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120話「宵闇降りる」

 

 ようやくまともな術が使えた。この形になるまでにどれだけの失敗を重ねてきたことか。無駄にした符の量は計り知れない。だが、その犠牲を礎としてここまでの術を作り出せたのだから、全くの無駄ではなかったのだろう。

 俺は分身を操りながらルーミアへ接近する。

 

 「本物のあなたの攻撃しか私には当たらないのだから、こんな術、見破るのは簡単!」

 

 前後から挟み込むように近づく。ルーミアの前から迫る“俺”は分身で、後ろの“俺”が本物だ。

 ルーミアは迷わず目の前の“俺”に斬りかかった。分身には防御力もない。攻撃が当たると、あっさりと破裂して毒霧を撒き散らしながら消えてなくなる。

 

 『ハズレだ』

 

 背後からルーミアを殴りつける。前方に気を取られていたルーミアは回避できない。

 

 「ぐっ……! 一発当てただけで調子に乗らないでよ。これで本物を特定したわ」

 

 固い、というか手応えがあまりない。殺す気はないので軽く殴ったつもりだったが、予想より大したダメージは通っていないように感じる。

 

 『昏倒させるつもりだったんだが。次はもう少し強くするか』

 

 「次なんてあるわけないでしょ。本物がどこにいるかわかって……え?」

 

 次は四人で囲みにかかる。ルーミアは両手に剣を握り、双剣とする。一人目の“俺”が左から迫る。ルーミアはそれを撃破。その直後、右と前から来る二人の“俺”を左右の剣で切り捨てる。

 だが、その三人の“俺”は全て霧消した。最後に残った“俺”が、やはり背後からルーミアに殴りかかる。

 

 「いっ!? いったぁ……! 何かこれ、おかしい!」

 

 もう気づいたか。そう、これはただの目眩ましではない。ルーミアが意図的に分身を優先して攻撃するように仕向けている。

 分身の核となる符には、主に三つの術式が組み込まれている。一つは、俺そっくりの容姿になるように見せかける術式。一つは、妖力を宿らせ、俺の注目に合わせてプログラムに従った動きを取る術式だ。これが一番複雑な術式だが、『百見心眼』の応用により、何とか数十体もの分身も操作可能である。最後の一つは、『念話』の術式である。分身には声が出せないので、すべての符から『念話』が同時に発動されるように設定し、声が聞こえた方向から位置を特定されないようにした。

 これらの工夫により、見た目から本物を判別されることを防いでいる。それに加えて、『虚眼遁術』を使用することでこの技の真価が発揮されるのだ。これだけの条件がそろっていれば、敵の注目を操作することなど容易い。敵の意識をわざと分身に向けさせることによって確実に俺を見失わせる。敵はこの術中において、絶対に分身しか攻撃できないのである。

 

 『どれが本物か、当てて見ろ!』

 

 俺は分身を率いて一斉に飛びかかる。ルーミアは俺に剣を向けることはなかった。据わった目をして、手を突き出す。その手に大量の妖力が集まっていく。

 

 「その必要はないわ。全部まとめて焼き払ってあげる」

 

 まあ、そうなるだろう。この術の弱点は広範囲に及ぶ殲滅攻撃だ。分身一つ一つではなく、全体を一掃するような攻撃に対しては意味をなさない。なので、ルーミアがこの行動に出ることは予想していた。

 

 「『ムーンライトレイ』!」

 

 ああ、さらば、俺が何日も夜なべして作った分身たちよ。しかし、その犠牲分はしっかりと活用させてもらう。

 レーザーがルーミアを中心にして回転し、次々に分身が消し飛んでいった。

 

 「これでキレイになったわ。やっと勝っ……」

 

 「まだだぁ!」

 

 俺はルーミアの真上にいた。レーザーが当たる直前、木を駆け登ってジャンプしたのである。ここならレーザーの射程外だ。ルーミアは、俺の声に気づいて空を見上げる。

 

 「な、太陽の中に隠れて……!」

 

 太陽に背を向け、逆光の中を進む。お約束とか言うな。薄暗かった森はルーミアのレーザーによって切り開かれ、日の光が降り注いでいる。ついでにルーミアの視線を太陽に釘付けにすることで目潰し効果も付加され、ルーミアが一瞬怯んだ。

 

 「勝負あったな。俺の勝ちだ」

 

 そのままルーミアを押し倒す形で着地した。首元に短剣を突きつける。これは月面戦争のときに折られたせいで、刃渡りが十数センチしか残っていない。新調した方がいいとは思うのだが、何となくまだ使い続けている。

 刃物を突きつけたものの、別に喉をかっ切ったところでこいつは死にそうにない。要は俺が一本取ったというモーションを示しただけである。

 さて、これで納得してくれるだろうか。

 

 「はは……あはは! 何言ってんの? 私が負けるなんてありえない。この程度で勝ったつもりでいるなんてね!」

 

 だが、ルーミアは俺を押し退けて空に飛び上がった。空中に停止した彼女の背中から黒い何かが出現する。

 

 「『ミッドナイトバード』」

 

 それは闇だった。ルーミアの二つ名は『宵闇の妖怪』。闇に関係する能力を持っているのか。現れた闇は翼の形になり、その大きさを増していく。ついには空を覆い隠す天幕となり、二枚の翼は折りたたまれた。

 閉じた翼が巨大なドームを作る。俺はその中に閉じ込められてしまった。

 



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