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異世界と私と時々ウサギ  作者: 酢昆布
第一章 異世界
8/51

タラシ疑惑。

今回は目線がコロコロ変わります。

分かりづらくです見ません。

イシュが例の王子様を連れて行ってから何分か立った頃。かおるは一人で棒立ちになっているわけにもいかず、それはもう時間を持て余していた。


そんなかおるに忍び寄る影が一つ。

影の正体は、自称親衛隊の、でも実のところただのストーカー軍団のうちの一人、マリーナだ。彼女の熱心さは親衛隊でも幹部を務める程で、中でも特にしつこいメンバーのうちの一人だ。重度のストーカーとも言えるだろう。そんな彼女は、実は貴族の令嬢だ。こんなのでもそこそこの地位にいられるから嫌だ。


マリーナは実はイシュとかおるが馬車から降り立った所からずっと後を付け、見ている。(ストーキングしている。)その経緯はこうである。


馬車が着いたのを柱の影から見守っていたマリーナは嬉しそうにほほえんだ。本当なら今日はお迎えはしない日なのだが、なんと言ってもわたしは親衛隊なのだからと変なプライドが彼女をそうさせていた。そう、イシュのファンとも言える面々は例のストーキングクラブだけではないのだ。ただ会員はファン達の中でもかなり顔を効かせており、お迎えをするのは週のはじめと終わりだけなんて取り決めも会員がきめたし、その他全部、会員にはなぞの優待があった。あくまでもファン達の中でだけだが。しかも会員になれるのは高い年会費を払える貴族だけという徹底ぶりだ。


そんなプライドを持つ彼女はイシュの馬車が到着したのを見て、扉が御者の手によって開けられる瞬間をじりじりと待った。イシュが降り立った瞬間サプライズという名の迷惑をかますつもりだったのだ。


だけど、その日はなにか違った、いつもは颯爽と出て来て足速に立ち去るイシュ様が今日はなぜかゆっくりと出て来たのだ。あらっ?!なんて思っていたら出るタイミングを逃した。でも気になる。ゆっくりと馬車から出てくるイシュをじっと観察していて、マリーナは気がついた。イシュは誰かの手を握っているのだ。だ、誰なの?!イシュが手をひくと、彼女もゆっくり出て来た。白い腕がすっと伸びて来て、ダークブラウンの長い髪が揺れた。どぎまぎとした様子で、少し拗ねた様子でもある彼女は文句なしに可憐だったが、それが、それこそがマリーナは許せなかった。


だ、誰なの!??!!!!?!誰なのよ!?!?!会員でもないのに、イシュ様と手をつないで、エドワール家の家名が入った馬車から出てくる?!!どこのお家か知らないけれど、イシュさまとあんなふうに.....っ相当いい家柄なのかしらね、見た事ないけど!!でもそれなら私の方が上に決まってるじゃない!


柱をぐっと掴み今にも殺しそうな目線で見ていたマリーナだが、見ると、イシュはマリーナが今まで見た事もないような笑顔で彼女を見ていることに気がついた。その笑顔を見て打ちのめされて、手元のカメラのシャッターを何度も切る。


そしてそのまま二人を尾行しはじめたのだ。


知れば知る程、仲睦まじそうな二人にマリーナもそろそろ怒りを隠せなくなる頃、イシュが前からやって来たアルデールとどこかに消えた。一人残された女。マリーナも曲がり並みにもイシュを慕っている者として、かおるを捨て置くことはできなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


仕事の事で、イシュに聞こうなんて考えたらいてもたってもいられずに、その場でぐるぐる歩き回りながらイシュの帰りを待っていると、隣の茂みから突然何か、あ、多分人。が飛び出して来た。


「ぎゃっ?!」


あっ変な声でちゃった。恥ずかしい。ていうかびっくりした....!でもよかった、獣とかだったら分かんないけど、私、食べられてたんじゃない?!ひとまず落ち着いて、飛び出して来た人をじっと観察する。


キラキラとなびく金髪の髪だとか、真っ青な目だとか、明らかに外人さんデスネ!わかります。それに俯いていてよく見えないけど、どうやら奇麗な人だ。でも何で茂みから?茂みから出て来て一瞬方向感覚がなかったのか、なんなのか、その女の人は今しがたやっと私を発見した。


そして、とても大きなその、あの、その、む、胸を揺らしながら私に近づいた。実は私、胸がないのがコンプレックスだったりするから、ちょっぴり憧れる。って、ていうか、なに!?何でこっちに来る外人さん....!その人は私のすぐ前で立ち止まって私を指差すと、その奇麗な目で私をきっと睨んだ。


「私はイシュ様親衛隊、幹部のマリーナと申します。あなたさっきから図々しくイシュ様にくっ付いてますが礼儀を知らないのかしら?」


「えっ」


思わずびっくり顏を晒しちゃってるわけだけれども、えっなにあ、マリーナ...さん?って言う人は、取りあえずイシュのファンなのかな、まぁイシュカッコいいし、優しいし、ない話ではないと思うけど....うん?それでこれはっつまり、牽制ってこと....?とここまで理解して私は焦り始めた。なんて言ったって、こんなベタな少女漫画のような展開は体験したことないし、どうしたら良いのかも分からない。ここに来てまだ二日程度だけど、焦ったり混乱したりしっぱなしだ。文化には苦労してないはずなのに、なんでここの人たちのキャラはこんなに濃いのか。とりあえず、これ以上怒られないように、理由を話す他なさそうだ。


「ご、ごめんなさい!実はイシュさんには昨晩お世話になりまして、それで今日はここにお仕事を見つけに来ました!!!」


「はあ?!!昨晩お世話になりました、ですって!?なに言ってるの?!大体、イシュ様の事をさん、だなんて無礼にもほどがあるんじゃなくって!?」


あああああ!!どうしよう!!なんか違う方向に話が流れて行くああああああ!!大事なのは後半なのに....!!でも私も悪いよね、昨晩お世話になんて、その、あの、あれしか連想できないし、余計怒らせちゃったのは私のミスだ....!怒りを滲ませてわなわな震えるマリーナさんがこちらに一歩よって来てちょっと怖い。思わず一歩下がる。


俯いたままのマリーナさんの手は赤くなっていた。


どうしよう、もうすっごく怒っちゃった....!こんなに怒ってて、しかも自分に怒りが向けられてるって初めての経験で頭がうまく働かない。さっき大失敗した手前、また口を開くのにも勇気がいる。マリーナさんが手をあげて、きっとここでビンタ!!!って身を固くしたけど、意外にも大きな咳払いをひとつして、マリーナさんは落ち着きを取り戻してくれた。


「まぁ、いいですわ。私達親衛隊でも手を繋ぐなんて事は日常茶飯事です。私なんてこの間デートに誘われましたわ!」


ほっとしたのもつかの間、得意げに胸をはるマリーナさんを見ながら私はまたしても、大混乱していた。えっ?ちょ、ちょっと待ってよ、手をつなぐのが日常茶飯事って、でも特定の人をデートに誘うって、今朝サラとエマが言っていた硬派なイシュとはなんだったのか。いや元々、わたしが知ってる(といっても出会って間もないのだけど)イシュと二人が言う、いつものイシュとは別人レベルで印象がかけ離れてたのでそもそも硬派というのは、わたしからしたら俄かに信じがたい話ではあったのだ。だって私の知っている限りイシュは、会って1日の女子のほっぺたに起き抜けからキスをしたり、そもそも同じお布団で寝たり、異文化だって流してたけどやっぱりおかしいのかもしれない、二人には悪いけどイシュが普段どんな人だと思われていようと自分の体験を信じてしまうのが人の性、こうなるとイシュがタラシにしか見えなかった。私に優しくしてくれたのも、全部そういう理由なのかもしれない、と思ったらちょっと悲しくなった。


「イシュ、さんは、親衛隊の皆さんにいつも優しいんですか?」


一日とはいえ、恩人。少しは好いてた相手の新事実がショックで、そうじゃないといいななんて思いながら質問してしまった。


「そりゃあ、イシュ様はいつも私達に良くしてくださりますのよ?会長などは特に」


マリーナさんの声には嬉しさと色々とがにじみ出ていて、ああ本当のことなんだと思った。やっぱりちょっとショックだった。なにがそんなにショックなのか自分でも分からない、だけど少しだけときめいていたのだ、恥ずかしながらまだ会って数時間のイシュに。でも、遊ばれてただけなんて。


悲しそうにうつむき、貝のように押し黙った薫を見てマリーナはほくそ笑んだ。いい気味。私を差し置いてイシュ様と親しくなろうだなんて、馬鹿がやること。この女とイシュ様がどういう関係なのかは知らないけれど、邪魔者はさっさと消すに限る。誰であれ、イシュ様を独り占めなんて許さない。そのとき向こうからイシュが歩いて来るのが見える。よし、ここでもう一押し、見せつけてやらなくては。この女に。


「あっイシュ様ぁー」


かおるを押しのけ、いつも通り、可愛く、可憐に走りよるものの、いつも通りスルーされてしまった。これでは会員形無しである。だけど、いつもの様に心底めんどくさそうな顔はしない。かわりにイシュ様の目にはあの少女が写っていた。なんとかしなくては、とイシュ様に再び駆け寄ろうとしたけれど、手で適当に払われて、それもできなくなってしまった。キーーーーーーーっ悔しい!!!だけどこんな事では終わらないんだからね!!!!とものすごくおなじみの捨て台詞を心の中で吐きながら、しかしその目には嫉妬と憎悪をたたえてマリーナは走り去った。あの女のどこがよかったのですかイシュ様っ.....!


______________________________________


「かおる?どうしたんだ?」


マリーナさんが走って行ってしまった後、王子様との話を終えたらしいイシュが私のところに来て心配そうに尋ねる。傍目から見てわかるぐらい、悲しい顔をしてるのかな。


「ううん.......別に何でもないよ。大丈夫。イシュはお仕事は?」


なにげに話をそらしたけど、イシュはそれでも食い付いて来た。正直今はそっとしておいて欲しい。失恋とも呼べないような、初めてのこの気持ちにまだ戸惑っているし、その張本人に構われるのはさすがにちょっとキツい。でもそんな私の気持ちは相変わらずくみ取ってもらえないようで、イシュは私のあごを持ち上げて、眉根をぎゅっと寄せる。苦しそうに、私を本当に思ってくれている様に見える。


「話してくれないか?マリーナか?マリーナになにかされたか、言われたか?」


うん、うん、間違ってないよイシュさん、でも言いたくない。だって怖い。私がこんな事言って、今の時点ではまだほとんど知り合ったばかりだしそんなことないと思うけど、嫌われたらいやだ。こわい。


そう思って、キッと口を結んだまま、いやいやと首を振る私に、イシュさんの眉がぴくりと上がった。


それからのイシュさんはすごかった。今まで仮面をかぶってたのかってぐらい、すごく強引で、私が話すまで許さないって感じだった。なんというか、まさかそんな行動に出るなんて思ってなかったからちょっぴり放心中です。何があったかって?聞きたいですか?初めは良かった、すこし強めに名前を呼ばれるぐらいで、わたしはそれでもいやいやし続けた。だけど、そこから段々ヒートアップして、最後にはイシュさんの顔がものすごく近いところまで寄って来て、「言わないなら、このままだぞ」って私の目をまっすぐ見ながら言ったのだ。元来照れ屋な私がそんなものに耐えられるはずもなく、私はしゃべらされるはめになったのだ。


まぁ、全然よくないけどそれはいいとして、私はさっきの出来事を洗いざらい吐いた。細かい事は抜かして、あくまでも大雑把に、イシュは私意外にも過剰に優しくしてるところがあるらしい事を聞いてちょっと悲しかったと。ってこれ告白みたいじゃ、なんて思い至った時には遅かった。イシュは少なくとも今まで見た中でも一番うれしそうに笑ってた。


かおるの呼び方がイシュさんとかイシュとかころころ変わるのは突き放して他人行儀に行くべきか、それとも仲良くしていくのか迷ってるからです

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