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1話「死後の世界」

 

 人は死ぬと、どうなるのか。

 肉体の話ではなく、精神はその後、どうなるのか。

 有史以前から存在する疑問だろう。

 現代日本に生を受け、冠婚葬祭のときくらいにしか信心を発揮しないなんちゃって仏教を崇拝する俺は、死後の世界なんてものに明確なビジョンなど持ち合わせていなかった。

 しかし、実際に死んでみるとそうは言っていられない。

 俺は交通事故に遭った。乗っていた通学バスが交差点で対向車の大型トラックとぶつかった。何が原因だったのか、今となっては確かめようがないが、起こったものをとやかく言っても仕方がない。俺が生きていれば文句の一つも言っただろう。だが、あいにく俺は死んだ。

 事故の直後、大きな衝撃で体が吹き飛び、壁に叩きつけられ、それからの記憶があいまいだ。人間、不思議なものでぶっちぎりの恐怖体験に遭遇すると、妙に達観してしまうものなのか。そのときの俺は自分が死ぬことに根拠のない確信を持ち、その考えを冷静に受け止めていた。

 そして、現在に至る。

 

 「ぴー、ぴー!」

 

 俺は気がつくと、真っ暗な場所にいた。えらく狭っ苦しい場所だ。その窮屈さに耐えられず、必死に暴れていると、自分を取り囲んでいた壁が壊れた。

 外から入ってくる光がまぶしい。目がよくみえない。まぶたが溶接されてしまったかのようにぴったりと閉じて開かない。体の様子も何か変だ。まともに立つことができず、腹ばいになって前に進むことしかできない。とにかく、まずはここがどこなのか確かめなければならない。

 

 「ぴー!」

 

 幸い、耳はよく聞こえたが、ぴーぴー泣く声しか聞こえない。動物の鳴き声のような気がする。そのとき、盛大な地鳴りが起きた。何事かと驚いたが、そのおかげで目を開けることができた。光の痛さに耐えながら、ようやく周囲を確認する。

 そこには、山があった。巨大な岩山だ。それだけならまだよかった。なんと、その山、動くのだ。さっきから響く地鳴りの音、それはこの山の足音だった。

 これは何の冗談なのか。振り返ると、俺の後ろにはでっかい卵らしき物が何個もかたまっておいてあった。ほとんどの卵が割れて、中から人と同じサイズはあろうかという子ガメがわさわさ孵化している。そう、亀だ。あの甲羅を持った爬虫類のアレ。

 さっきからぴーぴー鳴いている声はこいつらのものだった。それにしても馬鹿でかい。なんの怪獣映画だ。いや、でかいのはそれだけじゃない。俺の周囲に生えている植物。木だと思っていたらどうも違う。これは草だ。バナナの木は本当は草だと聞いたことがあるが、そういう種類ではない。どうみてもそこらへんの道に生えていそうな雑草が、何メートルもの高さまで育っている。あそこに見えるのはタンポポだろうか。黄色い花は小さい物でも座布団くらいのサイズである。

 ここまでくればさすがに気づく。これは周囲の物が巨大化したのではない。俺が小さくなったのだ。信じられないがそう考えるより他にない。どうみてもこれは映画のセットとか、そういう次元に収まるものではなかった。

 そして、なぜ小さくなったのかと言うと、それについてもだいたいの推測はついている。いや、気づかないようにしていたと言うべきか。端的に言うと、俺は亀になっていた。子ガメである。俺の周りでぴーぴー鳴いている奴らと同類である。

 

 「ぴいいいいいっ!?」

 

 とりあえず叫んでみたが、当然人語は話せそうにない。

 落ちついて考えてみよう。これは、仏教で言うところの輪廻転生というものではなかろうか。魂は死後の世界で新たな生を受け、命は巡る。俺はあの事故で死に、そして次の生を受けてカメになった。しかし、自分で考えたものの、何とも信じがたい説である。

 しかも、俺は前世の記憶をもったまま転生したことになる。これはどういう仏の思し召しか。ヒトに転生できたならいざ知らず、よもやカメとは。カメに人間の心など不要ではないか。

 そんなことを考えていると、地鳴りが止んだ。岩山と思っていた存在が動きを止めたのだ。そいつはカメだった。とんでもなくでかい。俺の体が小さいため、大きく見えると言うこともあるが、隣に生えている草の大きさから目算しても普通のカメの域を超えている。ゾウガメとかそういうレベルじゃない。軽自動車くらいの大きさはある。

 そんな存在が現れたなら、普通の人間なら恐怖する。俺もその例にもれなかった。カメの本能がそうさせるのか、俺は自分の甲羅の中に引っ込んだ。そんなことをしたところでどうにかなるとは思えないが、関係なかった。とにかく怖い。

 しばらくそうしていると、落ちついてきた。俺が何かされる気配はない。恐る恐る顔を外に出す。

 巨大ガメが俺をガン見していた。

 慌てて甲羅に引っ籠る。

 

 『でーてーこーいー』

 

 「ぴっ!?」

 

 今、声が聞こえた。間延びして聞き取りにくい声だったが、確かに意味をもった言葉だ。それも、頭の中に直接響いてくるような、不思議な声だった。これは、巨大ガメの言葉だろうか。とすると、カメ語? そんなものが動物の世界にあったとは。

 

 『なーんーでーかーくーれーるー? おーかーあーさーんーだーよー?』

 

 どうやら、この巨大ガメ、俺の母親のようだ。

 


ウワアアア!


まだ前の作品を完結させてないのに新作を投稿してしまったあああ!


……まあ、誰も見てないだろうけどね……(泣

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