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128話「謎の遭難者」

 チュンチュン……チュン……

 

 ん、もう朝か。え、ルーミア? 俺の隣で寝てるよ?

 

 「すー、すー……んにゃ?」

 

 ルーミアも小鳥のさえずりの声に目が覚めたようだ。ちなみに俺たち全裸。昨夜も激しい鍛練に取り組んだ。ルーミアも最近はテクを上げてきたようで、俺も簡単に一本が取れなくなってきた。ふっ、成長しやがって……

 俺の腕枕ゴーレムハンドに頭を預けるルーミア。横から抱きつくように寝そべるルーミアを尻目に、俺はタバコを吸う。質の悪い煙の臭いが空気に溶けていく。そして、天井を見ながら告げた。

 

 「俺、お前のこと本気じゃねーんだ。遊びだったんだよ。全部な」

 

 「そーなのかー」

 

 トントンと戸を叩く音がする。部屋の向こうから声がかけられた。

 

 「師匠、いつまで寝てるんで…」

 

 入ってきたリグルがこちらを見て盛大なため息をつく。

 

 「はいはい、リア充DQNごっこはそれくらいにして、さっさと起きてください。体操の時間ですよ」

 

 おっと、もうそんな時間か。朝のみすちー体操がはじまっちまう。

 

 「こうしちゃいられねぇ! 行くぜ、ルーミア!」

 

 「行くのだー」

 

 今日も乙羅暗殺拳道場は平常運行である。

 

 * * *

 

 薪集め。

 それは日常生活を送る上で必須にして実に面倒くさい仕事である。乾いた木の枝を延々と拾い続けるだけの作業に楽しさなどない。つまみを捻れば一瞬で火が灯るガスコンロの何と偉大なことか。今度、河童に作ってもらおうかな。

 

 「師匠、ちゃんと集めなさい! そんな調子じゃ日が暮れてしまうわ!」

 

 「へいへい」

 

 俺とチルノは妖怪の山の麓で薪集めをしていた。道場の師匠であるこの俺が薪集めなどやってられるかと言いたいが、何にしろ暇であることに変わりはない。みすちーに家事を全部押しつけているので、これくらいのことはやらないとね。

 ルーミアとリグルの二人は、俺たちと別行動で薪集め中である。

 

 「早く燃料を集めないと……手遅れになってしまう。待ってて、みすちー。必ず届けてみせるわ」

 

 すでにお前の頭が手遅れである。そんな思考ができるなんて退屈しなくていいな。全くうらやましくはないが。

 山の木は黄色から紅く色づき始めた。いよいよ秋真っ盛りといった時期だ。枝と一緒に、食べられそうな木の実はないか探していく。くるみ食いてえ。

 

 「師匠、こっちに来て!」

 

 「なんじゃー」

 

 チルノが俺を呼んだ。行ってみると、人間の男が倒れている。

 

 「ほぅ、珍しいこともあるもんだ。こんなところに人間の行き倒れとは」

 

 人間は基本的に人里を中心に活動している。博麗の巫女のような例外もいるが、普通は妖怪がうろつく森に一人で入るような馬鹿はいない。

 俺とチルノは枝で男をつんつん突っつく。

 

 「う、うぅ……」

 

 どうやら意識はあるようだ。見たところ目立った外傷もないし、病気か飢えで倒れたのだろう。

 しかし、よく見ればただの人間ではなさそうだ。霊力と妖力をともに感じる。この気配、魂魄妖忌と似ている気がする。

 

 「こいつ、どうする?」

 

 「もちろん助けるに決まってるわ。弱き者を放っておくことはできない」

 

 妖精に弱き者扱いされるとは、この男も形なしだ。もし出会ったのが俺たちじゃなくルーミアだったらジ・エンドだったな。

 ま、退屈していたところだし、気晴らしに助けてやろう。

 

 * * *

 

 「ガツガツムシャムシャ……!」

 

 道場に運んだ後、男は起き上がった。よっぽど腹が減っていたらしく、みすちーが飯を運んでくるやいなや猛然とたいらげていく。妖怪に取り囲まれている状況で平然と飯を食っているあたり、腹がすわっているのか、それとも俺たちのことを気にする余裕もないほど空腹なのか。

 

 「ふぅ……ごちそうさまでした」

 

 「おそまつさまでした」

 

 ようやく箸を置く。みすちーが食器を下げるのを待って話しかけた。

 

 「落ち着いたか?」

 

 「ああ。いや、挨拶が遅れてしまって申し訳ない。助けてくれてありがとう。あのままだと死んでいたかもしれない」

 

 「妖怪の気まぐれだ。気にするな。それよりお前、里の人間じゃないな?」

 

 ただの人間なら助けることはなかった。この男には人間とも妖怪ともつかない不思議な雰囲気がある。現に妖怪を前にしても動揺がない。強そうには見えないが、何者か気になるところだ。

 

 「僕はよそ者だよ。つい最近ここへ来たんだ。渡世人のようなものだと思ってくれ」

 

 「ふーん」

 

 外界から隔離されたこの場所に入ってくるとは、よほど変わり者の人間らしい。

 渡世人とは決まった職に就かない博打打ちだ。この時代においては、ただの自堕落という意味ではない。一定の身分と品格ある者たちである。時代劇などで「おひけぇなすって、あっしの生まれはナントカカントカ……」と決まり文句を言う人のことだ。あの挨拶をされると宿屋は無償で一晩これを泊めてやらなければならない。

 だが目の前の男は渡世人というより、どこかの武家のひょろい三男坊あたりと言った方がしっくりくる様子がある。

 

 「ところで、何で君は裸なんだ?」

 

 「裸ではない。ナチュラル森ガールスタイルと呼べ」

 

 しかし、さすがに男の前でこの姿はいささか無防備すぎるというものか。この男のロリコン本能を刺激して劣情を引き起こしてしまうかもしれん。念のため、デリケートゾーンに符を貼って隠す。乳首とデルタ地帯の三点貼りガード。完璧だ。

 男は始終、無表情である。

 

 「そんなことはいいとして、何であんなところで倒れてた?」

 

 「それは……」

 

 言葉につまっている。しばらく何か考えたようにして、口を開く。

 

 「隠してもしかたがないか。実はある宝を探してここにたどり着いたんだ」

 

 「宝? なんじゃそりゃ」

 

 「どんな宝かは、僕にもわからないけどね。宝の地図を見つけたんだよ」

 

 そう言って男は懐から一枚の古ぼけた紙を取り出す。

 

 「宝の地図って……そんなもん99%偽物だろ。信じるなよ」

 

 「いや、これは本物だ。僕の能力で鑑定したところ、正真正銘宝の地図であることがわかった」

 

 男は『道具の名前と用途がわかる程度の能力』を持っているそうだ。一攫千金を目指して宝を探し、幻想郷にあることを突き止めたまではよかったが、予想外の妖怪の多さに捜索が難航した。

 

 「あー、今は特に気が立ってるときだからねぇ」

 

 巷では大結界騒動というものが起きているらしい。この道場はそんなもんどこ吹く風だが。

 

 「僕は見ての通り戦闘が得意な方じゃない。何とかやりすごしてきたけど、森で道に迷ってね。遭難してしまったんだ」

 

 「そうなんですか」

 

 「そこで一つ提案がある。よければ、僕と一緒に宝探しをしてみないか?」

 

 男には土地勘がなく、戦闘力もいまいち。このまま捜索を続けても見つかるかどうかわからない。だが、俺たち道場チームが協力すれば発見の確率は格段に上がるだろう。

 宝が手に入れば金になる。妖怪にとって人間の貨幣はあまり必要なものではないが、使い道がないわけではない。場合によっては道場小屋のリフォームも可能だ。劇的にビフォーでアフターな感じに大改築するチャンスである。

 

 「宝探し、ロマンじゃねぇか。よかろう! 和製アサシン団が全力でバックアップしてやろう!」

 

 男とがっちり握手。トレジャーハンター(仮)の血が騒ぐぜ!

 



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