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異世界と私と時々ウサギ  作者: 酢昆布
第三章 遠のく季節
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逮捕状は。

「婚約解消、してください」


「は、今、なんて?」


気に食わない。目の前でそんなことを口走った男が。思えば学校から久々に里帰りして、イシュの家を訪ねた、その後から様子は変だった。常にどこか遠くを見据えているような。それでいて、私の話にはちゃんと相槌を打っていて、時折こちらをじっと見据える。


イシュが徹底的に変だったのは街に出かけた時。ブティックの前で少女と、馬鹿でかいオオカミと、格好からして使用人らしき2人に会った。少女はイシュと目が合った途端に倒れ、それを見たイシュが一瞬、私の手を振り払って駆け寄ろうとした。そこからは、私が話しかけてもほとんど応答せずに、ただひたすらに少女が倒れた方向をじっと見ていて、その態度にムカついた。


それから9日経った後、あの冒頭のセリフだ。


アルデールと破断してからかき集めた、顔だけはいい男たちの中でも時折そういう類の事を口走るヤツがいた。けれどそれも、最初にそんな事を言い始めたヤツの家を父様が潰してからはそんな事もすっかりなくなっていたし、この男の元にもその噂は届いているはずだったのに。家が潰れるのが怖くはないのだろうか。例え現王子と親しい間柄の上級貴族だったとしても、父様が家を潰す事は容易い。


それほどまでに私と破断したいのには、どうにもあの少女が関わっているように思えた。折角、折角この私がイシュを1番のお気に入りにしてやっていたのに。もうお終い、イシュがいけないのよ、そんな事を言うから。気に入ってた分ひときわムカつくのでイシュと、あの少女と、両家いっきに潰してやろう。


「婚約解消、と言ったんです。マリア」


「何故?」


私が不快感あらわに精一杯眉間にシワを寄せても、イシュのポーカーフェイスが崩れる予定はなさそうだった。


「あなたがいない間に沢山の事があったんですよ、ブティックの前で会ったでしょう?あの少女と私は、特別な関係にあります」


私というものがありながらこの男は平然と浮気を報告していて、拷問にかけてやろうかと思った。あり得ない、完璧な私の前でよくもこうも間違いをさらしてくれた物だ。すぐにでも家を潰そうと思ったけど、やめた。そんな事をすれば、結局イシュとあの少女はくっ付いてしまうし、それで2人は幸せなのだ。それよりは、絶対に婚約解消なんて許さないことだ。


「あぁ、そうなの。だけど、婚約解消なんて許さない。ねぇ、イシュはご存知?私、綺麗なものも、可愛いものも、美味しいものも、大好きですのよ。気に入った物は全部手に入れて、毎日楽しく暮らすの」


ふふ、今度はイシュが動揺する番だった。あそこまで言って、私が承諾しないなんてあり得ないと思ったのかしら、だけど残念ね、私は特別な人間だから、全部手に入れる権利があるの。


「許して頂ければと願っていたのですが、」


刹那、何が起きたのかわからなかった。首にひんやりとした物があてがわれて、下腹からぞゎっと何か嫌な物が駆け上がって来るようなかんじがした。イシュが、剣を抜いたのだ。私の事を冷たい目で見下ろしながら、口元だけはいかにもかんじ良く笑っている。


「無礼お許しくださいマリア様。けれどこれで分かっていただけたでしょうか、婚約解消、させていただきたいのです」


レディに、その上王族で、完璧な私に婚約解消を迫り、挙句刃物まで当てた。



……殺してやりたい。



次の瞬間には私の手には、父様に緊急時用に手渡された違法の猛毒が握られていた。いつもはボディーガードがいるからこんなのは必要ないと思っていたけれど、本当に人に殺意を覚えたのは2回目だ。1度目はもちろん、全ての元凶のアルデールと破断した時。あいつは私よりも上級だから、手を出す事は出来なかったけれど、イシュなら。


イシュに見えない様に左手にくるむ様にしながら蓋を外し、いつでもかけられる様に準備して、その後はイシュにかけた後あの少女をどうやって苦しめようかと考える。あら、そうだわ、2人がそんなに結ばれたいと願っているなら、同じ種名の毒で殺してやりましょうか。同じ死に方で同じく死んで、仲良しこよしでいいじゃない。


いよいよ毒をかけようという時、イシュが突然に剣を引いてさやに収めた。今更になって後悔でもしたのかしら。遅いわよ。貴方はここであの少女もろとも死ぬの。その想像がどうにも楽しくって、思わず口元が緩んだ。



イシュが剣を引いた瞬間に跪いて許しを乞うのかと思ったのに、イシュが取ったのは全く別の行動だった。イシュは、絶対にイシュからは見えない様に気を使っていたはずの毒が握られている私の左手を凝視し、すぐに確信に満ちた目でドアに向かった。


「どうしましたの?」


これには私もすぐに反応した。だってこんな、私を完全に無視しているような行動は、


「はぃ、マリアちゃん確保ー!」


イシュが扉を何の断りもなく開けて入って来たのは、アルデールを筆頭にした王城勤務、4番隊。よくある光景だけど、違っているのはアルデールと、4番隊全員が対毒用のスーツをまとっていることだった。その男たちが私に向かって来て、あれよあれよという間に私の手には手錠がかけられる。何が起きたか分からずに混乱していてもイシュを殺してやりたいという気持ちは収まらなくって、すぐに毒をかけた。けれど手錠のせいでうまくはいかず、毒はぽしゃりと間抜けな音を立てて床に落ちた。


イシュは冷ややかな目でこちらを見おろし、アルデールが私をバカにしたように口を開く。


「はは、マリアちゃん全然分かってないでしょ。君、今逮捕されてるんだよ?」


ぬめぇ、と効果音がつきそうなべったりした声だった。だけどそれは私が理解する時間を十分に与えてくれて、その言葉を聞き取るか聞き取らないかのうちに腰をあげて逃げようとした。けれどそれもかなわず、ガシッと腕をつかまれて、腰が抜ける。


「マリアちゃんは往生際が悪いなぁ。実を言うとね、君の愛しの父様も逮捕済みだよ。逮捕状は、毒物違法所持及び生産、あと殺人。マリアちゃんも同じ逮捕状だけど、まだ殺人は含まれてないよ。イシュのおかげでね、感謝したら?」


「誰がそんなことっ!だいたい、同じ王族が私にこんな事をして許されると思って?」


私の今の全精力を使った一言だったのに、まるで小枝か何かをポキッと折るように簡単にあしらわれてしまった。


「あのね、さっき僕の父親も意思を表明したんだ。至極残念がってたけど、マリアちゃんはもう王族じゃないんだよ」


キツネのように目を弓形に細めてニッコリと笑いながら話しているアルデールは、その一言だけでいとも簡単に私を地獄に突き落とした。小さな頃から贅沢な暮らしをしてきて手に入らない物なんてないと思ったのに。




家が、潰された。





少しわかりずらかったかも。一応、マリアちゃん視点です(。-_-。)

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