺は知らんかった。

 静葉は茜色の上着とスカートを着て、赤い楓の意匠の髪飾りをしている。穣子はブドウの形の飾りがついた帽子をかぶり、オレンジ色のエプロンをしている。どちらも金髪だが、瞳の色が違った。

 うむ、美少女である。つまり、弾幕勝負を挑むべき相手だということだ。

 

 「てか、みすちーやけに詳しいな。もしかして知り合い?」

 

 「いえ、そういうわけではないのですが……」

 

 「あーっ! あんたはこの前、畑から芋を盗んでいった妖怪雀じゃない!」

 

 指摘されたみすちーがキョドる。たまに立派な料理の材料を調達してくるなぁと思っていたが、そんな経緯があったとは。一昨日のふかし芋は美味でした。

 

 「すみません! あんまりにもおいしそうなすごいお芋だったので、つい」

 

 「そ、それほどでもないけど……」

 

 「穣子、相手のペースに乗せられないで」

 

 髪の毛先を指でくるくるいじりながら照れる穣子を静葉が呆れた様子でたしなめる。

 どうも神の威厳とか、そんな感じとは縁遠い奴らだ。あまり強そうには見えないし、これは初めての勝負の相手としてちょうどいいレベルの敵と思われる。

 

 「はん、人を見るなり盗人扱いか。相変わらず神って奴らは傍若無人だな」

 

 「現に盗まれたんだけど!?」

 

 「しょうがねぇ! もうこうなったら俺と弾幕ごっこするしかねぇな!」

 

 みすちーのミスについては師匠である俺にも責任がある。しかし、俺たち人外にとって幻想郷は奪い奪われ殺り殺られの弱肉強食の世界。ここは自然界の掟にならい、勝者と敗者を決めることによって白黒はっきりつけようではないか。と、強引な理屈を押しつけてみる。

 だが、穣子はわけがわからない様子で首をかしげる。

 

 「弾幕ごっこ、って何だっけ?」

 

 「知らないの? こうやるのよ。葉符『狂いの落葉』」

 

 姉がいきなり技を使ってきた。風とともに大量の葉っぱが舞い上がる。落ち葉は意思を持つかのように群がってきた。

 

 「有無を言わさず先制攻撃か。上等だぜ!」

 

 「盗人猛々しい小妖怪の話なんて聞くだけ無駄よ。怪我をしないうちにおとなしく帰りなさい」

 

 話が早くてグーじゃねぇか。そういうの好きだぜ。

 機体を旋回させて葉っぱを振り払う。落ち葉の弾幕は綺麗だが、所詮見た目だけの恐るるに足らん攻撃よ。被弾したところでダメージになるわけではない。せいぜい目眩ましになる程度の威力である。

 

 「果たして、本当にそうかしら?」

 

 「何っ!?」

 

 ボンッ!

 

 突如、エンジンから異常音がしたかと思うと煙があがる。出力がどんどん下がっていくではないか。

 

 『エンジン不調』

 

 「プロペラに落ち葉が入り込んだのか!」

 

 ただの葉っぱならプロペラに巻き込んでも難なく裁断してそれで終わりだが、これは神力で操られた「弾幕」だ。異常をきたしてもおかしくない。

 

 「なるほど、そうやるのね。なら今度は私の番よ。これでも食らいなさい!」

 

 こちらの動きが鈍ったところに穣子が追撃をかける。飛来する球状の物体が次々に俺の機体にヒットする。

 

 「これは……柿ぃ!?」

 

 投げつけられたものは、なんと無数の柿である。これも神力が込められているのか、ただの柿ではない。ぶつかると炸裂して機体に損傷を残す柿爆弾だ。豊穣の神のくせに食べ物を粗末にしていいのか。

 

 「心配はいらないわ! これは全部、渋柿だから! えいえい!」

 

 干し柿用の分はすでに軒先に吊るしているという。なんという周到さ。これが秋の神の実力だというのか。侮っていたぞ……この俺をここまで追い込むとはな。よかろう、ならば少しばかり本気を見せてやるか。

 俺は凧に設置された機関銃のトリガーに指をかけた。

 



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