運命的セクハラ。
あれから、コマンドを私の髪を撫でるに変えたイシュさんは、つらつらと自分がタラシではないことを説明し始めた。取りあえず好きな人は出来た事ないらしくて、口説いた事もないらしくて。それから急に真面目な顔になったイシュは「かおるは特別なんだ」と一言だけ言った。
問題はそれを言われてときめいてしまった私です。
おかしい、これはおかしいぞ、おかしい。なんでこんなにイシュにドキドキてるんだろう自分。先程、特別とかなんとか言われた私は、不覚にもときめいて、言われた時のそのまま固まってしまっています。
とりあえず、この胸キュンを恋、と仮定する。
というかしなくても、私ってイシュの事好きなのか....?だって、さっきのイシュの言葉がまだ頭をめぐって、心はぽかぽかしてるのを感じる。それにさっきまで感じていた感情もきっと嫉妬で間違いないはずだ。....ううん、でもこれはない。正直自分でもドン引き。恋愛はもっと重いもの。少なくとも会って一日で好きになるはない。ないないない。そういう物に耐性がないから、きっとイシュの恋人まがいの優しい行動に流されたんだ。タラシじゃないにしても、あれは立派なセクハラだ。まったく。常識人の私はこうでも思わないと、意外に非常識な部分をまだ受け入れられそうにはなかった。
でも特別、なんて言われて気づかない程天然でもない。え、なにイシュは私のこと、好きなの?!恥ずかしくて、また顔が赤くなるのを感じる。大分長い事黙っていて、そろそろ沈黙も重くなってくる。
「イシュは、なんなの。だ、誰か好きな人でもいる....の」
しまった、焦ったあげくまた変なこと言っちゃったよ....!マリーナさんの教訓はいかせそうにもない。私はただ単に、イシュは私の事好きなの?って聞きたかっただけなのに....!これじゃ伝わらないし、イシュも変な顔をしているはず......そう思って恐る恐る見上げたイシュの、私を見下ろすまなざしはなんだか、熱くてどきっとした。
「だから言っただろう、俺の特別は、かおるなんだ」
イシュの答えに舞い上がりそうになった私はもう完全に、イシュの虜なのでしょうか...もうだめ!繰り返すようだけど、私たちは会って間もない....というか昨日会ったばっかりの、そんな関係だ。それが、こんな、こんな....!!!!これが、一目惚れという物なんでしょうか。
「本当に...?」
とりあえず、聞いてみようと思う。ちなみに私は冗談である事を願いたい......ていうのは建前だ。そろそろ自分に素直になった方がいい。だってその証拠に、冗談だったらどうしようとか、そんな事を考えて背筋がひゅっと伸びた。その心配もむなしく、私の質問にイシュは速攻で答える。
「本気だ」
決して自慢ではないけれど、男の子に告白された事は、ある。だけど今までは、ごめんね、で終わって来たというのに、今回は何が違うのか、こんなの初めてでどうしたらいいのか分からない。自分の気持ちはすぐそこなのに、受け入れて言葉にするには、どうしても常識とか恥ずかしさとか、混乱とかが邪魔をした。
「会って一日だ。それでも、惹かれるんだ。どうしようもなく」
あああ!追い打ちをかけるように言うのはずるい。あとその熱い視線も、ずるい。でも仕方がない事なのかもしれない、だって、順序だてて考えて行くと、いや、そんな風に考えなくたって、私はどうしたってイシュが好きだ。おかしい!くはないけど...とても信じがたい。ふいに、イシュが私の手をギュッと握った。あぁもう!だから止めてってばそういうの!そういうのがあるたびに.......あるたびに揺らぐんだ。もう全部関係なしに、この人の所に行かなきゃって気になる。
次にイシュがアクションを起こしたりしたらもう、多分もうダメだ。常識を捨ててノックアウト。でもすぐに恐れていた事は起きてしまった。イシュは私と少し無理矢理めに目を合わせて......
「好きだ」
と呟いた。がーんっとまるで雷に打たれたように、ビリビリとイシュの気持ちが伝わった。同時に嬉しくて泣きそうになる。あぁもう、ゲームオーバー。運命ってきっとこんな感じだ。上っ面では拒否したくても、心の底で肯定して、結局付いて行く。抵抗するのは無理だ。気持ちがついに、言葉になった。
「....私も、好き」