相性
パルカさんの部屋を出てからは、イシュの執務室に向かって歩いていたのだが、
それはそれは大変であった。
何が大変かって?もちろんカイとイシュの機嫌が。
「薫様に必要以上に近づかないでください。旦那気取りが」
「あ?お前こそ薫に触るな。クソ犬」
「犬じゃなくてオオカミです。そんな事も分かんないんですか?アホ隊長」
「普段何にも出来ない使い魔の分際で喋るな。それからな、俺の方が薫と仲良いぞ。クソ犬」
「そのうちお前より仲良くなるし。だまれ」
「俺は「やめないともう口きかないよ」
『....』
と言う感じだ。喋らなくなった今も、あたりの空気は冷たい。
2人とも子供だ。なんだかお兄ちゃんを思い出す。
ふいに、カイがすり寄ってくる。...可愛い。
しかし、それに対抗するように、イシュの手が私の手をつかむ。
今私は2人に挟まれている状態だ。...歩きづらい。
それから、私を挟んでバトルするのは止めてほしい。
さっきなんて、後ろでイシュがカイのしっぽを踏んでたし。カイもカイで、イシュに激突してるし。
そろそろ私も限界だ。黙ってれば良いって問題じゃないんだよ?
「イシュもカイも私に触らないで。イシュ?今日は一緒に寝ないから。カイも!お風呂入れてあげようと思ってたけど、やめる」
「...っ!まて薫!分かった!もう喧嘩しないから!」
「薫様!ごめんなさい!お風呂入れてください!」
「ダメ」
それから2人はなかなか立ち直らなかったけど、私が歩きやすくなったからよし!
執務室に入るとルーさんの姿がある。副隊長と兼用なのかな?
「あっ薫ちゃん?久しぶりだねー」
「薫ちゃん?あなた何言ってんですか?僕の薫様に向かって」
「ひぃ?!」
「お前のじゃない。俺のだ」
「はぁ?」
...何やってんの。黙ってなさい!
「カイ止めなさい。ルーさん、ごめんなさい。今日、パルカさんに使い魔をつけてもらったんです」
「そ、そっか...強烈だね。しかも隊長と張り合ってるし」
「困ってます」
「うん、だろうね。隊長あぁ見えて、結構アホなとこあるから...あっすいません!アホとか言ってないです!ホントです!」
今度はイシュが剣を抜いてるし、今日は絶対、厄日だと思うんだ。
それよりも、イシュには仕事をしてもらわないとルーさんが可哀想な事になりそうだ。
「イシュ?仕事は?」
「あぁ、やる」
そういいながらも、自分の椅子に座って膝をぽんぽん叩いてるイシュ。
なんだソレは!座れという事か!生憎、怒ってますんで。
「カイと...」
はっ!カイにも怒ってるんだった!どうしよう。やる事ないぞ。
....ほらそこ!嬉しそうにしっぽ揺らすな!イシュも落ち込むな!
「...お城、探検に行って来ていい?」
上目使いで聞いてみる。はっはっは!イシュはこれに弱い!はず!
「...っ!ダメだ!」
そう言って目を押さえてしまう。
顔は真っ赤だけど。
「なんで?」
「心配だ」
「平気だもん」
「何が何でもダメだ...アルの妹のとこ行くか?」
ん?アル?王子の事?妹居たのか。でも良いな!こっちに来てから初の女友達!
でも、王子の妹だから姫?良いのかな。...まぁいいか。王子にも簡単に会えたんだし。
「行きたい!どこ?」
「一緒に行く。お前は来るな。あいつは極度の犬嫌いだ」
「犬じゃない!オオカミだ!」
「変わらない」
イシュの目的はこれか。
「カイ、待っててくれる?」
申し訳ない気持ちをこめてにっこり微笑むと、ぶつぶつ言いながらも了承してくれた。
姫の部屋は執務室からとても近かった。
それにしても大きな扉だ。見上げていると首が痛くなりそうだ。
しかも扉の両脇に兵士が立っている。まぁ、姫だしね。
何か言われるかな?と思ったんだけど、イシュをチラリとみると通してくれた。
兵士の手によって、扉が開かれる。
とうとうイシュのアホが加速し始めました。