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10話「バトルの末に」

 

 それから戦いは三日続いた。まじで。

 猪々獄は執拗に俺の露出部を狙ってくるので、俺は甲羅に完全避難し、甲羅ローリング走法で戦った。手足を引っ込めているので、殴る蹴るの暴行ができない。転がって体当たりしても避けられるのが目に見えているので、ちまちまと妖力弾を撃って攻撃した。たまに激辛蜜柑攻撃を織り交ぜたりしたのだが、二度も通用する相手ではなかった。

 その攻防が三日も続いたのである。観戦していた妖怪たちは、最初の一日は固唾をのんで見守っていたが、今ではこの泥仕合の有様に呆れて退屈しているようだ。

 戦いは俺が守りで猪々獄が攻めという形で延々と続いた。それにしても、猪々獄のやつ、なんて諦めが悪いんだ。疲労困憊でふうふう息をつきながらも、まったく手を休めることがない。5本あった槍もすでに4本が苛烈な攻撃の負荷に耐えきれず折れている。俺は甲羅に閉じこもって妖力弾を撃ち続ければいいだけなので、楽なものだ。この際なので、甲羅ローリング走法を練習してみた。今では自由自在にブイブイいわせることができる。さすがに猪々獄の動きはそれより速いので、攻撃は当てられてしまうのだが、うまい衝撃の受け流し方がわかってきたので、今では食らってもそんなに痛くない。

 

 「なあ、猪々獄。もうそろそろ俺の勝ちってことでいいじゃないか?」

 

 「いいや! はあ、ふう、まだだブヒ! まだ終わらんブヒ! ふひー!」

 

 「だったらお前の勝ちってことで、もういいからさ」

 

 「黙れブヒ! 俺様は負けないブヒ! 今に見ていろ! こんな甲羅、粉々に砕いてやるブヒー!」

 

 パキン!

 そのとき、何かが割れる音がした。最後の一本の槍も折れてしまったのか。

 いや、違う。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれ、猪々獄!」

 

 俺は甲羅ローリング走法で距離を取り、頭と手足を外に出した。猪々獄の方を見れば、その手に持つ槍はまだ折れていない。では、さっきの音は何だったのか、恐る恐る甲羅を確認する。

 猪々獄の攻撃に耐え続けた甲羅は、以前と変わらぬ傷一つない美しさで光っている。だが、背中側と腹側の二つのパーツのつなぎ目に違和感があった。そこに手を当て、思いっきり引っ張る。

 

 パカァ!

 

 「……開いた……」

 

 まるでドアでも開くようにすんなりと動いた。どさりと甲羅が俺の背中から滑り落ちる。俺は自分の体に目をやる。男だったころいた相棒はなくなっており、胸はほんのりとふくらんでいる。いや、そんなことより俺はその少女のおなかを見ることができたことに歓喜した。それはつまり、俺の苦しみからの解放を意味する。

 

 「とれたーーーーーー!」

 

 天に向かって手を広げながら嬉しさのあまり絶叫した。全裸で。これで、もうかっこ悪くない。普通の人間と同じ姿だ。普通って、すばらしい!

 

 「ぶ、ブヒヒヒヒ! とうとう俺様の攻撃がお前の自慢の甲羅を砕いたようだな! もうお前を守る盾はないぞ! くらえええ!」

 

 俺が幸せをかみしめていると、猪々獄が槍を突きだしてきた。なんて無粋な奴だ。しかし、今の俺は確かに防御力が落ちている。あんなぶっとい槍を食らったら、さすがにただではすまないだろう。

 猪々獄が放つ渾身の一撃。俺はなんとかそれをかわそうと横に飛ぶ。

 

 「……! な、なんだ!?」

 

 ぎりぎりで槍をかわし、牽制の拳を繰りだそうと思っていた。だが、自分の思惑とはまったく異なる事態が起きていた。回避のために行った横っ跳びによって、十メートルほど移動していたのだ。

 

 (体が軽い……!)

 

 どういうわけか、体が羽のように軽い。そうか、甲羅を脱ぎ捨てたからだ。甲羅分のウエイトがなくなった今、俺は以前以上のスピードで動くことができる!

 俺と猪々獄のスピードは互角になった。しかも、相手は疲労している。勝機が見えた。妖力弾で猪々獄を足止めし、その隙に素早く後ろへ回り込む。

 

 「これで終わりだ!」

 

 「ぐぼう! へばぶっ! ぐああああああ!」

 

 俺のラッシュが猪々獄をとらえた。そして、長きにわたる戦いにようやく決着がついたのであった。

 

 * * *

 

 こうして、妖怪軍の最高指揮官は俺に決まった。猪々獄は副指揮官である。いかに妖怪四天王の一匹といえども、三日の死闘の疲労は色濃く、戦いの後はダウンして動けなくなっていた。

 それから、甲羅について調べてみた。冷静になって考えると、もしかしてブッ壊れてしまったのではないかと不安になったが、そんなことはなかった。なぜか俺の体と分離しても妖力を失わずにいる。背中側と腹側のパーツが、二つにカパッと開く仕組みは便利なもので、これにより、甲羅は着脱可能になったのだ。甲羅の中を覗き込んで見たが、光を当てても真っ暗で何も見えない。手を入れると、ずぶずぶとどこまでも沈んでいく。中に何か入っていたので取り出してみると、激辛蜜柑だった。腐っていた。そっと中にもどした。どうなってるんだ、この甲羅。

 俺は甲羅を抱えて沢の水の中に入った。やっぱり甲羅がないと動きやすい。肩も凝らない。実に気分爽快である。体を洗っていると、改めて女になったのだなあと実感した。だが、特に感慨はない。周りには妖怪たちがわんさかいるのだが、その中で全裸で水浴びしても、羞恥心など起こらなかった。姿形は人間に似ているが、今の俺は似て非なる者なのだ。前世の頃の俺の感覚と、今の俺の感覚ではかなり違いが出ているのかもしれない。自分では、はっきりとわからないのだが。

 全裸森ガールとなった俺が、仁王立ちで体を乾かしていると、猪々獄がやってきた。

 

 「おう、体はもう大丈夫なのか?」

 

 「ブヒヒヒ! 俺様はそんなにやわじゃねえブヒ。それにしても、まさかその甲羅が脱げるとは思わなかったブヒ。俺様の負けだな。お前、強えじゃないか。見なおしたブヒ」

 

 猪々獄にさっきまでのトゲはない。自分が認めた相手には心を開くタイプなのだろう。戦いを乗り越えて友情が深まるというやつか。

 

 「いや、違うな。惚れなおした、言った方がいいかもしれんブヒ」

 

 「は?」

 

 「俺の女になれブヒ。俺の子どもを孕めブヒ」

 

 美少女とブタの化け物のカップリングって、それなんてエロゲ。ドン引きだよ。もちろん、丁重にお断りした。拳を鳴らしながら、丁重に、な。

 


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