侍女、というらしい
目が覚めると、イシュさんの腕の中だった私は盛大に慌てた。ど、どうして!?昨日はすごく疲れていたから、お風呂に行ったくだりから何も覚えてない。と、ここで重要な事を思い出した。もう寝れればどうでも良くて、イシュさんと同じ部屋だってこと承諾したんだった....!それでもさ、これはさ、一緒の部屋って聞いたけど!けど!同じベットなのは聞いてないよ!!!それよりなにより、なんでこんなに大きなベットなのに、こんなに近いんですかイシュさん!
寝ているイシュさんの彫刻のような顔を見ながら悶えていたら、どうやら目が覚めたみたいだ。
「.....お、おはようございます」
「ん。おはよう。」
そこまで言うと、なぜか頬にキスされる。
えっ。なに?いまの自然な流れ!おはよう、ハニーみたいな!!それがこっちの文化なの?!でもこんなの完全にこ、恋人だし、イシュさんなんか慣れてて嫌だし、でも泊まらせていただいている身として、我慢出来る所までは我慢したいと思います!よし!私偉い!…お腹が小さくきゅるきゅる鳴った。あぁ、お腹空いたなぁ…このまま、大きな音が鳴るのも忍びないし、いっそ聞いてしまおう。
「あ、あの、朝ご飯はどうしますか?」
もしよかったら作ります的ニュアンスを込めたつもり。だけどそんなものはおねむのイシュさんには伝わらなかったようだ。
「…マーサが用意して…持ってくる。」
眠気をたっぷり含んだ声で、途切れ途切れに言う。ん?持ってくるって?ひゃー!セレブだ.....なんか申し訳ないなあ。ひとまず、朝ご飯はまだ先になりそうだ。あーあ。1人で起きているのも嫌なので、もう一眠りしようとした所で、ドアがぱーっん!と開け放たれる。私はびっくりしたけど、イシュはビクリともしない。
入って来た人は、年配なんだけど洗練した雰囲気があって、豊かな茶色い髪をお団子にして結い上げている可愛いひとだ。
着ているのはメイド服みたいだけど、最近流行りのメイド喫茶みたいなじゃなくてもっと、上品な感じ。
うん、ていうか誰なの!!?!すごい自然な流れで入ってきたということは、これは、まさかのお手伝いさんだろうか。さっきの朝ご飯の事と言い、イシュさんはお金持ちで間違いなさそうだ。部屋も大きいし、広いし。可愛い人はそのままのしのしと寄って来て、私に目配せすると、すごい早さでイシュを揺さぶり始めた。す、すごい!
「イシュ様!起きてください!マーサはまだそちらのお嬢様のお名前もお聞きしていないのに、なんですか!朝食の用意はできています!持って来てくれなどとはしたない事は言わないでくださいね!!さぁ!起きる起きる!」
可愛い見た目からは想像もできない様な声を出す人でした。そうそれはまるで....お母さん....ていうか今マーサって言った?!この人が、あの、結局持って来てはないみたいだけど、この人が朝食のマーサさん....!おお....!私がそんな事を考えているなんて想像もしていないだろうマーサさんはおどろきを隠せない私ににっこりと笑いかけてくれた。優しそうな笑顔にきゅんとする。っていうか朝食はやっぱり食べに行くんですね!でも、用意してくれてる料理人の人がいるということはやっぱりお金持ちだな。
「イシュ様は、しっかり準備して来てくださいね。薫様はこちらはどうぞ」
と、手を引かれてベットを降りる。私がマーサさんに連れられて部屋を出る時もまだイシュは起きてなかった。朝弱いんだね....
案内された部屋には5人ほどのメイドさんがいた。マーサさんがその中の2人を前に出して紹介してくれる。
「おはようございますっ薫様!」
「こちらの2人が主に薫様のお世話をする事となります」
「は?」
思わず耳を疑いました。......は?ちょっ、えっ私居候だし、え、なに来て1日だよ、いやむしろ今日だけだよ、そんないやむしろキッチンでジャガイモの皮むきしてる位がちょうどいいのに、えっなんでそんな....気まずいよ!それ以前に申し訳ないよ!
「そんな!もっ申し訳ないですから!私はもう適当に、なんていうかホラ、雑用でもしておくので....あと、もうすぐお暇するので、あとほら、そもそもお世話されるような身分じゃないですし」
わたしの必死の説得も彼女たちには届かなかったみたいだ、まったく意に介していないかのように、手前の女の子がにこりと微笑んだ。くっそー....これが文化の違い....
「いえいえ、私たちは薫様を慕ってお世話をしたいと思ったので、遠慮などなさらないで下さい。私、サラと申します」
そして始まる自己紹介。ああ、助けて....!なんでこんなことに...!
内心頭を抱えながら、どうしようもなくなって側に立つマーサさんをみたらまたにこりと微笑まれてどうやら逃げ場がなさそうなことが分かりました、はい。
さっき自己紹介してくれたサラは赤髪が印象的な女の子で、もう一人はサラとは対照的な青い髪の毛だ。二人とも染めているという感じはなくて、うーんなんというか、派手なんだけど自然な色味だ。
「私はエマと申します。」
二人の名前を聞き終えて、わたしも一言挨拶をする。も、もうやだ、なんなのここ、なんでこんなことに(二回目)どうやら私の意志とかはもう関係ないらしい、二人が手を広げてこちらにやってきたと思ったらパジャマを剥ぎ取られてました。
「ぎゃーーーー!え!なになに!!」
「どうかなさいました?」
私のあわってっぷりなんてどこ吹く風、ああこっちではこれが常識なの....?でもまあ、裸なのは一瞬で、すぐに後ろからバスローブみたいなものを着せられたんだけど。
その後も怒涛だった、顔を洗う。着替えさせてもらう。髪を結いあげる。全部ひとりでできるもんなんですけど、あの、はい。
こちらに着替えてくださいって、ドレスを持ってこられた時はびっくりした。なぜあるドレス!だけどそんな質問をしてる暇なんてなさそうに二人は働いていて、とてもじゃないけど口ははさめなかった。ヒモを解かれたりとか、途中まではよかったけど、バスローブを脱がされた時は、もう一回叫んだ。まあここでも無視されて、気が付いたらドレス着せられてました。でもさっきまでひとりで出来るもんだったけど、ドレスはさすがに無理そうだった。見ただけじゃドレスの仕組みが分からないんです。難しいんです、着るの。
着せられたドレスは着ていたパジャマとは対照的に、白。そういえば、私の制服はどこだろう?聞くと保存してあるそうで。よかったです。
「それにしてもかおる様、どうやってイシュ様とあそこまでお近づきになられたんですか?」
とは、身支度してる時のサラの言葉。なにを勘違いしたのか、慌てて興味ですよ!興味!って言ってたけど、イシュさんってそんなに難しい人なの?わたしはてっきりとってもフランクな方なんだと思ってたよ。うっかり口に出したら二人してすごい形相で否定された。
「いやいやいや!!!何をおっしゃるんですかイシュ様といえば釣れない美形って有名なんですからね、男なのに高嶺の花!THE 硬派!むしろ口をきいていただけない!社交場嫌いでお会いすることもない!とかちまたでは色々言われてるそうですが全部ほんとですからね、私たちはイシュ様の実家からのスライドですけど、うっかり他のおうちの使用人仲間なんかに漏らせませんよここ勤務ってこと」
「ほんとにその通りですよ、それでモテますからね、ほんとえげつないモテ方ですよ、周りの殿方がかわいそうなぐらいです」
なんかそれって私が知ってるイシュさんと全然違うね、って言ったら口を揃えてだから違うんです!かおる様すごいんです!!って言われた。すごいというかなんというか....という気もしないでもなかったけど悪い気はしなかった。むしろちょっといい気になってるような気がする、いけないいけない。こんなのは良くない。まあそのお陰で、昨日は寝る場所があったわけだし、今日の朝はお世話してもらったわけだし、結果よかったのか....?
「それにしても、イシュさん1人暮らしでしょ?このでかい屋敷に30人の使用人は多いでしょう。え?執事もいれたら31人?いや多い多い」
私が敬語をつかってたら、やめてくださいって有無を言わさぬ顔で言われたから、この二人にはタメ語だ。正直かなり抵抗あるけど、仕方ない。こわい。ちなみに、お手伝いさん30人はさっき聞いた情報だ。
「正直私もそう思いますけど、貴族なので。仕方ないと思いますよ?」
き....ぞ....く?
「えぇぇぇぇぇっ?!」
ホントにビックリだよ、どちらかというと文化にだけど。日本からはかけ離れてるなぁ。って、有名な部隊の隊長でしかも貴族って、どこのエリートだよ!それでモテるのか、もうこわいものなしだなイシュさん。
「ご存知なかったんですかっ?!」
当たり前だよ知らないよ!昨日会ったばっかだってば!私!ただの!居候ですから?
朝食を食べに行くまでの間、エマとサラがいろいろ話してくれた。2人とは上手くやれそう。よかった。
いっぱい新キャラ出てきました。名前忘れそうで怖いです。