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異世界と私と時々ウサギ  作者: 酢昆布
第一章 異世界
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朝食の会話

朝食。いろいろあってがっぽり忘れてたけど、食文化どうなってるんだろう。

朝食になんか変な物出たら泣く自信がある。食は大切だ、どこに行っても。

案内された先の扉を開けるのにも変な汗がにじむ。ここで運命が決まる気にすらなってた。と、鼻孔をくすぐる良い匂いに気がついた。ふんふん、こ、これは!とろけるような黄身の目玉焼きに、こうばしい香りが魅力のふわふわのパン....!....の香りに似ている。匂いから察するに、見た目はともあれ変な物ではなさそうで、ひとまず安心して今度は思い切って扉を開けると、その先には見知った食材が並ぶ美味しそうなプレートが並んでいた。


た、助かった....!ありがとう神様。

そばにある窓が大きく開いていて、気持ちいい風が吹き抜ける。ここの季節はどうやら春だ。白い椅子とテーブルのセットに、イシュさんはもう座っている。着替えに時間がかかっていた自覚はあるので、待たせただろうかと申し訳ない気持ちになったけど、どうやら心配ないみたいですね!だってほら、椅子にすわるイシュさんはすこし俯きがちに寝てる。

うながされてイシュさんの正面にすわると、後ろに控えていたマーサさんが駆け寄ってイシュさんを揺さぶる。


「イシュ様!イシュ様!今日はかおるさまもいらっしゃるのに、そんなでは困りますよ!そろそろお目覚めにならないと...」


「....ん、あぁ、そうだな。すまない、かおる待たせたか?」


「あ、いえ、大丈夫ですよ、私こそお待たせしちゃったみたいで」


のそのそと起きたイシュさんがそんなことを言ってくるので、私も一応謝っとく。いや、それよりも、私は早く朝ご飯が食べたい!食べたいのだ!もう結構限界、こんなにお腹すいたの初めてかもってぐらい。そんな気持ちがにじみ出てたのか、イシュさんは目元を少しゆるめて、食べ始めるように合図してくれた。


お腹がすいてるのがバレたのがちょっと恥ずかしいけど仕方ないよね!食欲にはあらがえない、人は食べないと生きて行けないんだもん!手を合わせていただきますすると、そんな私をイシュさんが不思議そうに見ていた。あっそっか、ここは日本じゃないから、ここの文化にはこれはないのか...とちょっと寂しい気持ちになる。私、帰れるかな。


「かおる、それはなんだ、手をあわせるの。お前の国の文化か」


心なしか、表情が硬いイシュさんが私と同じように手をあわせながら聞いてくるのがなんとなく可愛かった。


「そうですよ、これは食物に感謝していただくっていう意味なんです」


「そうか、じゃあ俺もやろう」


そう言ってイシュさんも、いただきますと呟く。ってあれ?!私記憶喪失設定なのにこんな事説明して大丈夫か!?っと焦るけど、もう食べ始めてるイシュさんを見る限り何も思われてなさそうだ、ほっ.....とりえず今はいただきます!!!!!!!


むはーーーーーーーーーー!!!おいしい!なんだこれなんだこれ!おいしい!ここの食べ物は匂いも見た目も裏切らなかった。私がいつも日本で食べてたもの、いやそれ以上。一口食べるごとに力がみなぎるような感覚だ。恥ずかしめもなく、たくさん食べる。特にたまごがおいしくて、お皿に載ってた二つはすぐになくなってしまった。


そして、そんな私をじっと見つめるイシュさんに気がついたのは、かごに盛られたパンもなくなりかけた頃でした。なんでかイシュのご飯は全然減ってない。食べないのかな?食べないんだったら私が....じゃなくて!食べてる所を見られるというのは、案外恥ずかしいもので、きゅうっと顔が赤くなるのが抑えられない。


「美味しいか、かおる」


「ーーーっはい....!」


ああ恥ずかしい!なんでそんなことを、あなたのそのカッコいい顔で薄く微笑みながら聞くの?!食べたら?!自分の食べたら!?気がついたらコックさんらしき帽子をかぶった人も出て来て、良い食べっぷりだなぁとか言って笑ってるし、もう....もう.....!!!


それからやっとイシュさんも食べ始めて、今度は私がイシュさんを見る。ナイフとフォークを扱う手が慣れてて、流石貴族、なんてさっき知ったばかりの情報を思い出した。こんな人にあんな顔で見られてたと思うと本当に恥ずかしい。


エマが耳打ちしてくれた所によると、

「イシュ様が朝あんなに機嫌が良いのは初めてですっ!」らしい。さっきも眠そうにしてたし、恐らく低血圧なのだろう。朝が弱いのって大変。私とお母さんとお兄ちゃんは目覚めも良い方だけど、お父さんがそうだったのを思い出す。

だけどやっぱり恥ずかしくて、見られてたさっきの仕返しに、


「美味しいですね」


と微笑んでみる。へへーん!これでイシュさんも恥ずかしくなれば良いんだ!なんて思ってた私が間違いです……満面の笑みが帰ってきました。眩しいです。星が飛んでる。星が。


「昨日はよく眠れたか」


「はい、ベット、気持ちよかったです。ありがとうございます。」


「そうか…今日はどうするんだ?俺は城に行かなきゃいけない。…かおるもくるか?」


む?お城?.....お城か、そういえば隊長さんだったよね。どういう意図で誘ってくれたのかは分からないけど、この世界の事を知る良い機会かもしれないし、もしかしたら、働く所もあるかもしれない。そう、まずは働かなくては、と私は思ってた。このままここに居る訳にもいかないし、外に出て、すぐ働き口を見つけないと。なんにせよのたれ死ぬのはいやだ。


こうしてお城に行く事が決定しました。

すべては働き口のため!


お城に行くのでしたら、というマーサさんの一声で、さっきのドレスを脱いで、今度は白をベースにした花柄のドレスに着替えさせられる。ドレスといってもワンピースの様な物で漫画に出てくる様なものっそいふわふわドレスなんかじゃ勿論ない。でも、これぐらいなら私も着れそうなものを、着替えさせられるのは勘弁したい....!


支度を終えて外に出ると馬車の用意ができていた。って、馬車だ!馬車だよ!馬車なんて写真でしか見た事ない。しかも歴史の教科書の。イギリスでは式典の時に使うっていう話を誰かから聞いたけど、なんたって日本人。見た事あるのは頑張って人力車だ。イシュさんの髪色よりは濃い紺色の車体に、金文字でエドワールと彫られてる。家名かなにかかな?というか私、文字読めるんだ、というか!当たり前のように言葉が通じて本当によかった...!と今更ながら感謝する。


どうやら御者の人となにか離してるらしいイシュさんの所に駆け寄る。


「イシュさん、お待たせしましたか?ごめんなさい」


私より大分高い位置にあるイシュさんの顔を見上げると、イシュさんはちらりと私を見たあとに口元を抑えたまま後ろを向いてしまった。がーん。なんだなんだ、なにか間違ったかな、服、似合ってなくて笑われてるとかかな。とりあえず訳がわからないけど、ちょっとショックを受ける私とは裏腹に御者さんがにこにこ笑ってて、なんだかいたたまれない。


「かおる、可愛いな。似合ってる....攫いたいぐらいだ」


後ろを向いたままだったイシュさんが、こっちに向き直って私に言う。ちょっとだけ笑うオプション付き。う、わ....!そんなイシュさんがカッコ良くて思わず私まで赤くなる。最後に何を言ってたのか声が低くてうまく聞き取れなかったけど、似合ってるとか言われて、こんなに照れたのは初めてかもしれない。こんなの、イシュさんだから出来る芸当だ、ああ、なんて乙女殺し。もしかして、今までもこうやって沢山の女の人が引っかかったのかな。イシュさん、カッコいいしなぁ.....っ?!て、なんで落ち込む自分!イシュさんはカッコいいし、サラやエマが言ってた気を許したのは私がはじめて....(自分で考えて照れた)とかなんとかも、きっと半分はお世辞だろうし、今まで彼女だっていたんだろうし、抱きしめて来たりとかしてくるあたり今は居ないのかもしれないけど、これだけ優しかったらやっぱり持てるんだろうし、なんて、必死に弁解を並べ立てる自分に混乱した。ほんとに、この気持ちはなんだろう。


あーっ今顔赤い!一人葛藤して、もんもんとする私に気付かないフリをしてくれたのか、イシュさんが手を引いてくれて、馬車に乗り込む。


馬車の中にはシートが二つあって、どちらも見るからにフカフカだった。思わずくちからため息がもれる。だって馬車に乗るなんてそうそうない経験でしょ!?イシュさんが促してくれた席にすわる。と、すぐ前にイシュさんも乗り込んで、馬車はがらがらと動き出した。


動いた!すごい!馬のひずめの音が!なんてロマンを感じてられたのは最初の数分程で、私を射抜くかのようなイシュさんの目線に晒されて、馬車の中は苦痛だった。


さっきあんなこと考えちゃって、照れるんだよお!察してよお!心の中で叫んで、視線には気付かないフリをしてみるけど、イシュさんの目線はアンストッパブルだ。だ、誰か助けて....!


「それで、かおるは」


「はっはい!」


しまった気負いすぎてかんだし、声も裏返った。それより何より、うっかりイシュさんの方を向いてしまった。視線をほぼ強引に絡められて、死にそうになる。またほっぺたが熱くなって来た。ちょっとやだ、ほんとにほんとに、心臓にわるい!


「いつ、俺に慣れてくれるんだ?」


どうやら気負ってたのは私だけのようで、イシュは私がこちらを見たのを確認すると、いつも鋭い目線をすこしだけさげてそんなことを言って来た。慣れるって慣れるってなに!?私が分からないのを察してくれたのだろう、説明が続いた。


「かおるは、俺の名前はさん付けで呼ぶな。エマやサラのことはそのままなのに。それから、敬語なのもなぜだ?エマやサラは「あーー!わかりましたっわかりましたって、そうじゃなくて、そんなことですか?慣れるって」


そんなことかと安心したけど、なんか、そんなことをつらつらと説明されるのも恥ずかしくて思わず遮る。目の前のイシュは不機嫌そうな顔だ。あっしまった、怒らせちゃったかな?どうしよう、


「ほらまた、敬語をつかったな?」


あっーーーーー!!もう!可愛い、可愛いよこの人!さっきまで照れまくってた自分のことも忘れて、思わず心の中で悶える。敬語も呼び捨ても、お世話になる身としては申し訳なくてできなかっただけだけど、でもこんなにお願いされたら仕方ないよね。


「......っごめんね、い、イシュさ「さんもなしだ。」


「はい....」


敬語が抜けた私に笑顔を見せたイシュさんだけど、やっぱり勇気が足りなくてさん付けしようとした私をじとりと睨む。


「もう一回」


そう言ったイシュさん、いや、イシュに絶望すら覚える。

結局、お城まで慣れるまで、何度も何度も練習させられた。






主人が出発した後、使用人たちは。


「イシュ様ベタ惚れですねー」


「薫様も何だかんだ言ってまんざらでも無さそうよね。脈ありかしらね?うふふ♥」


「薫ってあの良く食べてくれたお嬢ちゃんかい?ありゃ、いい子だね」


「当たり前ですよっ!イシュ様の見込んだ子ですからね?」


「どうなるのかしらね」


「ふふっ楽しみですね」


と人の恋話に花を咲かせていた。

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