倒れてた
王城勤務、7番隊、隊長のイシュは今日、自室にこもって始末書を書いていた。
全くあいつらは…。イシュの部下が不注意で、女王お気に入りの花瓶を割ってしまったのだ。
イシュに免じて許してもらえたものの、本当だったら投獄もない話ではない。
それで今に至る。もともと始末書は花瓶を割った本人が書くはずが、持ってこられたのは余りに残念な文章。
これでは、許してもらえるものも許されないと、隊長自ら手直ししているわけである。
「隊長お茶持って来ましょうか?」
そう声をかけるのは、少々影が薄い、7番隊副隊長、ルーさんこと、ルシファールだ。
影が薄いものの、剣の腕は確かだ。
「えっあぁ、居たのか。頼む。」
ルシファールは存在を無視されていたことを気にする様子もなく、お茶を持ってくる為に席を立つ。
イシュもまた作業を続けるつもりだったのだが、突然驚いた様な声が上がる。
「どうした!」
「お、女の子が、倒れてます。」
取り合えず寝室に運んだが、なによりも目を引くのは少女の格好だった。
白い太ももが見えてしまっているスカートに、何かの紋章が書かれたジャケットのようなもの。イシュは少女をまじまじと観察する。
ルシファールはいまお茶を取りに行っているので、へやに少女と二人っきりだ。
「....美人だな」
思わずつぶやく。実際少女の顔は整っていた。長いまつ毛に、ほんのり赤みの差した頬、ただ一つ欠点らしきものがあるとすれば、今は眉間にシワがよっていて苦しそうだ。それから、「ぐるぐる...」と呟いていたのが気になる。
自分でも気づかない内に少女に見入っていたようで、はっと気づけば、少女の顔がすぐそばにあった。あと少し近づけば、キスさえ出来てしまうような距離だ。そこで何を思ったのか、自分でも分からない、イシュは何かに引っ張られるように少女の頬にキスをした。
心地よい弾力と、ふわりと広がった香り。
思わず舌なめずりをしてもう一度顔を近づけようとして、我に返る。
イシュの父は決して美形ではなかったが、母が美しかった。
そんな母の血を受け継いだイシュは美形に育ち、幼少の頃から、女性関係に関して困った事がなかった。そのせいか、本人も女性への関心は薄く、うるさく騒ぎ立てるだけの生物、程にしか考えていない。もちろん人並みに性欲はある訳で、そんな時はもちろん女性を利用したりもした。だけど、それだけだ。誰か特別、特定の人に引かれたことなんてほとんどない。
だからこそ、今自分が取った行動と胸にわき上がりつつある気持ちにひどく混乱した。
「何をっしているんだ俺は…」
あぁ、頭痛がする。