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134話「宝の真実」

 

 「穴が上に向かってる」

 

 美鈴に言われた通り道を進んで行くと、上に続く穴が見つかった。点のような光が見える。ここが出口のようである。

 ルーミアとチルノは飛行し、俺と美鈴は壁を三角跳びで登っていく。外に出ると、驚いたことに人家が結構な数建っていた。

 

 「人間の里……じゃないな。ここはどこだ?」

 

 人間の気配はなく、閑散としている。よく見れば家も壊れていた。ここは廃村のようだ。

 しかし、幻想郷に人間の里以外の集落があったという話は聞いたことがない。雰囲気もどことなく怪しく、奇妙な違和感を覚えてならない。ここは本当に幻想郷なのか。

 俺たちが抜け出た穴は地上から見ると井戸になっていた。ひとまず下に残して来た森助をロープで回収する。

 

 「またしても変な場所に出たが、宝の在処に近づいたことは間違いない。確か宝の書にはこうあった、『後は鶴が見下ろす木の根を掘るべし』。すなわち、宝はこの村のどこかの木の下に埋まっている!」

 

 「おお〜!」

 

 「それじゃあ、早速発掘しましょう! 誰が一番早く宝を見つけられるか競争よ!」

 

 「ちょっと待ってくれ君たち。そんな非効率的な方法では……」

 

 森助がまたグチグチ文句を言ってきたが、んなもん知るか。手当たり次第掘りまくれば、いつか宝が見つかるはず。根気比べなら任せておけ。

 

 * * *

 

 日が暮れかけてきた。姿の見えないカラスの声が遠くから聞こえる。発掘作業はまだ続いていた。

 

 「疲れたのだ〜」

 

 「そこ、休むな! キリキリ働け!」

 

 さすがにみんなのモチベーションも下がってきた。ルーミアは手を動かしているより、ぼけっと突っ立っている時間が長くなっている。

 

 「あははは、待て待てー!」

 

 「猫と遊んでんじゃねぇよ!」

 

 チルノに至っては野良猫とじゃれあう始末である。まったく、こいつらのやる気の短さと言ったら呆れてならない。宝が手に入れば道場を改築できる。雨漏りのしない天井に張り替え、隙間風ビュウビュウの壁も補修できるだろう。だというのに、このていたらく。師匠である俺が一番汗水垂らして泥にまみれているとはどういうことだ。

 

 「葉裏、やはり策を立て直した方がいい。このままでは時間の無駄だ」

 

 「うるせえ! お前も少しは手伝え!」

 

 「僕は肉体労働は不得意なんだよ」

 

 森助の野郎は偉そうな小言ばかりで全く作業に加わろうとしない。

 だが、その言葉も一理あると思えてきた。村の近くにある木の周辺は妖怪スタミナに物を言わせて、粗方チェックが終わったのだ。村の周りには森があるのだが、深くまでは確認していない。この村を取り囲むように不自然な霧が発生しているからだ。おそらく結界である。不用意に村から離れると結界の外に出てしまい、ここに入れなくなる可能性もある。

 

 「しゃあねぇ、頭使うより体動かす方がやりやすいんだが、ここは案を練るのが得策か」

 

 「僕もそう思うよ。書を正しく読み解けば最小の労力で利を得られる。まずは順番に考えていこう」

 

 地下の龍、美鈴への対処法についての記述までは明らかになっている。問題はその後だ。

 『地より出で迷い人の家で休む』とある。この文はさっぱりだ。疲れただろうから休めということか。いや、そんなことをわざわざ書く必要はあるまい。家に何か関係があるのだろうか。

 その次に『後は鶴が見下ろす木の根を掘るべし』とあるので俺はどこかの木の下に宝が埋まっているものだと思った。だが、この『鶴が見下ろす』とはどういう意味だ。鶴なんてここにはいない。見かける動物は猫ばかりである。それに生き物なのだからいつまでも一ヶ所に留まっているはずがない。

 

 「どしたアル。まあ、そんなむずかしい顔してないで、お茶でも飲んでおちくつアルヨ」

 

 「ああ、すまん美鈴」

 

 美鈴からお茶を受け取って飲む。ふむ、これはうまい。俺は茶の良し悪しがわかるほどの通ではないが、それでも上等品だと太鼓判を落とせる。

 

 「あれ? このお茶どっから出したんだ?」

 

 「あっちにあるの家から借りたヨ。だれも住んでないおもたら、生活の道具そろててびっくりしたアル」

 

 それは少しおかしい。人間はこの村のどこにもいなかった。人家もそのどれもが打ち捨てられており、人が住んでいる様子はなかった。茶を入れる道具が使える状態で残っているはずがない。

 

 「なるほど、そういうことか……美鈴さん、僕たちをその家に案内してくれませんか?」

 

 「いいヨ」

 

 森助が何かに気づいたらしい。美鈴の言った家はすぐ近くにあった。他の人家に比べて大きく、庭もある。しかし、造られた池は泥水で濁り、ススキが庭中伸び放題に繁っている。何より建物が半壊して崩れていた。

 

 「ほんとにここなのか?」

 

 「ほんとアルヨー。入ってみるヨロシ」

 

 ボロボロの玄関の戸を美鈴が開ける。

 

 「えっ、どうなってんだこれ?」

 

 中に入って驚愕した。綺麗に掃除が行き届いた家の中は、今もまだ人が暮らしているかのように整然としいている。どこも壊れてなどいない。縁の廊下を歩くと美しい庭が現れた。さっき俺が見た荒廃とした庭がまるで幻だったみたいに手入れが行き渡っていた。揃えられた植木が並び、池には鯉が泳いでいる。

 奥の部屋に着くと、リグルが寝かせられていた。そして座布団と淹れたての茶が五組、用意されている。

 

 「これは美鈴が用意してくれたのか?」

 

 「いや、違うアル」

 

 美鈴が最初にここに来たときも、勝手に置かれていたそうだ。何この厚待遇。普通に亡霊から襲撃を受けるより気味が悪いんですけど。

 

 「お茶はおかわり自由アルヨ。いつでもお湯が沸いてるアル」

 

 「見て、お茶菓子よ!?」

 

 「わぁい、おまんじゅうなのだー」

 

 ルーミアとチルノは茶菓子にがっつく。この時代の砂糖は非常に高価な贅沢品であり、貧乏妖怪がおいそれと口にできる代物ではないのだ。

 

 「お、い、ふぃー!」

 

 「甘いのだー。うまうま」

 

 「棚にお茶菓子、まだ入ってるネ。とり出して戸をしめると、お菓子また入ってるネ」

 

 「なんですって……!? 無限に増えるお菓子!? 師匠、アタイここに住むわ!」

 

 めちゃくちゃだな。何か裏がありそうで逆に怖いぞ。あやかしの仕業だとすればなおさらだ。

 

 「茶に毒でも仕込んであるんじゃねぇだろうな……」

 

 「たぶん心配ないよ。ここは『マヨヒガ』だ」

 

 マヨヒガ。「迷い家」と書く。奥羽の伝承に語られるところによれば、森で迷った旅人がこの怪異に出くわすことがあるという。何でも森の中に立派な家が突如として現れるが、炊事の支度がなされているというのに住人は見つからない。

 

 「その家の米櫃は何度枡ですくっても、一向に中身が減ることはないらしい」

 

 「へぇ、そりゃ経済的なこって。だがそんなものは所詮夢幻よ。俺たちが求めているのは形ある財宝だ。こんなところで一休みしてもお宝は見つからな…」

 

 「あー! 『鶴』と『木』があったのだー!」

 

 ルーミアが聞き捨てならないことを言う。その指差す方向を見てみれば、床の間に飾られた掛け軸があった。そこに描かれた絵を見て、思わず膝を叩いて立ち上がる。

 

 「空を飛ぶ鶴と、その下にある枯れ木……間違いない! これが『鶴が見下ろす木』だ。ということは」

 

 木の根、つまり掛け軸の下に宝が埋まっている!

 

 「よっしゃあ! 気合い入れて掘り返すぞ!」

 

 「「お〜!」」

 

 床の間の板をひっぺがす。この下には『この世のものとは思えぬ素晴らしき宝』が眠っていると記されていた。これで俺も億万長者よ。うぇひひ。

 しかし、ここまで苦労して見つけたという事実だけでも達成感はひとしおだ。宝探しの醍醐味が味わえて楽しかったぜ。

 

 ガキンッ

 

 「おっ! 手応えがあった! ついにお宝発見か!?」

 

 土の中から金属質の物体が出土した。俺は拾い上げ、土を払って観察する。

 

 「なんだこれ」

 

 これがお宝……か? 俺にはただの鉄クズにしか見えなかった。経年劣化にしても酷すぎる。原型がわからないくらい腐食していた。保存環境が悪すぎたか。

 その後も次々に鉄クズが発掘され、小山を作るほどの量になった。しかし、全て鉄クズである。

 

 「くそっ、一体なんなんだこりゃ!」

 

 「こ、これは!」

 

 しかし、そこで出土品を見た森助の顔色が変わる。そうか、森助には『道具の名前と用途がわかる程度の能力』がある。この鉄クズの正体がわかるはずだ。

 

 「これは確かにものすごい宝だ。こんな物を見られるだなんて思わなかったよ」

 

 「本当か! ヒャッホゥ! 喜べ、これで豪邸が建てられるぞ!」

 

 「もう雨が降ったとき雨漏りキャッチダンスを踊らなくて住むのね!」

 

 「毎日食べ放題なのだー」

 

 「いや、それは無理だ」

 

 飛び上がって喜んでいた俺たちがピタリと動きを止める。なぜだ、宝が見つかったのだから金が手に入る。当然の摂理ではないか。

 

 「この宝は、『月人の光線銃』。謎多き伝説の種族である“月人”が作り出した兵器だ。その歴史的価値を考えれば値段がつけられない。まさしく『この世のものとは思えぬ素晴らしき宝』だ」

 

 は?

 

 「しかし、見ての通り壊れている。作られてからどれだけの時間が経っているのか想像もできないよ。僕は能力を持っているからこれの価値がわかったけど、他の人はただの鉄クズにしか見えないだろうね。残念だけど、売っても鉄クズとしての価値しかつかないよ」

 

 「そーなのかー。期待して損したのだー」

 

 「そんな、アタイたちの苦労は何だったのよ! これじゃ死んでいった仲間リグルに申し訳が立たないわ!」

 

 いやいや、そんな話簡単に納得できるか。月人の光線銃? なんでそんなもんが地上にある。誰が何の目的でこんなところに埋めたんだ。

 あ、いや、何か心当たりがあるような。

 

 「うん、良いものを見させてもらったよ。わざわざ出向いたかいがあった。ところで、宝の取り分の話だけど、約束通り半分は僕がもらっていくよ?」

 

 確か一億年前の月移住計画のとき、俺が月から持ち帰った銃があった。あのあと俺は地球に落ちて、それから……まさか、この銃を埋めたのは俺!? でもあのときはこんな場所に埋めた覚えはない。はっ、もしや幻想入りしてここに移動したのか!

 

 「ちょっと師匠、なに黙りこんでるのよ」

 

 「え、いや、なんでもねぇ。取り分つったって、こんなゴミはいらん。お前に全部やるよ」

 

 「そうかい? ならありがたくいただくよ。もしかしたらマジックアイテムの材料に利用できるかもしれないからね。机上論でしかなかった星の力を借りた魔法理論を完成させることができれば、ミニ八卦炉はさらに強力に……」

 

 森助が語り出した蘊蓄を聞き流す。自分で隠したゴミを宝だと思い込んで必死に探し回るとは、なんて俺はバカなんだ。くそ、ショックがでかい。

 あれ? でも待てよ……この宝の場所を記した書を作った“大妖怪”って、誰のことなんだ?

 



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