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138話「茶番劇開幕」

 

 慧音の家で、急遽準備に取りかかる。簡単な台本も即興で作った。慧音にはセリフを覚えさせている。

 

 「『やいやい、そこの不届きものめ。私の目が黒い内はこの里に指一本触れさせない。耳をかっぽじってよーく聞きやがれ。私は上白沢慧音、里の守護者。この悪党め、目にものを見せてくれる。成敗、せいばい〜!』……すまないが、セリフがひどすぎて覚える気にならない」

 

 「じゃ、アドリブで」

 

 せっかく作ってやったのにワガママな奴だ。

 慧音と連絡を取り合うために、『念話』の術式を組み込んだ妖術符も渡しておく。これで離れた場所からでも周囲に気づかれず、俺の声を届けることができる。俺が町中で悪役っぽい煽りをした後、慧音にこの符を使ってキューを出す。それを合図に慧音が登場する手はずだ。

 一方、俺はというと衣装の製作を大急ぎで進めていた。やはりそういった小道具も重要な要素だろう。いかにも悪党然とした格好をしていれば、一目見ただけでこちらが求めるイメージを相手に植えつけることができる。時間がなかったのであまり凝ったものは作れなかったが、何とか完成させることができた。早速、衣装に着替えて出発しよう。

 

 「なぁ、やっぱり考え直さないか? こんな方法でうまくいくわけが……ぶっ!? なんだその格好は!?」

 

 「待たせたな! さあ、作戦開始だ!」

 

 「待て! それはダメだ! 何かもう人として色々終わって……」

 

 ふ、今さら怖じ気づいたか。しかし、俺はいつでも待ったなしの妖怪。走り出したら止まらない。取り残されないようについてきな。

 俺は慧音の制止を無視して家を飛び出した。

 

 * * *

 

 ――人間の里――

 

 午後の麗らかな一時。里の住人は日々の営みを謳歌する。晴れ空の下、畑仕事に精を出し、子どもたちの楽しげな声が響く。そんないつもと変わらない日常の光景が広がっていた。

 この俺が来るまではな!

 

 「ギャッギャッギャッ! 愚かな人間たちよ。その平和が脆く崩れ去る仮初めのものだと思い知るがいい!」

 

 「虚眼遁術」解除。さらに能力により、この場の『注目』を全て俺に『集める』。仕事をしていた人間たちが手を止め、俺の方を向く。

 

 「あ、ありゃあ何だあ!?」

 

 「妖怪……だよな?」

 

 身につけた衣服は頭まで覆う黒の全身タイツのみ。そして左腕はドリル、右腕はハサミのアタッチメントを装置。どこからどう見ても不審者、もとい悪の手先である。

 

 「ギャギャッ! 俺は悪の組織『月人結社』により改造されたムーンチャイルド兵士! メカメカ改造怪人ワルヨーリ様だぁ!」

 

 人間たちは困惑している。よし、つかみはまずまず。次は悪党らしく人質でも取ってみるか。

 しかし、そうはさせんと里の妖怪退治人たちが現れた。

 

 「結界を張って動きを封じるぞ!」

 

 「おう!」

 

 結界? あくびが出そうなくらい甘っちょろい術式だぜ。拘束しようと迫りくる結界をを無理やり破壊した。雨あられと投擲される金剛杵を高速反復横飛びで全弾回避する。

 

 「こいつ、意外に強いぞ!」

 

 「無駄だァ! 貴様ら程度の術士など物の数ではないわー!」

 

 包囲網を余裕で脱し、手頃な人間に向かってダッシュ。お、いいところに無防備な子どもがいる。取っ捕まえてやるぜ。

 

 「きゃああああ!」

 

 「そんな、里長の娘さんが妖怪に捕まった!?」

 

 上等のおべべを着ていると思えば、裕福な家のお嬢さんだったか。こいつは好都合だ。

 

 「おほ、少女のかぐわしいスメルふがふが……む、何か隠し持っているな?」

 

 「あっ、それは!」

 

 人質の娘は懐に何かを忍ばせていた。俺の鼻はごまかせんぞ。武器でも隠しているのかと思いきや、出てきたのはまんじゅうだった。

 

 「これは三歳を迎えた弟の祝いに用意した菓子なんです! どうかこれだけは取らないで下さい!」

 

 この時代は医学的に発達した御産法がまだ確立しておらず、また健康に生まれたとしても生後間もなく亡くなる子どもが多くいた。七五三という慣習もあるように、三歳まで元気に育つことはそれだけで祝いにあたることなのだ。

 

 「そ、そうか。それは悪いことをしたね。おめでとうと、弟さんに伝えておいてくれ」

 

 「あ……はい、ありがとうござ」

 

 「なーんて言うわけねーだろーが! オラァ!」

 

 ためらいなく、まんじゅうをドリルでぶっ刺す。それを見せつけるように腕を上に向けて伸ばした。

 

 「あ〜あ、俺のたくましいドリルがオマン・じゅうを貫いちまったぜ! ウホッ!」

 

 「だ、だめっ、返して!」

 

 「モグモグモチャモチャ」

 

 「食べちゃだめえええ! ひどい……ひどすぎるよぉ……」

 

 「ここで一句、『少女から、タダで奪った、饅頭うまい』。略して、少女のタダマンうめぇwwww」

 

 俺の品性のかけらもない最低の言動に、人間たちの反感が高まっていくのがわかる。ボルテージがマックスになるまでそう時間はかかるまい。しかし、人質を取っている俺に攻撃することができず、手をこまねいている。

 そこに慧音から通信が入った。

 

 『私の出番はまだか。いや、今すぐ出させろ。10秒で片をつけてやる』

 

 『焦るな! こちらから指示を出すまで待て!』

 

 真打ちは遅れてやって来るからこそ盛り上がるのである。まだ舞台は完成していない。

 あと、少しばかり気合いが入りすぎではないだろうか。念話ごしに強烈な殺気を感じたのだが。あくまでこれはお芝居であり、慧音と闘うシーンもちゃんと殺陣をあらかじめ決めて段取りを作っている。決して本気で殺し合いをするわけではない。ないよね?

 

 「ギャッギャッギャッ! 次はどうやってこの娘をいたぶってやろうか。今日はいつにも増して俺のドリルがギン☆ギンDA☆ZE!」

 

 「助けてっ、誰か助けてーっ!」

 

 俺は娘の着物をドリルとハサミで引き裂いていく。勘違いしないでほしいが、これは人質に傷を負わせずに悪感情を稼ぐためのやむにやまれぬ作戦であり、俺の個人的な趣向は一切入っていない。俺も本当はこんなことはしたくないんだ、うん。

 

 「さあ無力なる人間たちよ! 己の無能さを後悔し、少女のあられもない姿を目に焼きつけるがいい!」

 

 「そこまでよ!」

 

 skmdy!?

 突然、俺に向けて攻撃が飛んできた。人間の霊力によるものではない。これは妖力弾だ。しかも氷のような形状をしている。慧音の攻撃ではない。

 

 「だ、誰だ!?」

 

 攻撃が来た方向を見る。

 そこはある家屋の屋根の上、腕を組み、精悍な顔つきでこちらを見下ろす蒼き妖精の姿が。まずい、見覚えがありすぎる。

 

 「ば、馬鹿な!? なぜお前がここに!?」

 

 チルノ、なんという厄介なタイミングで、お前って奴は…お前って奴は……!(笑)

 



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