こんの、役たたずが。
イシュ目線です。
あぁ、薫に触れたい。キスしたい....はやく帰りたい。
馬車の中、薫と別れてまだ数分しか立っていないのに、イシュはもうこんな事を考え始めていた。
「イシュ様、城に到着致しましたよ」
「え?あ、あぁ。今行く」
トムに言われてやっと気がついた。
気を引き締めなければ。これから戦いが待っているのだから。トムに礼をいい、外に出た..途端、目に入るのは帽子、帽子、帽子。
羽飾りや、動物をかたどったもの等たくさんの種類がある。まぁ、いつもの事だが。今日は羽飾りの方が多いか?
耳に入るのは、黄色い声。うるさい。うざい。ケバい。香水臭いんだよ。
「イシュ様ぁ!おはようございますぅ、噂聞きましてよぉ!!」
いつも通り、女の言う事には耳を貸さずずんずん進んで行く。やっと城に入ったころに気づいた。
ーーー噂?何の事だ?……アイツに確かめる必要がありそうだ。
「アルデール!!」
さっきまでついて来ていた女達も、流石に王子の部屋までは入ってこない。そのアルデールは、ビクッと肩を揺らし、冷や汗をかきながらこちらを向いた。絶対何か思い当たる節があるなコイツ。俺と、目を合わせようとしない。
「おい。噂とは何の事だ」
「まぁ、落ち着きなよ。朝の挨拶もまだだろう?」
引きつった笑顔で言っているが、そんな事でイシュの質問は止まらない。
「オハヨウゴザイマス、オウジサマ。で?噂ってなんだ?」
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「で、ばれたと。言うわけだなアルデール」
「そうなんだよねー。僕頑張ったんたけどねー。あはは。……ごめんなさい」
「まぁ、そのうちバレる事だが、こんなに早いと...…」
アルデールの謝罪は完璧に無視して、イシュが続ける。
「薫の存在は知られても、姿形は知られてないよな?」
「多分?」
「多分?っておまえそれでも王子か?」
「だって知らないんだよね。どうせ噂流したの、何だっけ。イシュ様親衛隊とか言う人たちでしょ?」
「…多分な。おまえそれを分かってて何故止めない」
「だって、女の噂は止まらんよねー。いやー、参った参った」
「………」
アルデールをシメてから、次に向かうのは執務室。女はもういない、良かった。
今のイシュはイライラ全開だ。その餌食となった悲しき被害者は、副隊長のルシファールだ。
「噂の事を話せ」
ルシファールは、昨日仕事のほとんどを任せて帰ってしまったイシュに文句を言おうと思っていたのだが、そのあまりの機嫌の悪さに口を閉じる。
「え?噂?あれですか。隊長に恋人が出来たとか言う」
「そうだ」
「昨日庭のあたりで誰かが見たそうなんですよ。確か…ダークブラウンの髪と目で結構可愛い、みたいな感じでしたけど...…これ薫ちゃんの事ですよね?隊長連れて来たんですか?」
ルシファールの質問は無視だ。無視。容姿まで知られていたか…...危険だ。というか、流石に何か手を打った方がいいのか?
「1度流れた物は仕方ない…ルシファール、何もしなくて良いからな」
「そんな事言われなくても何もしないですけど…」
バッコーン!
突然、扉が倒れてくる。沢山の兵士達と共に。漫画とかで沢山の人が盗み聞きをして扉ごと倒れるアレだ。
「おい、お前ら...…」
イシュの怒声を遮って倒れこんだ兵士達が悪びれもなく言う。
「隊長!!あの噂ってホントだったんですか!おらぁ、てっきりまた嘘かと」
「おめでとうございます!」
「可愛いってマジですか?!」
色々同時に叫んでいるが、言う事は一つだ。
「薫に手ぇだしたら命はないと思え。お前ら。アレは、俺のだからな」
低い声音に震え上がるも、直ぐに言葉を続ける兵士達に頭が痛くなったイシュであった。
倒れた扉にルシファールが下敷きになっていたのはまた別の話。
トムさんは御者をやってます!白いひげですw
アルデール王子にも親衛隊らしき物はありますよー。