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102話「残された者」

 

 「ぐっ、うう……!」

 

 「大丈夫か?」

 

 寅丸がうめきながら何とか立ち上がる。白蓮も容赦がない。と言っても、このくらいは痛めつけておかないと気絶なんてしないだろうから手加減はできなかったのかもしれない。

 

 「せえい!」

 

 寅丸が宝塔に向けて槍を突き立てる。すると、あの法術障壁が現れた。やはり自動展開されるタイプか。近づかなくてよかった。術者がいなくなったのにまだ効果を発揮し続けるとは、白蓮も用心深いな。

 しかし、先ほど見せたような強い光はなかった。今度は寅丸の槍が打ち勝ち、障壁が破壊される。寅丸は宝塔を拾い上げた。

 

 「……神力がほとんどなくなっています」

 

 確か、魔界への扉を開けるためには宝塔の力が必須だったはず。神力が溜まるまでは白蓮を連れ戻すことはできないだろう。寅丸は明らかに気落ちした様子だった。

 

 「私が聖のことを守ってあげなくちゃいけなかったのに。こんなことになるなんて」

 

 「元気出せよ。白蓮らしいと言えばらしいじゃん。封印を解く方法がないわけじゃ……うおおお!?」

 

 「きゃあああ!?」

 

 言葉が続かなかった。突如として地震が起きたのだ。俺と寅丸は立っていることもできず、尻もちをつく。次から次へと問題が起きやがる。今度は一体、何事だ。

 寺全体が揺れている。その原因は床下から襲いかかってきた。光る糸の術式、俺が表で見たあの術だ。複数の糸が太く絡まり、縄を作り上げる。まさにクチナワのごとく鎌首をもたげた光の縄が、何本も床を突き破って現れる。

 

 「そうか! あの坊主たちの仕業か!」

 

 これは寺を包囲していた坊主連中の法術だ。聖域の外でこそこそと隠れながら白蓮の目から逃れ、大規模な設置型の術を発動させる準備をしていたのだ。

 白蓮の芝居のインパクトが強すぎて、すっかり忘れていた。やはり問答無用で邪魔しておけばよかった。

 

 「これは……“地底封印”の術です!」

 

 「ち、地底?」

 

 寅丸によれば、この法術は地底と地上を一時的につなぎ、悪しき存在を地下深くに封じ込めるための奥義らしい。

 ということは、人間は始めから白蓮をこの術で封印する気だったのか。よく考えれば、白蓮が自分自身を封印するなどというおかしな話を人間が信用するはずがない。人間側からすれば、白蓮は妖怪とつるんでいながら人にいい顔をして巧妙に隠しだててきた極悪非道の大罪人である。何か裏があると考えて保険を用意しておくに違いない。つまり、白蓮が自分を封印しようがしまいが、この術を使う手はずだったのだろう。

 術式の縄が寺を破壊していく。床から突き出て、天井をも突き破り上へ上へと伸びていく。そのうちの数本がこちらにも向かって来た。どう考えても、あれに捕まったら楽しげなことが起こる想像などできるはずもない。

 

 「寅丸! 逃げるぞ!」

 

 「待ってください、みんなを連れていかないと!」

 

 よりにもよって、大半の仲間が気絶している。白蓮の手によってな! ほんとにあいつ、何してくれとんねん。このままでは全滅である。

 というか、人間たちは最初から白蓮以外の妖怪たちも許す気などなかったのではないか。白蓮一人だけが責任をとるので、他は見逃してくれというのはあまりにもムシがよすぎる。全員まとめて一網打尽、ゴミは地底へ捨てましょうというわけだ。至極当然の理論である。むしろ、人間との約束をあっさりと信じた白蓮が馬鹿正直すぎるのだ。

 

 「私はナズーリンを運びます。葉裏は一輪と雲山を!」

 

 「わかった!」

 

 立っているのもやっとの状態である寅丸では、小柄なナズーリンすら満足に運べるかわからない。この光る触手たちの動きは意外と速い。余計な荷物がなかったとしても、今の寅丸では回避は困難だ。だが、それでも寅丸は仲間を見捨てるようなことはしなかった。歯を食いしばってナズーリンの体を担ぐ。

 しかたがない。俺が速攻で外に運び出すしか……

 

 「って、俺、今、手がねええええ!?」

 

 そうだった。両腕がなくなっていた。どうしよう。

 そんなことをしているうちにも、触手の魔の手が雲山に迫る!

 

 「やべえ! ドリブルー!」

 

 とっさに雲山を蹴り飛ばす。そして、見事に触手ゴールにシュート。雲山が捕まってしまった。

 

 「……雲山は諦めろ」

 

 「そんなっ!?」

 

 そんなことをしているうちにも、触手の魔の手が今度は一輪に迫る!

 

 「ちいっ、今度こそ華麗なリフティングを……」

 

 しまった、一輪を蹴ることなんて俺にはできない!

 その隙があだとなった。不意を突くように、俺の足元から触手が飛び出してくる。何だこの無理ゲー。

 

 「ぎゃああああ!?」

 

 「葉裏!」

 

 なんとか足で必死にもがくが、胴体に巻き付いた触手を振り払うことができない。その隙に、何本もの触手がさらに巻きついてくる。

 結局、一輪と俺も触手に捕えられてしまった。

 

 「なぜこんなことを……! 聖の言っていた約束と違うではありませんか!」

 

 「いいから早く逃げろ! お前らも捕まるぞ!」

 

 突っ立っているだけの寅丸は良い的だ。このままでは餌食にされてしまうのも時間の問題だ。

 

 「……この術は、私とナズーリンには効かないのです」

 

 だが、触手は寅丸たちを避けるように進んでいく。二人は捕縛対象にされていないようだ。

 この二人と俺たちには違いがあった。寅丸は毘沙門天の弟子である。妖怪と言っても、神格を持っている。名のある神からのお墨付きがあるのだから、そこいらの土地神より格は高い。ナズーリンも同じだ。

 これは悪しき妖怪、つまり仏敵を封じるための術であるため、神格を持つ二人には効果がなかった。

 寅丸はそれを考慮して、俺に一輪と雲山を運ぶよう指示していた。寅丸とナズーリンなら逃げ遅れても問題ない。ダメージを負った自分に代わって先に一輪と雲山を避難させるため、身動きが取れる俺を頼ったのだろう。役立たずでごめん。

 


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