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114話「感動の再会?」

 

 そんなこんなでグダグダになってしまったが、俺は地上に出ることができた。ここが鬼たちの言っていた幻想郷か。

 実は幻想郷という名前自体は地底へ封印される前から知っていた。東の国の辺境に、妖怪が集まる恐ろしい場所があると人間たちが噂していた。別に妖怪が集まりやすい地というのは幻想郷に限った話ではない。地脈や風水の関係で妖力が充実した場所には自然に妖怪が住み着きやすくなる。しかし、ここは特別その傾向が強かったのだろう。大きな森や深い谷などの人の手が入らない秘境というのは、その地そのものを人間が恐れるようになる。その恐れが妖力となり、ますます妖怪がはびこる魔境となる。神が信仰を集めるのと同じ原理だ。

 そんな場所に自分から突撃していけば、トラブルに遭わせてくださいと言っているようなものだ。以前の俺は定住するよりも修行の旅を優先していたので、あえて幻想郷に近づくことはなかった。

 

 「まあ、思ったよりも良いところじゃん」

 

 「気に入ってもらえてうれしいわ」

 

 単に地底の濁った空気の中から解放されたので、そう感じただけかもしれないが。こうして太陽の光を浴びるのは気持ちがいい。地底にいたころは光合成ができなかった。地底は地上よりも妖力がたまりやすい場所なので、光合成をしなくても問題はなかったのだが、やはり自然のお日様に甲羅をさらして光合成をするのが一番である。

 

 「紫は幻想郷に住んでるのか?」

 

 「そうよ。私はここの生まれなの。この地の管理も私がしているわ」

 

 管理と言うと紫が幻想郷のすべての妖怪の頂点に立っているかのように聞こえるが、違うらしい。

 幻想郷には“人間の里”という場所がある。始めは吹けば飛ぶような小さな集落だったそうだが、次第に腕の立つ妖怪退治人が増えてきて、今では里の防衛程度なら自力でできるまでに成長したという。と言っても、ここの妖怪たちを総動員してけしかければ里の一つや二つ、簡単に潰してしまえるだろう。だが、紫はそれをしない。なんと人間の活動を容認しているのだという。

 紫が行っている幻想郷の管理とは、人間社会と妖怪社会の折衝である。

 

 「なんでそんな面倒くさいこと……まさか、お前は人間と妖怪が仲良く手を取り合って暮らす明るく健やかなまちづくりを目指しています、とか言うんじゃないだろうな」

 

 そんな鳥肌物の思想を本気で実現させようとする馬鹿は、あの尼一人で十分だ。

 

 「そこまでのことは思っていないわ。私は幻想郷を守りたいだけよ」

 

 「だったらなおさら人間の里なんて認めるべきじゃないだろ。こういう場所は人間に開発されていないからこそ豊富な妖力を保てるんだ。人間は排他すべきじゃないか?」

 

 「はあ……まったくもって前時代的な古臭い妖怪の考え方ね。どんな敵でもただ排除してしまえばいいという短絡的な思考をしていては、たとえ大妖怪といえどもこれから先の時代を生き残ることはできないわ。もっと視野を広げなさい」

 

 なにその態度、ムカツクーッ! お前だって古臭いにおいプンプンさせてんだろが!

 と、思ったが、紫の鋭い眼光を感じたので言葉にはせず心のうちにだけとどめておく。俺って大人だ。

 

 「全部口に出てるわよ」

 

 「なにぃ!? もー、俺ってば正直ちゃん。てへぺろ☆ この俺の天使の漢女スマイルに免じてここは許してくれ」

 

 その直後、俺は足元に開いたスキマの中に有無を言わさず引きずり込まれた。

 

 * * *

 

 「そんじゃま、気を取り直して幻想郷をぶらりと歩いてみますか。紫、案内してくれよ」

 

 スキマの中で散々シェイクされた後、元の場所に吐き出された俺は何事もなかったかのように立ち上がる。膝が少しガクガクしているが、なに、取るに足りない些末事である。

 

 「そうね……ならちょっとお茶でも飲みに行きましょう」

 

 「いいねえ、オサレなカッフェーでグットモーニングドリンコというわけね」

 

 茶屋に行くのならば、例の人間の里にでも降りるのだろうか。いや、そんなわけないか。自分の家に招待するということなのか。俺にはこれといった当面の目的がないので、紫に任せよう。

 

 「じゃあ、すぐに送るわ。このスキマに入りなさい」

 

 「それは嫌だ」

 

 いくら一瞬でワープできると言っても、あのスキマの中は気味が悪い。そりゃ、俺の頭の中の悪夢に比べれば何千倍もマシではあるが、好き好んで自分からダイブはしたくないのである。

 

 「だったら飛んでいく? 少し時間がかかるわよ」

 

 「俺は飛べんぞ」

 

 水陸両用妖怪ではあるが、空とは縁のない暮らしをしてきた。紫に運んでもらうにしても、この甲羅は重すぎるよな。甲羅だけスキマに入れてもらうか。というか、紫がそんな甲斐甲斐しいことを進んでするわけがない。

 

 「どんくさいわね。いまどきの妖怪なら大概は飛行術が使えるものよ。特に難しいことでもないでしょう?」

 

 そんなさも当然であるかのように聞かれても、無理なものは無理である。俺が使えるもともと使える妖術は『念話』、『怪力』、『妖力弾』の三つだけ。妖術符を作るにしても、どんな術式を組めばいいのか見当がつかない。

 『黒兎空跳』を使えば空気を蹴って移動できるので滞空もなんとか可能だが、スカイフィッシュのような動きを常にしていなければならないことに。疲れるよ。

 

 「まさか歩いて行く気じゃないでしょうね。さすがに付き合いきれないわよ」

 

 「じゃあオンブして空飛んで紫」

 

 「なんで私がそんなことしなくちゃならないの」

 

 「幼女がかわいらしくお願いしてんだろが! 上目遣いもしてんだろが! ここは俺のかわいらしさに胸キュンして二つ返事で引き受けるところだろが!」

 

 その直後、俺は足元に開いたスキマの中に有無を言わさず引きずり込まれた。

 


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