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異世界と私と時々ウサギ  作者: 酢昆布
第三章 遠のく季節
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離れる靴先

イシュが城に泊まり込んで5日目の明け方に、遠くから馬のひずめの音が聞こえて来た。


眠くてはっきりしない頭でぼーっと音を聞きながら、体を動かそうと伸びをする。あの音はイシュだ。絶対、イシュが帰って来たんだ。

仕事だから会いに行かなかったし、寂しいからなるべく考えないようにしてたんだけど、本当はずっと会いたかった。

だから、頑張って起きて「おかえりなさい」って言ってあげよう。


「薫様、アイツ香水臭い奴といます」


淡い光の中でカイがつぶやいた。

うわぁ、びっくり。起きてるなら言ってよね。


「香水臭い?って女の人って事?」


だよね。香水をつけるのは基本的に女の人だ。

それともう玄関に着いたみたい。女の人のせいで完全にタイミングを失った。


「多分、女だと思います。薫様、行きますか?」


「うーん……いいや。待ってるよ。……多分お客さんでしょ?」


頭でこんな明け方に?と言う声が反響する。

ネガティブにしか思考が回らなくなってるんだ。不安。

あー!気になる!誰だろう?!


「カイ、やっぱり行こうかな」


でもその必要はなかったみたいだ。

部屋のドアが開いて、イシュが入ってくる。

カイの尻尾が不機嫌に揺れる。そんなに警戒しなくてもいいのに。


「イシュっおかえりなさい」


私に近づいて来たイシュにぎゅーっと抱きつく。

でも私の大好きな香りはしなかった。

代わりに鼻にまとわり付いたのは、オレンジブロッサムの香水の香り。

イシュのじゃない。


加えて、イシュはいつものように抱きしめ返してはくれなかった。


「……触るな」




「……お前なに言ってんだよ。薫様?無視していいです」


何かを察して私の頭は自動的に理解力の低下をはかったらしい。

聞こえない。カイとイシュの声も聞こえない。


ようやく絞り出したのは苦しい疑問詞。


「………え、なんで」


なんで、全然わかんない。全然。

まず何で近づいちゃいけないのかわかんないし、大体どうしてそんな突然なのよ。


「俺に関わるな、近づくな、それと……さよなら薫、ごめん、じゃあまた」


ますます分からない。

分かりたくない。受け入れたくない。

イシュの顔を見るのが怖い。見たら全てが終わってしまいそう。


顔をあげるのがただ怖くて、イシュの靴先を見つめる。

どれぐらいそうしていただろう。一時間か、一分か、一秒か。

イシュの靴先は離れて行った。


柔らかい夜着にカイが擦り寄る。

もう、立ってはいられない。


「薫様、ベッドに行きますか?乗ってください」


ベッドに横になると、丁度目覚ましが鳴る。

目覚ましは瞬間、私の頭を覚醒させた。


イシュは、行ってしまった。








もし、あの時顔を上げたら、イシュのくるしそうな顔に気づけただろうか?











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