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132話「墓守り妖怪」

 

 宝を探していたら地下に作られた巨大な墓地へたどり着いた俺たち。実に陳腐な展開である。これで棺からミイラが飛び出してきてエキゾチックな呪いにかけられたら完璧だったが、味気ないことにモンスターは現れなかった。

 

 「これだけ死体があるのに亡霊一匹いないなんて変じゃないか?」

 

 この墓地には地上より濃いめの妖気が充満している。亡霊なんていないにこしたことはないのだが、いないならいないで逆に怪しく思えてくる。

 

 「ここは少し特殊な場所のようだよ」

 

 どうしてこんな場所に墓が作られたのか。その謎を探るべく、森助は棺を丹念に観察していた。

 

 「棺に術式が張り巡らされている。これはおそらく、仙術に由来するものだ」

 

 「センジュツ?」

 

 「道教の秘術だ。この国ではマイナーだから知らなくても仕方ない。僕もかじる程度の知識しかないけどね」

 

 道教とは日本ではなく大陸、俺の前世で言う中国で興った宗教らしい。自然と一体となることを目指し、超人的な能力を持った仙人となることを理想としている。

 

 「推測だが、これは仙人になるための研究の成れの果てだ」

 

 仙人とは本来、厳しい修行の末に真理へ至った者だけがなることを許された超越的存在である。森助によれば棺に封魂の法なる術が施されているらしい。

 

 「死後の肉体と魂を棺に閉じ込めることで強引に甦ろうとしたのだろう。当然、失敗したみたいだけど」

 

 復活思想というものは太古の昔からある。甦りは究極の神秘性の体現であり、もしそれが可能だとすれば仙人の力を手に入れるくらいの奇跡が起きたところで不思議はない。できればの話だが。

 ここにある棺桶は全部、厳重に封印されているようだ。霊魂が外に漏れることがないため、これだけの死体があるにもかかわらず、亡霊が出現しないわけだ。とっくに死んでいるというのに成仏することも悪霊になることもできず閉じ込められたままというのは、何ともかわいそうな奴らである。

 しかし、俺たちの目的はあくまで宝の発見。仙人がどうとか、そんな話に興味はない。

 

 「気をつけて進んだ方がいい。墓を守るための呪いが仕掛けられているかもしれない」

 

 「はっ、呪いが怖くて妖怪がやってられるかっての」

 

 まあ、こういうダンジョンに罠が仕掛けられているのはお約束である。注意はしておこう。

 そう言えば、宝の書には意味深なことが書いてあった。『死人の横穴をふさぐ龍』。龍とは何のことだ。まさか本物の龍というわけはあるまい。あれは鬼と並び支配階級に属するほどのヤヴァイ連中だ。こんな辛気くさいところにいるとは思えない。

 考えにふけっている内に、周りの様子が変わった。細い通路から広い空間へと出る。

 

 「ここは一体なん、どぅおっ!?」

 

 突然、何かが俺に襲いかかってきた。闇に紛れて一瞬見えたのは人の腕らしきもの。とっさに木製腕でガードしたが衝撃を殺せず、吹き飛ばされる。

 

 「師匠!?」

 

 「気をつけろ! 敵がいるぞ!」

 

 不覚。俺としたことが、敵の存在に気がつかなかった。こちらに注目が集まればすぐに察知できたはずだが、なぜだ。『百見心眼』で相手を捕捉する。

 闇の中から現れたのは一人の少女。無論、ただの人間であるわけはない。妖怪だ。髪の色は赤く腰まで届く長さがあり、緑色のチャイナドレスっぽい服を着ている。

 そして、帽子にはデカデカと「龍」の文字が刻まれた星形のエンブレムが!

 

 「急に攻撃してきやがって。おめー、なにもんだ!」

 

 「……」

 

 妖怪は何も言わない。こちらの話など聞こえていないかのように無視している。

 

 「この妖怪は恐らく墓の守護を命じられた“式”だ。どうやら説得が通じる相手ではなさそうだね」

 

 人間に使役された妖怪か。いずれにせよ、戦う以外に道はない。

 

 「よし行け、リグル」

 

 「えぇっ!? 何で僕!?」

 

 まずは敵の力量を計る。奴の注目は、なぜかボンヤリとしていて明確ではない。俺は常に敵の視線から次の攻撃を予測する戦闘スタイルであるため、この妖怪は見ていてしっくりこないのだ。この違和感の原因が何なのか気になる。

 

 「師匠がやればいいじゃないですか。別に僕じゃなくても……」

 

 「なに、俺の見立てではあの妖怪、大したことはない手合いだ。俺がいつも活躍してしまっては、お前たちに成長がない。弟子に華を持たせようとする師の気持ちがわからんか」

 

 「そ、そうですかね」

 

 「お前の力なら楽に仕止められる相手だろう。仮にも乙羅暗殺拳道場の末席に名を連ねる者、身の程知らずの妖怪に格の違いを教えてやれ」

 

 「……ふっ、そこまで言われちゃあ仕方ありませんね。おい、そこの妖怪! お前を倒すのはこの僕、リグル・ナイトバグさ!」

 

 リグルはバァサッとマントを翻し、ビシリッと妖怪に向けて指を突き立てる。

 

 「君も運が悪かったね。けど大丈夫、勝負は一瞬さ。この僕に倒されることを名誉に思うがいい。ヒャハッ!」

 

 殺法『黒兎空跳』を使って、リグルは敵妖怪に急速接近していく。

 

 「これで終わり……っ!?」

 

 それに対して中国妖怪は、慌てず騒がずゆったりと肘を前に立ててリグルを迎える。まずいなリグルの奴、あのまま行ったらカウンターの肘に向かってドストライクコース一直線、

 

 「ですよねぇーーーーぐゅえるぁっ!!」

 

 爽快感あふれる放物線を描いてリグルは吹っ飛ばされ、壁にぶつかって沈黙した。

 うむ、いいかませっぷりだ。

 



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