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124話「そして彼は焼き鳥になった」

 

 ――回想――

 

 『チュンチュン。人間が作った作物は美味しいチュン。怒られるのは恐いけど、また人里に来てしまったチュン』

 

 「コーッ、コケコケッ!」

 

 『あれ? あの声は……行ってみるチュン!』

 

 パサパサパサパサ!

 

 『大変だ! 鳥さんが人間に捕まっているチュン! すぐに助けるチュン!』

 

 キュオオ……(妖力弾を発射しようとしている)

 

 「コケコッコ、コケ!(訳:お待ちなさい、スズメのお嬢さん)」

 

 『鳥さん! 大丈夫です、私が妖力弾でこんな檻、すぐに壊してみせますチュン!』

 

 「コケーッ、コッコッコッ、コケコケコッコッコッ!(訳:いけません。早くここから逃げなさい。じきに妖怪退治人がやって来ます)」

 

 『そんなことできません! お仲間を見捨てて私だけ逃げるなんて!』

 

 「コォーコッコッコ、コケッコォコケ、コケー!(訳:心配は無用です。わたしは人間に捕まったのではないのです)」

 

 『ど、どういうことですか?』

 

 「コケコケコーッ、コッココーッコッケコケコ!(訳:わたしはしがない一羽の飼いニワトリ。生まれたときから人里で育てられてきました。わたしにとって、世界とはこの金網に囲われた檻の中だけなのです。わたしはこの檻の外で生きる術を知りません。外に出ることに意味はないのです)」

 

 『そんなっ!? このままだと、あなたは人間に食べられちゃいますよ!?』

 

 「コケッ、コーッコケッ、コッココッコ、コォー……(訳:わかっています。すでに何羽ものニワトリたちがこの檻から消えていくところを見送ってきました。わたしも幼い頃は怖かった。逃げ出そうとしたこともあります)」

 

 『だったら……!』

 

 「コケッ!(訳:でもっ!)」

 

 (ニワトリ、しばらくうつむき、空を見上げる)

 

 「コケ、コケコケ、コケー、コケコッコッ、コケコケコー。(訳:でも、今では恐れなどありません。思えば、この檻から去っていくニワトリたちの表情は、一様に憑き物が落ちたかのようでした。今なら、わたしにも彼らの気持ちがわかる気がします。わたしたちにとって、それは動かざる運命なのです)」

 

 『ニワトリさん……』

 

 「いたぞ、あそこだ! あの鶏小屋のところにいるスズメだ!」

 

 「あれが最近、畑を荒らし回っていた鳥か。確かに微量だが、妖力を感じる。ただのスズメではないぞ!」

 

 『しまったチュン! 人間に見つかってしまったチュン!』

 

 「コケッ!? コォー! コケコケーッ!(訳:まずい! ここはわたしに任せて、貴女は早く逃げるのです!)」

 

 ゴスゴスゴスゴスバキッ!(ニワトリが檻の鍵をクチバシで破壊)

 

 「うおっ!? 何だ、急にニワトリが飛び出してきたぞ!」

 


 「コケェーッ! コケコケェーッ! ゴッ!?(訳:わたしが時間を稼ぎます! わたしのことは気にせずに行きなさ……ぐあっ!?)」

 

 (ニワトリ、人間に捕まる)

 

 『ニワトリさん!?』

 

 「何だコイツ、いててて! 暴れるな!」

 

 「コケコケー! コケーッ、コッコッコ、コッコッコケ!(訳:くっ、我が身のなんと非力なことか。小さなスズメ一羽、守ることもできないとは)」

 

 『もう止めてください……私のことはいいから……』

 

 「コケコケ、コォーッコッコッコッ、コーケコッコーッ!(訳:行きなさい。貴女がここで一生を終えるには若すぎる。檻に囲われて生きていく鳥は、わたしのようなニワトリで十分です。貴女は空を飛びなさい。何にも縛られることなく、この広い空を……わたしの分まで……!」

 

 ――わたしの分まで――

 ――わたしの分まで――

 ――わたしの分まで――

 ↑(エコー)

 

 『ニワトリさーーーーーーん!!』

 

 ――回想終了――

 

 * * *

 

 『ということがあったのですチュン』

 

 「…………えっ、あ、そう」

 

 はっ!? いけね、寝てた。まあ、聞き流しても問題ない話だったよな。

 

 「なるほど、つまり暗殺術を学びたいということだな」

 

 『葉裏さんって、もしかしてアホですか?』

 

 リグルがなにやら失礼なことを言っているが、今の話を要約するとそういうことだろう。俺が断言したっ!

 おお、これは名言じゃないか。「俺が断言した」。メモしておこう。

 

 「暗殺術とは、すなわち目的のためなら自らの命さえ犠牲にする技。だが、それゆえに無駄な犠牲を払うことは絶対に許されない。あらゆる環境下に適応し、手段を選ばず合理的に行動する。時にそれは卑怯とも言えるだろう。だが! その意地汚なさを罵られようとも恥を忍んで最後まで生き続ける。それが強者だ。どうだ、お前が捨てかけたその命、諦める前に和製アサシンとしての道を目指す気はないか?」

 

 『待って! もう少しアドリブ入れようよ、ねえ!?』

 

 『暗殺術……それを学べば、私にもあのときのニワトリさんの気持ちがわかるようになるでしょうかチュン?』

 

 『ええぇ!? どんな解釈だよそれ!?』

 

 「無論だ。俺はそのために乙羅暗殺拳を世に広めんとする伝道師、乙羅葉裏。和製アサシンの真髄を知りたければ、俺についてくるがいい」

 

 『はいっ! わかりましたチュン!』

 

 『ダメだこいつら、もう好きにしたらいいよ……』

 

 こうしてスズメ妖怪こと、ミスティア・ローレライが仲間になった!

 

 * * *

 

 ルーミアとリグルとミスティアを連れた俺は森を行く。

 途中で何匹かの小妖怪に出会ったが、弟子として勧誘する以前に意志疎通が取れるだけの知能がないケダモノしかいなかった。観測班(リグル、ミスティア)が敵を察知、戦闘班(俺)が適当にぶちのめし、処理班ルーミアの手に渡すという流れ作業を繰り返すこと数回、ようやく湖にたどり着いた。さすが幻想郷、エンカウント率の高さが異常である。

 

 「おお~、ここが湖か。湿気てんな」

 

 もんわりした霧が立ち込めて、ジメジメしている。もっと爽快で清涼感のある風景を想像していたのだが。だがまあ、亀妖怪である俺にとってはそれほど不快な環境ではない。よし、ここに道場を建てることにしよう。

 


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