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119話「新生乙羅殺法」

 

 さて、もう俺に制約はない。こんなときのために開発していた新殺法をお披露目しようか。

 ルーミアは空から落ちてくる。その手には墨に漬けたように真っ黒の剣が握られていた。妖術で作られた剣だ。実体なきあやかしの術だが、その切れ味は言うまでもない。

 落下の勢いに乗せて幹竹割りのように俺の頭上へ剣が振り降ろされる。俺は鎖で体に巻きつけていた甲羅を取り外し、それで剣を受け止めた。今までのように妖力は出し惜しみしない。怪力を発揮してルーミアを押し返す。

 

 「ちっ、なんて馬鹿力なの……!」

 

 甲羅を盾にしてルーミアの攻撃を防ぎ、そのまま力任せに叩きつけていく。ルーミアの力もそれなりに強いが、俺を上回るような怪力はないようだ。

 

 「でもそんなにっぶい動きで私についてこられる?」

 

 それに対し、ルーミアは速度で俺を圧倒してきた。軽やかなステップで甲羅の防御の隙を突いてくる。甲羅で殴っても柳のようにしなやかに衝撃を受け流された。

 

 「さすがに大妖怪ともなれば、ただの力押しは通用しないか……ぐぶっ!?」

 

 脇を狙うように放たれた刺突を慌てて防ごうと身をよじったとき、無理な体勢を取ったためか胸に激痛が走る。傷口が開き、服が赤く染まった。

 

 「なに勝手に自滅してるの? そんな傷を負いながら私と闘おうとするなんて、よっぽど死にたいみたいね」

 

 「は、俺はいたって平常運行だぜ。このくらいの傷があった方が、血の気が抜けてすっきりすらぁ!」

 

 「その強がりがいつまで続くかしら? 『ムーンライトレイ』!」

 

 ルーミアの両手に妖力が収束する。レーザー型の妖力弾だ。付近一帯を焼き払えるような威力の巨大レーザー光線が襲いかかる。甲羅で受け止められる規模ではない。

 

 「ひぃぃ!? 逃げるが勝ち!」

 

 しかし、レーザーは一本だけではない。両手に一つずつの計二本だ。しかも手の動きに合わせて誘導してくる。

 

 「あはははは! これで終わりね!」

 

 俺はレーザーの挟み撃ちの射程に取り残された。

 

 * * *

 

 「これで私の勝ちね。あ、でも消し炭になっちゃったかも! せっかくのごはんが〜!」

 

 「くくく、人を勝手に殺してもらっては困るな……」

 

 ルーミアが驚いたようにこちらを見る。レーザーで一掃されたはずの場所に俺は無傷でいた。正確にはその地面の中に埋まっていた。

 

 「土遁『ぬかるみ地獄』……本来なら敵の足場を泥水だらけにしてスリップを狙う術だが、このような応用もできる。どうだ、この華麗な妖術! やってみたくなっただろう!」

 

 泥まみれになった俺は付着した土を撒き散らしながらドヤ顔をきめる。

 ルーミアは、なんだこいつめんどくせー、とでも言いたそうな目を向けていた。

 


 「しぶとい……もー、おなか空いてるんだから早く負けてくれない?」

 

 「それなら腹いっぱい食わせてやるよ。俺の拳をな!」

 

 いつまでもやられっぱなしではスカッとしない。そろそろ反撃だ。俺の符術より生まれし新殺法の真髄を見せてやろう!

 

 「水遁『毒霧煙幕玉の術』」

 

 俺は甲羅から野球ボールくらいの大きさの玉を取り出す。シーフ系職業ならお馴染みの煙玉である。しかし俺は和製アサシン。ごく普通の煙玉を使うような芸のないことはしない。

 この玉には火薬類は一切使われていないのだ。何十枚もの符を丹念に丸めて作った紙玉である。一つ作り上げるのに、気の遠くなるような作業を強いられるが、それだけの効果はある。

 俺は玉に妖力をこめて地面に落とした。その途端、玉から黒い煙が噴き出す。これはただの煙幕ではない。忍法『呪魂瘴』から抽出した術式の応用により完成した、“病魔の毒霧”である。

 陰陽五行の“水”を元としたこの術は、どちらかというと煙より濃霧と言った方が正しい。水は命の源であり、不浄を洗い流す清らかな性質をもつ。しかしその反面、生命の健康を損なうものもまた水である。汚水は疫病を運び、病人の体液から次々に伝染する。その負の性質を集めた妖術が“病魔の毒霧”だ。

 

 「な、なにこれ、ケホッケホッ! ひどい臭いだし、喉がイガイガする……何の嫌がらせよ!」

 

 「この程度の不快感で根をあげるとは、笑止! 修行が足らんでござエッホエッホゲホゴホッ! オェッ!」

 

 霧が目にしみる。足下に落としたものだからゼロ距離で煙幕をくらってしまった。

 だが案ずるなかれ、この攻撃は妖怪に対してさしたる効果はない。なぜなら、滅多なことでは妖怪が病気にかかることはないからである。対人間用に使えばこの術単体でも効果が望めるが。

 つまりこの攻撃は名前通り煙幕を張ることを目的としている。次の手への足掛かりというわけだ。

 

 「まだまだ、これで終わりじゃないぞ!」

 

 煙幕によって敵の視界を遮り、毒による不快感が集中力をそぎ落とす。ルーミアを撹乱したところで次の符をばら蒔いた。

 

 「水遁『雲集霧散・幻朧分身』!」

 

 散らばった符の一枚一枚に病魔の毒霧が吸い寄せられる。そして不定形だった妖力の水蒸気が塊を作り、人型の形をとる。その姿は俺と寸分違わない。毒霧で作られた俺の分身だ。

 現状においてこの技が俺の使える最も高度な符術だ。分身一体を作るために必要な符は一枚。しかし、その一枚を作り上げるまでに煙玉の数倍の時間がかかる。さらにこの術は『毒霧煙幕玉の術』の使用直後でなければ使えないという発動制限がある。今日は秘蔵の符の大盤振る舞いだ。

 

 「何をするかと思えば……子供だましもいいところね。どうせ幻術なんでしょ? あなたがたくさん増えたわけじゃないわ」

 

 『そう、これは幻だ。術によって作り出した分身に実体はない。したがって分身には攻撃力が全くない。お前は分身になんか気を取られず、この中から本物の俺を見つけだすだけでいいのさ』

 

 それができれば、の話だがな。

 



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