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異世界と私と時々ウサギ  作者: 酢昆布
第三章 遠のく季節
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あと少し

「久しぶりですわね、イシュ!」


「はい。お元気そうで……何よりです」


にっこりと笑うマリアが俺にコツコツと歩み寄って来ると、途端に胸に広がるムカつきがこれが現実だと教えてくれる。

社交辞令に無理やりに貼り付けた笑顔を、どれだけ保っていられるか不安なぐらい俺はイラついていて、それを悟られまいと焦る心中が、さらにそれをヒートアップさせていた。


俺の腕を自分の腕に絡ませて、横でくちゃくちゃと聞きたくもない話を続けているマリアに適当に相槌を打ちながらも、頭の大半は、しばらくは会わないと誓ったはずの薫のことが張り付いていた。最初の数日は黙々と執務をこなす事で、気を紛らわす事が出来て居たが、最近は執務すら俺の気を紛らわすには不十分と言っていいだろう。いわゆる禁断症状。自分が薫を溺愛しているのも甘やかしているのも自覚しているが、正直、予想外の依存度だ。


「イシュのお家にお邪魔してもよろしくて?」


「は?」


ふいに発せられた発言に心からの疑問詞がでる。

家に?家っていうと、家、だよな。聞いていなかったせいで、どうしてそう言う流れになったのか理解出来ない。が、マリアが行くと言ったらいくのだろう。ていうか、なんで突然家だ。ずうずうしいぞこのクソが。いいじゃないか、心の中で悪態をついたってどうせ外には聞こえないんだから。


「今から、ですか?」


「えぇ、行きたいの」


と言っても、今はまだ昼頃なのだ。薫が起きてるんじゃ、行けるわけがない。

だったら夜の方がマシだろうと、説得を試みる。


「夜にしませんか」


「夜?なんで?」


「夜の方が、その、酒が美味しいでしょう?」


我ながら痛い言い分だとは思ったが、マリアは以外にあっさりと頷いた。

そうして、またズルズルと話し始めたマリアの話に意味のない相槌を永遠と打ちながら、時間だけが過ぎていく。


……………………………………………


「イシュ様、引っ越したんですね」


「え、あぁ、はい」


マリアといる時に上の空なのはもう普通の事だからそんなことは気にしない、だけどやっぱりやめようだとか、薫は寝ているだろうかとか考えると、足元がどうしてもムズムズしてしまって思わず立ち上がりそうになるのはいただけない。

通り過ぎて行く景色と比例してどんどん足が重くなって行くようだ。


「あ、つきましたわね!」


マリアの張り切った声と共に馬車が止まった。

重い足を引きずって家に入る。と、途端に鼻先をくすぐる薫の香り。それは俺を唸らせるには充分で、マリアに一言、言い訳を残して早足で薫の部屋に向かっていた。


ドアを一瞬の戸惑いもなく開けた俺はバカだ。ここまで、何をしに来たかというと、ただ薫の寝顔を見て願わくばキスを一つ、とか思ってただけだ。起きてる薫に会ったら、傷つけることは目に見えているから、それはどうにかして避けたかったのに、なぜ中の寝息を確認することなく入ってしまったんだろう。


実際、薫は起きていた。

薫は俺が来るのを分かっていたように俺に走り寄り、ぎゅっと抱きついた。


「イシュっおかえりなさい」


あぁ、やっぱり可愛い。だけど、抱きしめ返そうと伸びた手は、一瞬の気の迷いによって脱力した。なんとなく、マリアに触った手で薫には触りたくない。それに、やっぱり起きてる薫には会いたくなかった。こんなに、揺らぐなんて。

俺の微かな強張りが伝わったのだろう、薫がさっと離れて不安そうに見上げて来る。


あぁ、今俺の顔はどうなっているんだろうか。すまない、ごめん、ごめん、こんな事言いたくないのに、


「……触るな」



「……お前なに言ってんだよ。薫様?無視していいです」


一言も話さなかったクソ犬が、俺の言葉を聞いて低く唸りながら怒りの声を発する。録音されたかのように硬い声に、薫がひゅんっと息を飲むのが聞こえる。

一秒一秒、後悔の念が襲ってきて肩が鉛のように重くなっていく。


「………え、なんで」


俯いたまま顔をあげない薫は泣いているのだろうか。泣かせたくなんかないのに、でも、後少しだ、すぐに問題を片付けて戻ってくればいい。でもその間だけ、ごめん、ごめん。


「俺に関わるな、近づくな、それと……さよなら薫、ごめん、じゃあまた」


じゃあまた、という言葉に往生際の悪さがにじみ出ている。完全に突き放したりは出来ないから。

自己嫌悪しすぎて気持ち悪い。俺は何を躊躇っているのだろう、さっさと婚約解消して早く戻ってこよう。すぐに帰って来る、と心の中で呟いて扉を閉めた。




久々の更新となりました!

ほんっと全然更新できてなくて申し訳ないです!もっと頑張りますヽ(;▽;)ノ

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