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137話「慧音の懸念」

 

 妖怪に連行された俺は正座させられ、説教を聞かされている。どうしてこうなった。

 

 「よりによって私が里を襲おうとしているだなどと勘違いされるとは」

 

 「俺は至極全うな推測をしたつもりだ。何で同族に怒られなきゃいかんのかわからん」

 

 「……そうか、満月が近いせいで気づかないうちに妖力が漏れていたのか」

 

 彼女は上白沢慧音。半人半妖らしい。ワーハクタクという種族だそうだ。

 あれ、ハクタクってどっかで聞いたことがある。紫がそんなことを言ってたような。確か、歴史を操ることができる種族だったはずだ。ということは、こいつの力があれば俺の数々の黒歴史をなかったことにできる!?

 

 「期待のこもった眼差しを向けても無駄だ。お前のような害ある妖怪に手を貸すことはない」

 

 いかん、欲望丸出しだったか。慧音はゴミクズでも見るかのような冷たい目で俺を見下す。そうトゲトゲするなよ。

 

 「で、そのワーハクタクさんが何でこんなところで人間に肩入れしているのか気になるわけだが」

 

 慧音の説教の内容は要約すれば、人間と里に手を出すなというもの。同じ妖怪として、その考えはいただけない。人間を襲うなということは妖怪にしてみれば職務放棄に等しいからだ。

 

 「それは私が、その、人間の里の、しゅ、守護者だからだ」

 

 「何で恥ずかしそうなの」

 

 「うるさい」

 

 慧音は妖怪であると同時に人間でもある“半人半妖”。妖怪として生きるのではなく、人間としての人生を選んだようだ。里を妖怪から守ることで人間の役に立ちたいと思ったのだろう。難儀なものだ。

 そういえば昔、人間に認めてほしくて妖怪狩りをしていた不死の少女がいたことを思い出した。あいつと何となく似ている気がする。

 

 「ま、事情はわかった。しかしそれにしても理不尽だ。あんな挙動不審な態度で里の前をうろうろしてたら勘違いもする」

 

 俺は純粋な親切心から慧音を助けてやろうとしただけなのに。

 

 「あれは、ちょっと考え事をしていただけだっ」

 

 「ふむ、なにやら仔細がある様子。亀の甲も歳の功も備えたこの俺に相談してみろ」

 

 「お前には関係ないことだ。その必要はない」

 

 「まあまあ、これも乗りかかった船。迷惑をかけたお礼に俺のお節介を受け取ってくれよ」

 

 そして俺はハクタクと蜜月の関係となり、歴史改竄しまくるのだ。ぐへへ。

 

 「下心が見え見えだ……まあ、こんな話、お前にしても意味はないだろうが……」

 

 慧音は悩みを話してくれた。なんだかんだでストレスがたまっていたようである。そういうときは愚痴るだけもスッキリする。

 話によれば、悩みの種は人間関係にあるらしい。

 

 「私には妖怪の血が流れている。里の守護者と言っても、全ての人に受け入れられたわけではない」

 

 今の立場におさまるまでに紆余曲折があったという。里の人間から見ればどんな善良な者であっても、妖怪は妖怪だ。いくら味方だと主張したところで、そう簡単に信用はできない。いつ裏切られやしないかと疑心暗鬼になる。

 慧音はそれでも献身的に里のために尽くし、信頼を勝ち取った。いや、現在まさにその最中というところか。里には妖怪に家族や大切な人を殺された者もいる。そういう奴らから受けいれられることは難しいだろう。

 

 「なーるほどな、人間から支持を集めるためにはどうすればいいか、うーん……」

 

 「さっきも言ったが、これはお前に関係のない話だ。別に気にしなくていい」

 

 「水くせぇこと言うんじゃねぇよ! 慧音と俺の仲だろがい!」

 

 こうやってポイントを稼いでおけば俺の好感度がアップ、いつかデレ期に突入し、慧音の能力の恩恵にあやかれる日が来るはず。焦ってはダメだ、乙羅葉裏。今は我慢よ!

 

 「ひらめいたぜ! 作戦を説明する」

 

 「勝手に話を進めるな。作戦とは何だ」

 

 「もちろん、お前が人間と仲良くなるための作戦に決まってるだろーが」

 

 「……聞く前から望み薄だとわかりきっているが、一応話してくれ」

 

 「おう、まず第一段階として俺が里を襲う」

 

 「なんだと?」

 

 慧音から妖気が溢れ出る。作戦以前に今ここで叩き潰すと言わんばかりの表情だ。

 

 「待て待て! あくまでそういう“フリ”だ。本当に人間に危害を加えるわけじゃない。要は、俺がわかりやすい悪役を演じるわけだ」

 

 「まさか、そこに私が登場して芝居をうてというのではあるまいな」

 

 「その通り! 人間の里に突如として現れた極悪非道の大妖怪。対するは心優しき里の守護者、上白沢慧音。颯爽と現れた正義の使者が悪の親玉ときったはったの大立ち回り。そして見事、悪を倒した慧音を見て人間たちは称賛する。『ありがとう、上白沢慧音! 君のおかげで里は救われた!』。『私に任せりゃおっけーね!』。勧善懲悪大団円、これにて一件落着テンテケテンテンと、こういう寸法よ!」

 

 そして平和が戻った里からは、役目を終えた乙羅葉裏がクールに去るぜ。これぞ「泣いた赤鬼作戦」。我ながら惚れ惚れするほどの妙案だ。

 

 「茶番じゃないか。そんな八百長で人を騙すようなことはしたくない」

 

 「出任せでもいいんだよ。これは誰かを貶める嘘じゃない。お前の誠意を伝えるための嘘だ。だから気にすることはない。それともこのまま人間たちと気まずい関係が続いてもいいのか!?」

 

 「それは……」

 

 慧音は押し黙る。多数が一致団結するには共通の敵を作るのが一番だ。他でもない我が竹馬の友(予定)である慧音のためなら、多少のヨゴレ役くらい引き受けてやろうじゃないか。

 和製アサシンであるこの俺の手にかかれば、万事うまくいくのである。俺が断言したッ!

 



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