130話「助言する賢者」
「それで、私に何の用かしら?」
俺とリグルがスキマの中でフュージョンしてヨリグルになりかけた頃合いで解放された。未知の体験だったぜ。
「なに、紫とクイズ遊びでもしようかと思ってな。いつも暇だ暇だと言っているお前に娯楽を提供してやろう、そういうわけだ。これを見てくれ」
俺は宝の地図(書?)を紫に渡す。紫はつまらなさそうに目を通していく。
「まあ、ちょっとした謎解きだよ。といっても、幻想郷最強の知力を誇る八雲紫にとっては肩慣らしにもならない楽な問題だったかな?」
こういう言い方をすればプライドの高い紫のことだ。必死になって考えるに違いない。俺はほくそ笑む。しかし、いかに紫といえどもこの難問には苦戦するだろう。せいぜい俺の代わりに頭を痛めるがいい。
「解けたけど」
「嘘だッ!」
正味10秒の瞬殺であった。
「幻想郷のことで私の知らないことなんて、逆に珍しいくらいよ」
「ありえねぇ! そうか、もしやこの地図、お前が書いたんだな! 隠したお宝は何だ!」
「……ねぇ、葉裏。今はあなたのお遊びに付き合っている暇はないの。“大結界騒動”のことは知っているでしょう?」
紫が成立に関わった幻想郷の一大事業、博麗大結界に関わる一連の事件のことだ。目下、この異変は規模を拡大中のようである。紫が忙しがるなんて、よっぽどの事態であるらしい。
「だがそんなことどうでもいいんじゃい! さっさと宝の隠し場所を吐けや!」
「じゃ、そういうことで私は失礼するわ」
スキマの中に消えていく紫。容赦ないね、ほんと。ウサギは構ってくれないと死んじゃうんだよ。
「待って! わかった。俺の仲間になれば、お前に宝の四分の一をやろう。悪い条件ではないはずだ!」
「興味がないわ。その宝が何なのかまではわからないけど、私の欲しいものではないことは確かよ。さようなら」
「見捨てないで紫さま! せめてヒントだけでもーっ!」
紫は躊躇なく立ち去った。ちっ、薄情な奴め。今度会ったらスキマの中で失禁してやる(死を覚悟で)。
だが、閉じかけていたスキマから紫が首だけ出してきた。
「まずは玄武の沢へ行ってみなさい。後は自力で何とかすることね」
それだけ言い残してスキマに消えた。これは重要な手がかりではなかろうか。さっすが紫、持つべきものは腐れ縁。俺はお前のことを信じていたよ。
「玄武の沢……確かキノコの森の近くにそんな名前の谷川があったような」
奇妙な形の岩が多く、無数の洞窟がある。前に一度、秘密基地を作ろうとしたときに行ったことがあった。よく考えたら、この道場自体秘密基地レベルじゃんということに気づき、早々に徹底したが。あのときは、チルノだけが頑なに秘密基地建設に固執して、日が暮れるまで道場に帰ってこなかった。夕飯時にコソコソ帰宅したチルノをみんなで笑いながら食卓を囲んだ。その夜、ぐずるチルノのために近くの木の上に俺が突貫工事でツリーハウスを作ってやったのはいい思い出だ。
「懐かしいねぇ。あのときのお前らときたら、ほんとに可愛かったわ」
「それ、つい三日前の出来事ですけど」
っと、感傷にひたっている場合ではなかった。
そこへ行けと言うからには理由があるはずである。玄武の沢にある特徴と言えば……
「確か“玄武”を祀る祠があった。そうか、謎が解けたぜ!」
玄武は長生きした亀の聖獣である。その点、俺とは同じ亀でも異なる種族である。聖なる獣と呼ばれることはあり、神様に近い存在だ。人間たちから祀られる程度には崇められている。
「そして玄武には当然、甲羅がある。それが『神の甲羅』だ」
これではっきりした。宝の在処は『玄武の沢』だ。まだ解けていない謎が残っているが、行けば自ずとわかるだろう。
* * *
「はい、これお弁当です。森助さんの分も用意しておきましたから」
「わざわざすみません。ありがとうございます」
みすちーから弁当を受け取り、リュックに詰める。他にもロープとスコップを装備。オヤツも用意した。宝を発掘する準備は万端だ。
「ルーミアはオヤツ何にした? 僕は椎の実」
「干し柿なのだー。もぐもぐ」
「なんですって。アタイのアイス(原材料:水100%)とトレードしない?」
「君たち、遠足に行くんじゃないんだけどな……」
全員、やる気に満ち溢れているようだ。これは良い結果が期待できそうである。
「留守は任せたぜ、みすちー」
「いってらっしゃ〜い」
探索隊は俺、森助、ルーミア、リグル、チルノの五人だ。みすちーは家事があるため、お留守番である。
では、お宝探索隊、出発だ!