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123話「一旦落着」

 

 みるみる小さくなっていくルーミアの妖力。効果は覿面だった。発動してはじめてわかったが、予想を遥かに上回るえげつない術式だ。ルーミアはどんどん妖力を符に吸い取られている。

 お察しのところかと思われるが、この符は俺が作ったものではない。こんな高度な術式を俺が扱えるわけない。これは聖輦船に置いてあったものである。

 聖輦船のもとの形は飛倉であり、聖命蓮の持ち物だ。命蓮が記したと思しき書物が数多く納められていた。その中にこの符も保管されていた。一緒に添えられていた解説書らしき巻物に目を通し、ほぼ解読不能であったが妖怪を封印する用途があることがわかった。符には法力も込められており、インスタントに使える術のようだったのでネコババ、げふんげふん、符術研究の参考のために拝借したのだ。

 命蓮特製封印符の力は凄まじく、あっという間にルーミアは妖力を搾り尽くされてしまった。そして現れる幼女。妖力を失ったルーミアはさっきまでのナイスハデイを維持できず、俺と同じくらいの見た目年齢にまで引き下げられたではないか。恐るべし命蓮、グッジョブ命蓮。

 

 「ふぁ〜、びっくりしたのだー」

 

 「……え」

 

 どちら様ですか?

 幼女化したルーミアは、カリスマがごっそり抜け落ちていた。服もグレードダウンしてシンプルなものになっている。さらに性格まで変わっていた。

 

 「お前、どうしちまったんだよ、なあ……ルーミアァァ!」

 

 「わはー」

 

 いや、こんなふうにした原因は俺なんだけどね。本当は一時的に封印するだけのつもりだったが、符の効果が強すぎて俺にも解除できそうにない。

 

 「まあ、なんだ、こまけぇこたぁ気にすんな! こうなったら忍者になっちゃおうぜ」

 

 「わかったのだー」

 

 わかられてしまった。

 これが後の、乙羅暗殺拳継承者と名を馳せることになる和製アサシン・ルーミア誕生の瞬間であった。とか、勝手な未来を想像しながら言ってみる。

 

 * * *

 

 弟子の確保はできた。体の震えもおさまってきたので、次は道場を開く場所を決めよう。

 野宿でも問題ないのだが、目に見える感じで建物があった方が何か権威的な気がする。そこから噂が広まって、門下生が増えるかもしれない。

 場所を探すのと平行して弟子に取れそうな妖怪も見つけよう。ルーミア一人だけでは道場という感じがしない。幻想郷には妖怪がたくさんいるようなので、すぐに弟子がわんさか増えるだろう。

 ルーミアを連れて森を歩いてみた。だいぶ深いところまで来ていたらしく、現在地は不明である。

 

 「ルーミア、ここら辺に見晴らしの良いところはないかね?」

 

 「それならこっちに湖があるよ」

 

 じゃあ、そこに行ってみるか。とりあえず行ってみて考えよう。

 今後はルーミアを先導にして進んでいくと、突然彼女は立ち止まった。もう着いたのか。湖など見当たらないが。

 

 「虫がいたのだー」

 

 どうやら虫を発見したらしい。小学生男子ではあるまいに虫一匹程度見つけたところでいちいち報告はいらないのだが。ここは森である。虫なら腐るほどいる。

 

 『いやああああ! 捕まったああ!』

 

 しかし、ただの虫ではなかった。喋るホタルである。明らかに妖怪だ。短命な虫でも特殊な条件を満たせば妖怪化すると聞いたことがある。

 

 「しかし、昼間に見るホタルなんて光ってんのか光ってないのかわからんな」

 

 「食べていい?」

 

 『見ないでぇ! 食べちゃだめぇ!』

 

 俺はホタルのケツを観察し、ルーミアはよだれを垂らして食おうとしている。

 

 『ううっ、私の命もここまでか……煮るなり焼くなり好きにすればいいさ!』

 

 ルーミアの舌の上でくたっとなったホタルが諦めの言葉を吐く。

 

 「待て、ルーミア!」

 

 「んごぐっ!?」

 

 だが、俺はルーミアの口に手を突っ込んでそれを止めた。

 

 「諦めるのか、ホタル」

 

 『いいんだ。私は所詮虫けらだよ。ここまで生き延びられただけでも奇跡みたいなものだったんだ。これ以上何かを望むことなんてできない……』

 

 「馬鹿やろう!」

 

 「おぐえぁっ!? い、いひゃい〜!」

 

 俺は怒声とともにルーミアの舌を引っ張り出す。そして、よだれでベトベトになったホタルに言ってやる。

 

 「生きることは徹頭徹尾、汚れている」

 

 『え、急にどうしたんですか?』

 

 誰かの犠牲の上に誰かの命が救われている。その理は、妖怪だろうと人間だろうと虫けらだろうと変わらない。なればこそ、最後まで諦めない者こそ強者なのだ。

 

 「暗殺術とは、すなわち目的のためなら自らの命さえ犠牲にする技。だが、それゆえに無駄な犠牲を払うことは絶対に許されない。あらゆる環境下に適応し、手段を選ばず合理的に行動する。時にそれは卑怯とも言えるだろう。だが! その意地汚なさを罵られようとも恥を忍んで最後まで生き続ける。それが強者だ。どうだ、お前が捨てかけたその命、諦める前に和製アサシンとしての道を目指す気はないか?」

 

 『はあ……(なに言ってんだろ、この人)』

 

 「俺の名前は乙羅葉裏。暗殺術を極めし和製アサシンだ。ホタル、お前が望むのなら、生き抜くすべを教えてやろう」

 

 『えっと、じゃあお願いします(とりあえずうなずいておけば食べられずにすみそう))』

 

 こうしてホタル妖怪こと、リグル・ナイトバグが仲間になった!

 

 * * *

 

 ルーミアとリグルと俺は森を行く。するとまたしてもルーミアが何かを発見したらしく、立ち止まった。茂みの中にダイブしてごそごそしている。

 

 「捕まえたのだー」

 

 今度は何を捕獲したのかと覗きこんでみれば、ルーミアの手の中にいたのは一羽のスズメだった。わずかだが妖力を感じる。やはり妖怪のようだ。

 

 『これ、さっきと同じ展開っぽくない?』

 

 「しっ! 静かに!」

 

 しかし、なぜかとても弱っている様子だ。妖力を消耗している。死にはしないだろうが、かなり疲れているようである。

 スズメは息も絶え絶えに何かを言おうとしていた。

 

 「おい、何があったんだ?」

 

 『チュン……私は、人里から逃げて来たのです……人里で私は……』

 



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