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118話「早速勧誘」

 

 「ゆうかりん、君のおかげで道が開けた。そこでどうだろう、俺と一緒に素敵な和製アサシンになって青春の汗をともに流」

 

 「嫌よ」

 

 せめて最後まで言わせて欲しかった。だが、こんなことでへこたれる俺ではない。

 

 「なら、紫」

 

 「お断りね。下心見え見えなんだから聞くまでもないでしょ」

 

 「ちぃっ! どこかにめちゃめちゃ強くて頭良くて性格良くて収入高くてスタイル抜群でさりげない気配りの中に悪戯心をくすぐる刺激的な感性を持ち合わせながらも従順なみめ麗しい妖怪はいないのか!」

 

 「理想高過ぎよ。性格云々は別として、強い妖怪なら当てがあるわ」

 

 「ほんとか!?」

 

 「幻想郷で一番高い山……『妖怪の山』の麓にある森に、最近厄介な妖怪が住み着いたの。名前は『宵闇の妖怪ルーミア』。大妖怪クラスの実力者よ。節操無しに暴れるものだから、そろそろお仕置きしてあげようかと思っていたのだけど」

 

 それはいいことを聞いた。栄えある門下生第一号の名誉を与えよう。紫にていよく利用されている気もするが、せっかく手に入れた情報だ。当たって砕けろ、である。

 

 「それじゃ、早速行ってみるぜ! ゆうかりん、お茶、うまかったぞ。またな!」

 

 「あっ! ちょっと待ちなさい、葉裏!」

 

 俺はゆうかりんハウスを飛び出した。まずは妖怪の山という場所を探してみようか。

 

 * * *

 

 「ルーミアー! どこだー! 出てこーい!」

 

 迷子の猫を探すかのごとくルーミアの名を叫びながら森の中を走る。と、そのとき視界を白い影が横切った。

 

 「お前がルーミアか!」

 

 「春ですよー!?」

 

 しかし、どうやら違ったみたいだ。よく見ればただの妖精である。そういえば、さっきからあちこちで妖精を見かける。妖精が多いことは自然が豊かな証拠だ。

 

 「だが、出会い頭に春ですよ、とはこれいかに。もうすぐ夏だぞ」

 

 「春ですよー……」

 

 あ、落ち込んでる。もしかしてそのセリフしか言えないのだろうか。春に関係する妖精かと推測する。

 

 「まぁ、元気出せよ。その代わりと言っては何だが、和製アサシンになりたくはないか?」

 

 「春ですよー?」

 

 妖精はきょとんとしている。アサシンとは何ぞや、といった表情だ。ここで懇切丁寧に説明してやってもいいのだが、今は先にルーミアに会っておきたい。

 

 「春です春です!」

 

 「何だ、どうした?」

 

 春妖精が突然騒ぎ出した。しきりにある方向を指差している。そちらに何かあるのか。

 

 「ついてこいと?」

 

 「春ですよー」

 

 春妖精は先導し始めた。俺を案内してくれるらしい。妖精は悪戯好きなので、俺をからかっているだけかもしれないが、もともと迷っているようなものなので、気にせずにその後へ続いて歩くことにした。

 

 * * *

 

 しばらく進むと森の奥近くへ来た。木が茂っていて日中だが薄暗い。

 

 「ワオーン!」

 

 退屈なので春妖精を突っついて遊んでいると、唐突にオオカミの遠吠えが聞こえた。幻想郷には野生のオオカミがいるのか、それとも妖怪か。答えは後者のようだ。妖力を持った複数の反応がこちらに近づいている。

 だが、どうにもおかしい。オオカミたちの注目を探るに、俺を狙っているようではなさそうだ。そのオオカミたちの後ろに異質な反応を感じた。オオカミは何者かに追い立てられているらしい。その妖力の大きさからして、狩猟者の強さは本物。これは当たりか。でかしたぞ、春妖精。

 

 「あはははは! 逃げても無駄よ。おとなしく全員、私のお昼ごはんになりなさい!」

 

 オオカミたちの姿が視認できた。死にもの狂いでこちらに走ってくる。

 感じる殺気。攻撃がくる。オオカミだけではなく、俺までも攻撃対象にカウントされている。膨らむ殺気に合わせて素早く横へ跳んだ。

 その直後、馬の駆けるような音が響いたかと思うと、オオカミたちが残らず串刺しにされていた。貫く得物は黒い剣だ。剣が弾丸のようなスピードで上空から射出されたのである。俺が一秒前まで立っていた場所にも剣が突き刺さっている。俺が狙われていることは相手の注目からすぐにわかったのだが……

 

 「は、はる、です、よ……」

 

 「春妖精!?」

 

 ノゥ! 俺は避けきれたが春妖精は被弾してしまった。あわれ、春妖精はピチューンという残念な効果音とともに消滅した。

 

 「あれれ~? 全部殺したと思ったのに生き残りがいるよ。あはははは!」

 

 攻撃してきた妖怪が姿を現す。それは目を奪われるほどの美女だった。男を虜にするような、大人びた魅惑的な容姿をしている。金髪と赤い眼は見る者に鮮烈な印象を残し、その美しさを引き立てる。

 黒い豪華なドレスに身を包んだ美女が、空から俺を見下していた。

 

 「お前がルーミアか?」

 

 「そうよ。それであなたは誰かしら?」

 

 「俺は乙羅葉裏、妖怪暗殺者その名も和製アサシン。お前、何でも景気よく暴れ回ってるんだって?」

 

 「そんなことないわ。むしろ抑圧されてるの。私の大好物が何だかわかる?」

 

 「好物って食い物か? さあ、人間とか?」

 

 「大正解! 人里にはあんなにいっぱいおいしそうな人間たちがいるのに、手が出せないのよ。偉そうな妖怪が出てきてね、人里を襲うなって言ってきたのよ!」

 

 「あー、それって八雲紫のことか?」

 

 「そう! 確かそんな名前だったわ。あの年増妖怪のせいでストレス溜まりまくり。ありえなくない? 妖怪なめてるでしょ。つーか、あんなの妖怪として認めないし」

 

 しかし、紫の実力には敵わないと判断したルーミアは渋々ながら従った。しかたがないので代わりに妖怪食いを始めたようだ。これもある意味、同族殺しということになる。

 

 「妖怪はおいしくないだろ。そんなまずいものをあえて食べる必要はないだろ」

 

 「しかたないじゃない、お腹が空くんだから! 私だってこんなゴミみたいな味がする低級妖怪なんか食べたくないわよ。私はこう見えても美食家なの」

 

 ルーミアは倒れ付す妖怪オオカミを見て眉根をしかめた後、俺の方を見つめてきた。その口もとは弧を描き、妖艶な笑みを作る。

 

 「あなたはそこそこおいしそうに見えるわ。ねぇ、食べてもいい?」

 

 ぺろりと舌をなめずるルーミアは痺れるような色気を放っている。思わず、うんいいよ、と頷きそうになったではないか。

 

 「うんいいよ」

 

 「やったー! それじゃあ、いただきまーす!」

 

 しまった。俺としたことが、ついうっかり肯首してしまったよ。欲望に忠実に、が俺のモットーである。

 

 「待て待て! 誰もタダで食っていいとは言ってないぞ。俺と闘って、俺を殺すことができたらその後食べていい」

 

 「でしょうね。それで、あなたが勝ったらどうしたいわけ? どうせ条件があるのでしょう? じゃなきゃそんなこと言う必要ないもの」

 

 「俺が勝ったら、俺の道場の門下生になってくれないか? そこでお前に暗殺拳法を教えてやろう。どうだ、わくわくするだろう」

 

 「えー、興味ないわ。めんどくさいからパス」

 

 「じゃあ言い方を変えよう。俺の弟子になれ。強制力にな」

 

 「要するに、あなたの奴隷になれってことでしょ? 始めからそう言いなさいよ」

 

 ルーミアは、むしろ俺の方から奴隷にしてくださいと頼みたくなるような笑顔で決闘を了承した。

 

 「安心して? すぐに終わらせて、ゆっくり食べてあげるから」

 

 「仲間(春妖精)の死を乗り越えた俺に負ける要素などないィ。返り討ちにしてくれる!」

 

 バトルスタート!

 


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