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133話「森助、中活躍の巻」

 

 リグルめ、『黒兎空跳』は速度はあるが軌道を読まれやすいとあれほど注意していたというのに、なんという醜態。

 中国妖怪は柔らかく落ち着いた構えをしている。散漫としたその様子は一見して隙があるようで、周囲をまんべんなく把握していることがわかる。何より恐ろしいのは殺気の少なさだ。

 普通、いかなる攻撃であれども相手に敵意を向けた時点で殺気を生ずる。こと戦闘中においてはその意識なくしていられない。相手を傷つける意識なく攻撃することは、どんな達人であってもほぼ不可能なのだ。

 だというのにこの妖怪、ほとんど殺気を出さずにリグルを迎え討った。注目に敏感な俺でさえ見落としそうになるほどのわずかなものである。常人では感知は困難。その静かなる構えは無為自然にして、近づく者を刈り取る嵐の如し。戦地にありて供手を貫くかのような相反する在り方は、まさに陰陽入り交じる太極図、これが真の太極拳だというのか。奴の背後に円環を描く陰陽魚が見える……!

 

 「だがしかーし! パワーイズジャスティスこそが必勝の真理。リグルを倒した程度でいい気になってもらっては困るな」

 

 「奴はアタイたち、乙賀四天王の中でも最弱のカオス。さらにアタイはまだ三回の変身を残しているわ!」

 

 「ケツ突きだしやがれなのだー」

 

 俺とチルノとルーミアは発掘用スコップを手に、中国妖怪を取り囲む。三対一なら負けん!

 しかし、そこで森助からストップがかかる。

 

 「ちょっと待ってくれ。敵はなかなかの手練れだ。君たち小妖怪が束になっても勝てない」

 

 俺たちのスコップの矛先が森助に向く。非戦闘員の分際でほざきやがる。まずはお前から血祭りに上げてやろう。

 

 「君たちときたら、いかにもやっつけてくださいと言わんばかりの様子で、見ているこっちがハラハラする」

 

 「じゃあ お前が何とかしてみろ!」

 

 「ああ。だから僕なりに状況を考察してみた。鍵は宝の書に記されていると思う」

 

 そんな記述があっただろうか。『死人の横穴をふさぐ龍』、確かその次の文章は『妨げる者を通す』。妨げる者? こちらが逆に道を妨げられているわけだが。

 

 「どういう意味だ? 妨げるってことは邪魔をするってことだろ。あいつはこの墓を守ることが仕事なわけだから、それを邪魔する、つまり強引に突破しようとする俺たちを通してくれる? ああもう、わけわからんわ!」

 

 「それだと意味がつながらない。書にある文は『妨げる者を通す』。問題は“何を”妨げるかだ。そこで思ったんだが……あの妖怪の顔をよく見てくれ」

 

 敵の顔に何の関わりがあると言うのだ。見てみたが特に変わったところはない。整った顔立ちで、目は閉じている。暗闇の中でも相手の動きに対応するため、あえて視覚を絶っているのか。まるで眠っているように見えるほど穏やかな表情だ。はなちょうちんも出ている。

 

 「って、マジで寝てんのかよ!?」

 

 寝ながら戦うなんて器用な妖怪である。無意識のうちに戦っているから殺気が微量しかなかったのか。

 

 「そう、あの妖怪は寝ている。つまり妨げるとは、眠りを邪魔すること。眠りから覚ませばいいということだ」

 

 森助が明かりにしていたマジックアイテムを高く掲げる。

 

 「ミニ八卦炉、出力全開!」

 

 そして輝くまばゆい光。地下墓地の中を照らしていく。

 

 「うおっ、まぶしっ!」

 

 直視できないくらいの強い光がしばらく続き、やがて収まった。目がいてぇ。

 

 「んっ、ふおぁ〜……おはようございまふ〜」

 

 強い光を朝日とでも勘違いしたのか、大あくびとともに妖怪が目覚めた。

 

 「式の拘束から解放されたのか? もう危険はなさそうだな。おい、ちょっと聞きたいことが…」

 

 グギュウオオオァ!!

 

 突如として響き渡った咆哮に驚く。まだ他にも敵が残っていたのか!?

 

 「お、おなか空いタヨ……」

 

 と、思ったら中国妖怪の腹の音だった。びっくりさせんなよ。

 

 * * *

 

 切りがいいので昼食休憩をとることに。腹が減って死にそうになっている中国妖怪にはリグルの弁当を与えた。

 

 「いやぁ、ご飯おいしかたデス。元気なりマシタ。謝謝!」

 

 この妖怪の名は、紅美鈴。長い間、この墓を守る式として捕らわれていた。

 だが、本人は墓守りをしている間ずっと寝ていたらしい。眠らされることで意識を奪って従順にさせられる催眠術のような式をつけられていたそうだ。

 

 「人間のワナにかかたと思たっら、ここにイタヨ。よく覚えたないネ」

 

 式は日の光に当てることで剥がれるタイプのものだったようだ。森助フラッシュが太陽光の役割を果たしたようである。

 

 「日本語、上手だな」

 

 「ありがとチョンマゲ!」

 

 宝のことについては何も知らないそうだ。当然と言えば当然である。

 

 「ま、先に進めばわかるさ。飯食ったら出発するぞ」

 

 「君たち、よくこんな場所で食欲が湧くね……」

 

 「ごはん食うのだー」

 

 美鈴は俺たちについてくることになった。彼女がこの場所に居続ける理由はもうない。宝に興味はないみたいだが、とりあえず外に出たいらしい。

 軟弱なリグルは未だに気絶中だ。別にここなら危険もないので放置していこうかと思ったが、美鈴が運んでくれるという。

 

 「でも、どっちが出口何だ?」

 

 美鈴がいた広い空間にはいくつも通路がつながっていた。どこに行けば出口なのかわからない。ところで、俺たちが入ってきた穴はどれだっけ……まあ、森助が覚えているだろう。

 

 「こちアル。こちの穴から陽の気が流れてくるアルヨ」

 

 『気を使う程度の能力』を美鈴は持っているそうだ。外から流れ込む気を感じ取ったらしい。行ってみよう。

 



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